「行くわよ」
そんな3人のコラボがあった次の土曜日、俺は宮崎さんに駅前に呼び出されていた。
「なに?急に呼び出して」
宮崎さんが俺を呼び出すということは十中八九音楽関連の話であることは間違いないのだが、それ以外一切分からない。
「忘れたの?雛菊さんと一緒に歌うって話があったでしょ?」
「そういえば……」
よくよく考えるとサケビの初配信時に決まっていたアスカとの歌ってみたコラボの収録をしていなかった。
結構前に絵も動画も完成している筈なのにどうして収録をしないんだろうと思っていたが、ついに今日収録を行うらしい。
「ちなみに今日は収録しないわよ?その前準備だから」
「え?」
今まで何の準備もいらなかったよね。何かあるのかな?
「というわけで行くわよ」
宮崎さんは俺の疑問に一切答えることは無く、前を歩き始めた。
それから電車に乗って数分ほど移動し、駅から数分歩いた。
「ここよ」
「え……?」
辿り着いた俺たちの目の前にあったのはアスカが所属するUNIONの事務所だった。
「入るわよ」
「う、うん」
前回はASMRの機材が必要だからという理由で事務所に来たわけだが、今回はこの事務所に必要な機材を求めてきたとは思えない。
それに今更歌ってみたコラボで直接対面して話し合いをしなければならないなんて事は無いだろうし……
「ヤイバきゅん!久しぶり!サケビちゃんも今日は来てくれてありがとう!」
理由が分からないまま事務所内に入ると、案の定ではあるがアスカが出迎えてくれた。
「久しぶり」
「こちらこそわざわざ場所を貸してくれてありがとうございます」
「良いよ良いよ。私にとっても大切な話だし。それに事務所が存在するって利点を存分に活かさないとね」
「どういうこと?」
「ほらほら、こっちに来てよ」
アスカはそう言うと、俺と宮崎さんを事務所の奥まで案内した。
「会議室……?」
そして連れられてきた部屋は会議室。
別に会議室を使う理由ってあるっけ?普通にオンラインじゃないの?
「うん。じゃあ入って入って!ヤイバきゅんとサケビちゃんを連れてきました!!」
「「失礼します」」
そして俺たちが会議室に入ると、目の前にスーツでビシッと決めたいかにも仕事が出来そうな女性が座っていた。
「初めまして。今日はご足労いただきありがとうございます。ささ、席に座ってください」
俺たちはその女性に促されるように席に座り、何故かアスカは俺の隣に座った。
「え?」
俺たちとUNIONの会議ですよね?普通正面じゃないですか?
「まあまあ。良いから良いから」
そんな俺を見てアスカは笑いながら誤魔化した。
「では早速お話を始めましょうか」
女性はそんな状況を一切気にせずに本題に入ろうとしてきた。
「え?え?」
アスカが隣に座っているのもおかしいし、正面の女性はそもそもどちら様ですか。マネージャーではないですよね。
「私、こういうものです。本日はよろしくお願いします」
すると女性は俺に名刺を渡してきた。
「ありがとうございます……ってえ?」
名刺に書かれている筈のUNION社員という肩書は存在せず、フリーボカロp『レンガ』とだけ書かれていた。
「はい。私、『マイロック』の作者のレンガです。あの時は歌ってくださってありがとうございました」
「こちらこそ歌わせていただいてありがとうございました」
そう。レンガさんは俺が宮崎さんと収録した『マイロック』の作者だ。あの曲のお陰で爆発的に伸びたので一度お礼をしておきたいとは思っていたが、なぜ今ここに?
「というわけで、今回あなたたちが歌うのは既存の曲ではないわ。レンガさんがあなたたちに向けて作る完全オリジナル曲よ」
「ええ!?!?!?」
宮崎さん。そういうのは事前に言ってくれませんかね。
俺はそんな抗議の意思を宮崎さんに目で訴えた。
「やっぱり歌い手は本人だけ事情が分からないまま高みに辿り着くものじゃない?」
「ちょっと何を言っているのか分からないですね」
さも常識かのように語っているけど、多分どの人気歌い手も流石に事情は分かっていると思いますよ。
「とにかく、あなたには歌ってみたじゃなくてオリジナル曲を歌ってもらうことになるわ。これはもう決定事項よ」
「いや、良いんだけどね……」
別にオリジナル曲をやりたくないわけじゃないんですよ。説明が欲しかったって話なんですよ。
「そのオリジナル曲を作るにあたって直接交流をさせていただきたいと私がお願いしまして、この会が開催されたってわけです」
「はい」
「わざわざありがとうございます」
「いえいえ。では早速何個か質問をさせていただきますね」
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