『だってさ、君がネットの海に飛び込んだ瞬間からずっと一緒に居て、今でも仲が良いし。噂によると実際に膝枕をしたらしいしね。つまりはそういう仲でしょ』
「どういう噂だよ」
『ここは内緒。とある情報筋から聞いた話とだけ。信用できる人からのタレコミだからほぼ確定だよ』
「は?」
ASMR配信の後にアスカに対して実際に膝枕をしたことをどうして知っている?あそこに居たのは俺とアスカ以外はUNIONのスタッフとVtuberしかいない筈。そこに居る奴らが情報をバラすのか??
『その反応、本当と見て良いかな?』
「違うに決まっているだろ。ネットで知り合ったやつとどういうタイミングでどういう状況になったら膝枕が出来るんだよ」
ただ日頃のお礼としてやっただけなので俺としては別に話しても良い内容だが、アスカ側はそれだけで許されるわけが無いので否定する以外に道はない。
『いや、私の中では滅茶苦茶有名なアレだね。詳しくはここでは言えないけど』
「なるほど。つまり適当に付いた嘘ってことか」
視聴者もAがアスカだという事は察しているようだったので無理矢理に嘘の方向へ進めることにした。
『Y君がそういうのならそう言う事にしておくよ』
「はあ……とにかく違うからな。そして柴犬、わざわざコラボに誘った相手を炎上させようとするな」
『別にこのくらいで炎上しないでしょ』
「柴犬の基準ならそうだな。炎上なんて気にせずにやりたいことをやるような人間だものな」
『その言い方酷くない?まるで私が炎上を気にせずに自分勝手な行動をしている人間みたいじゃん』
「その通りじゃないか?大半の人間はそう思っているんじゃないか?」
他人に成りすまして乗っ取ろうとしている奴が何を言っているんだ。
『Y君は私の唯一の大事な大事な味方だと思っていたのに……』
「唯一って。さっきの情報提供者はどうした」
俺とアスカの膝枕シーンを報告する奴はどう考えても味方だろうが。
『あっ、そうだったそうだった。味方いたよ』
「……」
思い出したかのように味方がいたと言う柴犬。冗談で味方がいないと言ったのだろうと思っていたが、まるで本心で味方がいないと思い込んでいるようだった。
まあ、バレたら終わりの乗っ取りを行おうとしているから疑心暗鬼になっているのだろうな。
こんな計画をリアルの知り合いには言えないだろうしな。
『まあ、それはそれとして。味方にはなってくれないって言ってたけど、今後コラボ依頼したら参加してくれるよね?』
「それは柴犬次第だな」
『え?ここは社交辞令でもコラボしてくれるよって言うもんじゃないの!?配信者とかVtuberって表向きはどれだけ嫌いでも良い顔をするって話だよね!?!?』
「別に俺は配信者でもVtuberでもないただの一般男子高校生だからな。ここで何を言ったところで今後に支障出ないからな。なあ視聴者?」
柴犬とのコラボを断りつつ、視聴者に対して俺は九重ヤイバとして参加していないと念を押した。
別にいい顔をしても良いのだが、俺たちの計画が上手くいかなかった時の保険だ。
視聴者たちはそういう意味で捉えているわけでは無さそうだが、言葉にしていたという事実が大事である。
とアスカが言っていた。
『酷い……無職の人間にすることじゃないよ……』
「じゃあ再就職しろ。話は収入を得てからだ」
『そんな……』
「ってことで今日の配信はそろそろ終了なんだが柴犬、何か言う事はあるか?」
『えっ!?まだまだ続ける気だけど!?そしてY君が配信を終わらせるの!?』
「別にこの配信を長時間にしたところで意味ないだろ。もう1時間半は喋ってるぞ」
協力要請あたりから完全に台本から外れているしな。台本に戻ることは出来ないだろうしさっさと締めに入った方が良いだろう。長々と無駄話を続けて視聴者が離れては困るからな。
『それもそうなのかな……?』
「そうだな。だから感想を言え」
『う、うん。分かったよ。私は今日の配信で散々言った通り、仕事を辞めて無職になったからこの柴犬としての活動を今まで以上に活発にしていくよ。だから元々から柴犬のファンだった皆も、今日の配信で私を知った人も皆応援してくれると嬉しいな。ってわけで明日の19時から配信するから皆見てね!!!!ってことでY君、感想をどうぞ』
柴犬は台本で用意されていた理想的な感想を述べた。明日の19時に配信をすることを除けば。
明日の19時はゆめなまの公式がゆめなま所属のVtuber数名を集めて企画を行う時間なのだ。
別に強制されているわけではなく、他のメンバーは普通に被せていたりするのだが、水晶ながめは絶対にその時間帯は被せない。
本人が配信で一切そのことについて語っていないので柴犬は知らなくて当然だが。
まあ、柴犬はゆめなまじゃないから気にしなくなるというロールプレイでやっているかもしれないが。
とそんなことはどうでも良い。ここからが攻撃の時だ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!