「辺見奪……?」
探ってみると、辺見奪という名前のVtuberに行きついた。交流が無かったので知らなかったが、かなり著名なゴシップ系Vtuberらしい。
こいつが水晶ながめが実は25歳だというデマを流した張本人らしい。ツリッターのプロフィールに本人はしっかり裏どりをしてから公表しているから間違いはあり得ないと書いており、視聴者もそれを信じているらしい。
実際これまでのゴシップネタは全て事実だったらしく、暴露された側が謝罪するか引退している。
「なんとも厄介な奴だね……」
ゴシップネタを扱うのであれば9割くらいデマであってくれよ……
「とりあえず根拠を確認して潰す以外に方法は無いか」
俺は配信部屋に向かい、辺見奪の配信のアーカイブを見ることにした。
『どうも、辺見です。今日は結構大きなネタを持ってきたから楽しみにしていてくれ。ってサムネみりゃ分かるか。まさかあの某事務所がそんなことするとは夢にも思わなかったよ。なんてな、』
その後も辺見はなかなか本題に入らなかったのでさっさと飛ばすことにした。
『さて、最後に皆さんお待ちかね、水晶ながめさんの年齢詐称疑惑について話していこうじゃないか』
『水晶ながめさんはゆめなまの2期生で、去年の6月、当時は高校1年生としてデビューした超人気Vtuberだ。まあ、プロフィールだけ見ると普通だね。妖怪とか神様とか居る世界な上に、Vtuberに年齢なんてあってないようなもんだし。デビューから何年たっても年齢が変わらない奴とか、500歳にしている奴だって居るわけだし。俺だって20歳ってことにしているけどどう考えてもそれ以上だってのは分かるだろ?』
『だが、水晶ながめさんだけはVtuber界の中でも特別だ。彼女は現役高校生であるという事を前面に押し出した活動をしているからな。ファッションブランドとのコラボ然り、渋谷100とのコラボ然り、女子高生であることをアピールし、本物の女子高生の共感を得られたから出来たことだ。だから他のVtuberと違い年齢詐称することは決して許されない』
ながめってそんなことやっていたのか。普通に気づかなかった。言われてみればとある時期からファッションセンスが急激に良くなっていた気がする。
『ま、とは言っても大学1年生とか2年生だったら特に何も無かっただろうけどな。高2以上の1歳差2歳差は誤差だ』
『だが、水晶ながめの実年齢はそれよりも遥かに上だった。なんと、28歳だったんだよ。流石にありえないよな。お前の高校生って10年前だろうが。現役高校生を前面に押し出してくんなよって話だ』
ここまでヘラヘラした口調で話していた辺見が、突然怒ったような口調に切り替わった。
しかし、顔は思いっきり笑っていた。辺見のVtuberのモデルがそこまで良いものでは無いことも影響しているだろうが、ほぼ確実に内心でも笑っているだろうな。
『俺はこのタレコミを受けてショックだったよ。可愛くて清楚で嘘なんてつかなさそうな可愛い可愛い女子高生だと思っていた人が実は高校生でもなんでもなく、嘘つきのアラサーだったんだぜ?そんな俺の怒りを皆にも共有してもらうためにこいつを見て貰おう』
そう言って辺見は画面を切り替え、動画を流し始めた。
『こんにちは、柴犬です』
そこに映っていたのは柴犬と名乗る、顔を馬の被りもので隠した女性の動画だった。
画質は結構悪く、恐らくかなり昔の動画だろう。
『今日は健康ドリンクを集めて、最強の健康ドリンク、キング健康ドリンクを作りたいんですよ』
『はい、皆さん。絶対に不味いと思ったでしょ?だけど安心してください。私は世界で女子高生の次に人気な女子大生なんですから。どんな飲み物であっても、最終的には甘くていい香りのする可愛いピンク色のドリンクになるんですよ。というわけで、レッツゴー!!!』
と動画の本題に入ろうとした直前で辺見は動画を止めた。
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