「1つだけ、願い事を叶えてあげる」
そう言って、夢の中の妖精は消えていった
起きると午後の2時だった
森目那由多《もりめなゆた》の朝(昼)は遅い
「なんか夢見てた気がするけど忘れたな〜 あたしが唯一忘れちゃうのは夢の中 願い事が...なんだっけ?」
今日で学校は終わり 夏休みだ
タクミ襲撃事件から一ヶ月以上経ったが、叶向《かなた》との関係は良好だ
叶向の日記効果だったり、那由多の何らかの工作だったりで(ほっとけって言われても干渉してくるのが那由多らしい)、叶向への僕彼氏ですよ宣言がすんなり受け入れられるようになってきた
「凛真《りま》〜、帰り私の家寄ってってね〜!」
心なしか僕に対する親しみも上がってきてる気がするし、彼女の記憶に少しずつ僕が受け入れられ始めてるのかもしれない
あれから色々思い出を作った
休日、映画館へ行ったり、海へ行ったり、叶向の部屋で...またキスしたり... それ以上にも進展しかけたが、例のごとく那由多に邪魔された... くそっ!那由多め!
罪悪感があるのは、あの日の叶向の記憶がないことをいいことに、叶向にお願いされた、“公園の男の子探し問題”を解決せずに、有耶無耶にしてしまっているということだ 公園の男の子は僕であり、僕は叶向の彼氏である以上、那由多とはそういう関係になれない しかし、このままでは叶向と那由多の記憶の問題は解決しない いつかどうにかしようと思い続けていたが、解決策が思いつかないまま一ヶ月が過ぎてしまった
「今日、那由多に本当のことを言おう」
「お邪魔しま〜す」
一ヶ月前には初体験だった女の子の家も、もう慣れたものだ(心臓バクバク)
「お〜彼氏さ〜ん! いらっしゃい〜!」
「那由多、いたのね! あなたの部屋で私たち、いちゃいちゃしようと思ってたのに!」
「やめんか〜!!!」
「2人に話があるんだ!」
「「話?」」
「で、その公園で那由多を助けたって男の子は、この僕なんだ!」
真実の告白をすると、部屋にカチカチに凍っているかのような空気が漂う
十数秒の間、誰も言葉を発さなかった 発せなかった
ついに那由多が口を開く
「...気づいてたの」
那由多は泣きじゃくれてしまっていた
「初め...会った時は...ちょっと似てるなってくらいだったけど...あたし...記憶力いいから...もしかしたらって...ずっと思ってて...でも...小さい頃だから...だいぶ...顔は変わってるし...でも...面影はあるし...見れば見るほど...似てるし...でも...でも...」
泣きべそをかいて、一旦言葉に詰まる那由多
続けた言葉は、
「でも...お姉の彼氏だから...」
その言葉を聞いて、叶向も塞ぎ込むように泣いてしまった
「那由多ァ...」
その弱々しい声を聞いて、僕も釣られるように泣いてしまった
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