なぜ叶向《かなた》は僕のことを日記に書かなかったのか
授業の間、そればかりを考えていた
昨日の僕たちのやり取りを思い出す
「僕が思い出させてあげるよ!何度でも!叶向が僕のこと何回忘れても!」
「私に凜真《りま》のこと、彼氏だって認めさせて!」
僕に思い出させてもらえることを期待したのか...?
彼女は寝ると記憶をなくしてしまう しかし基準は分からないが、同じことを何度も繰り返したり、強い思入れがあったりするものは、稀に忘れず次の日の記憶にも残り続けることがある
そうだ、僕が約束したんだ
2人の楽しい思い出をたくさん作って、ずっと覚えていられるようにするって
確かに日記に書けば、僕が彼氏だって分かるだろう
でもそれじゃだめなんだ、僕を彼氏だって分かっても、僕を覚えているわけじゃない
2人でどんな関係を育んできたのか、どんな楽しい思い出を共有したのか、覚えているわけじゃない
「思い出させるんじゃない! もう一度やり直すんだ!」
パコーン!
「印田《いんだ》!うるさいぞ!授業中だ!」
先生のチョークが飛んでくるって令和の時代でもあるんですね~
全ての授業が終わり、放課後
「またあなたですか」
帰る仕度をしている叶向
「森目さん、昨日森目さんに告白されて、それで僕たちが付き合うことになったのは本当なんだ」
「しつこいですね...」
「でもそれはもういいんだ」
「?」
「昨日のことはなかったってことでいい それで、改めて僕からお願いするよ 僕と、付き合ってください!!」
「......」
「昨日のことはなしにしてもやっぱり僕、森目さんが好きだ 授業中、必死にノートを取る森目さんの横顔、体育の授業、一生懸命走る森目さんの姿、記憶がなくなって大変なはずなのに学校で頑張る森目さんの姿を見てると、やっぱり好きって思う! 森目さんから見たら、今日初めて会ったくせにいきなりなんなんだって思うかもしれないけど、もりm...叶向がやっぱり好きだ!」
「...でください...」
「え...?」
「勝手に盛り上がらないでください!!!」
走り去っていってしまった
ガビーン。
人生初告白は完璧に振られましたとさ。。。
「叶向~もう寝るのー?」
「は~い、お母さん明日もよろしくね~!」
「日記付けときなさいよー」
「もう付けたよー おやすみ~!」
私はベッドに横たわり目を閉じる
「今日学校で会ったあいつ、変なヤツだったな~」
【今日は色々あったけど、やっぱり一番印象に残ってるのはあの変なヤツかな。いんだりま?
私の彼氏なんだとさ。絶対あり得ないなんていったけど、どうなんだろう。
正直私のこと好きって言ってくれたのは嬉しかった。
起きて昨日の記憶がないのは悲しい。寝るのは不安だ。今日の私が死んでしまうから。
あいつは不安に包まれてる私に少し光を与えてくれた。
変なヤツだったけど。。。
私のことを彼女にしてくれる男の人なんているんだろうか?
いつか大好きな人の彼女になれたらこの不安も吹き飛んで楽しいことでいっぱいになるのかな。
...昨日の私、恋しやがって】
森目叶向《もりめかなた》の日記より
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