早苗に無言で、脱がされたララ……
いやいや、これって、そうなる流れ……だよネ?
「早苗さま、あ、あノ……!」
たしかに、認める……わたしは彼のことが……
でも突然すぎて、手足が震える。
体に合わせるように犬耳も揺れた。
「……わ、わたし、経験なくテ……!」
だから準備させてほしい、優しくしてほしい……
そこまでは言えず、ぶんぶん手を振る。
それでも返事がない。真剣なまなざしの彼が、目の前に立つ。
「……っ! お、お願い。な、なにか、言っテ……」
だが言われない。
彼は無言のまま、お腹を優しく、時に強く押して触ってくる。
「ひっ!!?」
次に、急に抱きしめられ、胸に顔を埋められた。
「!!!? さ、ささささ早苗さま!? う、嬉しいけど、そんな――」
「…………」
彼は手を伸ばし――ほっぺた、顎、首筋を触っている。
そのまま彼の手は伸び続け、腕、そして手首から指先に。
「……う、ぅ」
触れられたところに、官能的なしびれが走る。
その後、彼は、緊張で汗ばむ脇下に触れた。
「……あぁ、ッ!」
なんでそんなところを触って。
その手が、くびれ、腰――と、どんどんイケナイ方向にいって……
「……あっ、ゥ」
すごくみだらなことをしている気分。
全身から汗が出て、体が火照るのを感じる。
だが早苗はそのころ――
(……皮膚炭疽の特徴のある皮膚病変は見られない)
口には出さず、そう思っていた。
だが、ララがそんなことを知る余地はない。
と、早苗が目を丸くする。
「……!」
「……え、ど、どうした……ノ?」
なにを見て……わ、わたしの汗?
胸部に顔を近づけては、くんくん汗のにおいをかいでいる。
「……は、わぁあああ! はずかしい、ヨ」
情欲的な声が漏れ、涙目にすらなるララ。
しばらく体をじっくり観察されたあと、ようやく解放される。
力なくベッドに倒れたララに、早苗がマントを下げて、ようやく声を出した。
「ララ。驚かないで聞いてくれ」
「……あ……うン」
恥ずかしさのあまり、布団を掴んで抱きしめた。
な、なにを言われるの、わたし……
「君は人間だ」
「……エ?」
想像とはかけ離れたことを言われ、ララは言葉を失った。
◇
「……つ、つまり、わたしは、早苗さまと同じ? 亜人じゃないの……?」
「うん。今すぐ君が人間か、確かめたかった」
手を引かれ、ララは部屋の真ん中に座らされる。
「音の大きさが同じか教えて」
ララの周囲をゆっくりと歩いた。
手をパン、パンと周囲で叩く。
「音の大きさ、同ジ」
「これは何色?」
雑貨屋で買ってきた、カラフルな手ぬぐいだ。
「……赤と緑。その次は青だよ。次も青かナ」
「そうか。よかった……」
ほぼ人と同じ。違いは光に対する対応力が、少し低いぐらい。
最後に窓へ歩く。
「52メートル先に花屋がある。なんの花の匂いがする?」
「えっ! わたしの鼻、そこまではよくなイ……」
再度、安堵の息を漏らす早苗。
「なら君にはうつらない」
「……えッ?」
「君は人だ。たぶん、優れた聴力を持つ人間」
本当はDNAで判断したいし、内臓の位置も画像検査したいが……
「仮説だけど、君の祖先は1000年以上、地下で生活をした。地上の音に気づきやすいように、耳の位置が上がった」
「ア……!」
「日光に触れないから、色素の薄い白い肌を持っている。夜目もきく。どうかな」
「……うん。獣人は、地下や洞窟で生活すル」
あってる、とララが小声で言う。
「地下への穴は、時独耳幅より狭くなる?」
「どうしてわかるノ?」
「君の耳の横幅が、肩幅とおなじぐらいだから」
つまり感覚器官だ。体温調整用ではない。
「あと体毛がなく、皮膚は柔らかい。理性があり、会話できる大脳がある」
つまり人だった。最後に、と続ける。
「君はかなり汗をかく。汗はヒトの、最強の体温調整機能だ」
「あ、だから、汗ヲ……」
思い出して、真っ赤な頬をララが毛布で隠した。
(……あと彼女の耳は、普通の人よりも敏感だ)
ケモミミは耳栓の役割もあるのだろう。
ララはどこか嬉しそうにしていた。
「えへへ……わ、わたし、が……早苗さまと同ジ……」
「今のがいいニュース」
「……え、うン」
「悪いニュースは、僕はたぶん、肺炭疽になった」
聞いたことのない不吉な単語に、ララが不安がる。
「はいたン……?」
「レアな感染症で、よりにもよってエボラより致死率が高い……」
はぁ、とため息を付く。
なんでこんな……いや、異世界だからか。
「肺炭疽の致死率は90~99%で、人から人――つまり、僕からララにはうつらない」
「え!? どうして、そんな病気ガ……」
「この辺りが、炭疽汚染地域だから。皮膚が黒くなり、痒がる人たち。多すぎる皮製品や羊毛などの製品……」
下水の出来事を思い出す。
「僕は肺から感染しているね。下水の動物の死骸をどかすときに、エアロゾル化した芽胞を長時間、吸入した」
「……っ!」
ララが泣きそうな顔をしている。ほぼ理解しているらしい。
「……早苗さまが死ぬ……いやダ……」
「重症化したら確実に死ぬ。その時は、諦め時だ」
泣いているララに早苗は続けた。
「でも」
「……うン」
「重症化する前に、ある薬を使えば大丈夫」
ララは袖で涙を拭いて、顔を上げた。
「……っ!! て、手伝う。なんていう薬?」
「抗生物質って言うんだ。20世紀最大の発明で、多くの人命を救った奇跡の薬」
1300年の時を超えて、この手で奇跡を生み出す。
それが生き残り、この世界すら根本的に変える唯一の道。
「残った時間は、どれぐらイ?」
「そうだね……」
早苗は肺炭疽の疫学から、日数を予測する。
「5日後に症状が出る。7日目に重症化。9日目に死ぬ」
ちなみに、ほぼ当たる。
サヴァン持ちの早苗は、昔から診断能力が不思議なほど優れていた。
(しかし、2週間あれば自信があるが、あと7日で抗生物質か……)
ララには言わないが、ほぼ無理だった。現実的じゃない。
一息ついて、早苗は不安そうな、でもやる気一杯のララを見る。
そして大事なことを言った。
「ララ。もう、服着ていいよ」
「……あっ!」
ララは頬を赤らめて、隠れて服を着だした。
重症化(死の確定)のタイムリミットまで、あと7日。
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