【フルボイス】追放されたノーベル賞受賞の科学者、異世界に最強国家を作る ~チート無しで転生するが、現代知識で文明を再興~【エアルドネル戦記】

Naina R. Uresich
Naina R. Uresich

第九章 貿易街イスロールⅡ Isrore

第9-1話 敬。ちゃんと舐めて

公開日時: 2023年4月25日(火) 19:03
文字数:1,944





「早苗さま、おはよウ!」

「おはよう、ララ」


 ベッドから起き上がった早苗は、体を伸ばす。

 体調はだいぶ良くなった。


「腹痛もない。よかった……」

「あ、この街では、川の下流でトイレしないと、処刑されるかラ……」


 早苗はふと気づく。


「この街に住んでた?」

「うん。奴隷の前は1年、この街にいタ」


 そっか、と言い、宿の外に出る。

 改めて見ると、建築技術は明らかに王国より高い。


「早苗さま! ごはん食べヨ!」


 ララが少し離れた位置から、酒場を指さしていた。



 中に入る。早苗はワインを二つ注文した。本当は水を飲みたいが、不安だ。

 ミートパイを注文し終わると、少女を見る。


「懐かしい?」

「うん!1年間、獣人ってことを隠しながら、近くの宿で仕事した。掃除してパン焼いて、お金貰ったら、本借りてタ」

「……じゃあ、紙の大量生産と印刷をはやめるか」


 なんてブツブツ言っていると、

 ララは笑顔で首を横に振った。


「でも、本もより好きなものあるかラ……」

「なに?」

「そ、その……好きな人と、一緒に時間を過ごせば、何でモ……」


 早苗はワインを飲んだ。

 右手で頭を押さえ、考え込む。


「早苗さまは、前の世界で、心菜さんとどんな感じだったノ……?」

「……え?」

「恋人だったんでショ?」


 少し無言となったあと、答える。


「同じ場所で仕事してたよ」

「あ、同じ研究なノ?」

「ううん。僕は医学だから」

「そ、そっか。あの、デートとカ?」

「……たまにしたよ」


 ララが興味津々に続ける。


「心菜さんの前に好きな人はいタ?」

「……いないかな」

「早苗さまのことを、好きな人ハ?」

「いた」

「どれぐらイ?」

「わからない。多かった」


 この辺りの話は、嫌な記憶がある。

 ので、あしらってしまう。


「…………」



 急にうなじが痛くなるので押さえた。

 シーンとなってしまったので、早苗は続ける。


「あんまり興味がなかったんだ。たぶん、ララと同じだよ」

「……エ」

「どんなに親が男を紹介しても、振り続けたでしょ」

「うン……」

 そう言って早苗は、持っていたジョッキのワインを飲み干し、食事にありついた。


「まぁ、この世界では、知らない異性にあまり話しかけられない。良かったよ。ジロジロ見られるけど」

「……あ、それは、未婚の女性にとって、自分から男に話しかけるのは「はしたないこと」だかラ」


 あとたぶん、ジロジロ見られるのは、彼がカッコよくて、綺麗で、天使みたいだから。

 エアルドネルの男は汚くて、彼とは大違い。

 ララは思うが、言わなかった。

 

 

「ララ、たくさん店がある」

 

 食べ終わった後、露店を見て回っていた。

 途中で処刑されている罪人らはいたが、道端の糞尿は王国より少ない。


「船の出発までまだ時間がある」

 街には川の小道が多くめぐっている。と――

 

「あの宝石細工屋」

「……注射器の針を作ってもらったとコ?」

 

 うん、と頷きながら入る。


「船に乗る前に、他に使えるものはないか……」


 と、ネックレスのチェーンを包む、銀のチューブを見た。

 そこで、L字のチューブを、いくつもオーダーメイドする。 

 順番に加工された完成品を、いくつも渡された。

 

「うん、十分細いな」

「……早苗さま、そろそろ船に乗らないト」

「そうだね」


 この世界には時計がないため、だいたい夕方の鐘の後、という言い方しかされない。

 と、背丈の低い青年が、こちらに向かって走ってきた。

 

『ああ、本当にいた! サナエさんでしょうか?』

 

 久しぶりに聞く王国語。

 その青年は答えを待たず、ジロジロ見てくる。

 


『黒髪の男性と、フードを被った女性。間違いないですね』

『そうだけど、君は?』

『私は使者です』

 

 使者はたしか、郵便がないこの世界の、メッセージの配達人。

 

『カーミットさんから手紙です』

『……カーミットが?』

 

 嫌な予感がした。受け取った紙切れ一枚を開く。

 そこには日本語でこう書かれていた。

 

 心菜さんの救出に失敗しました。

 あの後、調べましたが、まだ生きていて、王国に捕まったみたいです。

 私も捕まると思います。

 助けに来てください。

 たぶん冬の前にワタシも心菜さんも殺されます。

             カーミット・ジーメン


「…………」 

  早苗は読み終わった後、静かに手紙を握った。


「冬の前って……あと一か月ぐらいだぞ……」


 使者が何かを言って立ち去っていくが、その言葉すらうまく聞こえない。

 

「早苗さま、どうするノ……」

「……僕は」

 

 見るとララは、早苗に病気が見つかった時と同じ顔をしている。

 愛情を込めた、心配している顔。

 

「大丈夫。今、王国には戻らない。今行っても誰も助けられない」

「……早苗さま」

「計画通り、国を作る」

 

 そして、目の前の少女に続けた。

 

「そして、軍事革命を起こす。今から1か月以内に、王国に侵攻する。それでもいいかな」

「……うん、早苗さま!」

 

 そして進んでいった。

 短期間でつくってみせる――

 王国も、帝国をも超える国力を持つ、近代文明の国家を。





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