【フルボイス】追放されたノーベル賞受賞の科学者、異世界に最強国家を作る ~チート無しで転生するが、現代知識で文明を再興~【エアルドネル戦記】

Naina R. Uresich
Naina R. Uresich

第14-2話「腕」

公開日時: 2023年5月8日(月) 19:03
文字数:2,219





「ギガ殿!! その剣を収めろ!」

「ハァ? なんのことだ」


 ギガは黄ばんだ歯を出し、ラルクを笑った。

 そして誇らしげに早苗に剣を見せる。

 

「1400年後から来たんだろ。この剣をどう思う?」

「……見てみよう」


 受け取り、剣身を見る早苗。

 光り輝く刃と、重厚な柄が特徴的だ。


「素晴らしい金属加工技術だ」

「ちげぇよ! そうじゃない」とギガが続ける。


「この鉄がわからないのか!?」

「鋼鉄だな。王国には錬鉄しかなかったから、遥かに優れている。高炉は見当たらなかったから、るつぼで作ったのか?」


 ゾッとしたギガが、声を上げる。


「坊主、今なんて……」

「細かくした鋼を、るつぼに入れる方法で作ったのかと思ったんだが……」

「そ、そうか」


 数歩後ろに下がりながら、悔しそうにギガ。


「俺たちドワーフしか知らない製鉄方法だ。1400年後だったか? もし本当なら、未来だと普通なんだな」

「……いや。僕の世界じゃ鋼鉄は、高炉で大量生産してる」

「大量だと!?」


 ギガが声を上げ、疑いの目を向けた。


「そんな方法があるわけ――」

「高炉や溶鉱炉、酸素鋼を使った、未来の製鉄方法を教えてもいい。この世界なら、ベッセマー法がはやいか……」


 早苗はパッと計算する。


「今は鋼鉄を20キロ作るのに、2週間はかかけてるでしょ?」


 キログラム法を理解してないギガに、細かく説明した。


「ああ、大体あってる」

「僕が知る方法なら、15トンが20分で終わる」

「…………」


 ギガは無言で固まり、尻もちをつく。

 そして凍り付いて、黙りだした。

 その反応から、いかに過去の生産工程が大変だったかがわかる。


「おい、早苗とやら」

「グレイだったな」


 黒髪のドワーフはうなずいた。


「ワシは、アンタをまだ信用してない。その製造法が事実という証拠は?」

「実際に見せたいが、作るのに君たちの協力がいる」

「それだと証拠にならんぞ」

「そうだな」


 信頼を得るために、早苗は簡単に理論を説明した。


「鋼鉄を作るには、不純物を取り除かないといけない」


 そうして酸化還元反応を説明するが、ドワーフたちの反応は薄い。

 だがギガとグレイだけは、なんとなく理解してくれたようだ。

 細かく説明するたびに、2人の目が見開かれていく。


「………」

 ドワーフ王は、静かにララを見た。


「ラランサよ。我々の言い伝えには、いずれ救世主が現れると。この者がそうだと?」

「はい、アルフォさま」

「……サナエよ、なぜ亜人に手を貸す。貴様は人間だ」

「僕は王国に処刑されるところを、ララと脱獄しました」


 早苗は袋からある物を取り出す。


「今日は月がよく見えます」

「それは?」

「望遠鏡です。20倍、遠くのものが見えます」


 使用人に渡すと、王の手に渡る。

 覗きこんだアルフォ王は、興味深そうにしていた。

 恐らく特大ズームで、誰かの顔が映ったんだろう。


「アルファさま。その望遠鏡を使えば、月の表面も見えまス」

「……ふむ」

「差し上げます。敵の襲撃を察知するのにも使える」


 地球の歴史でも、別の文明と出会ったらまず手土産だ。

 王はグレイを見た。


「……どう思う?」

「正直、怪しいです。ですが――」


 グレイが神妙な面持ちで続ける。


「ワシは近いうちに、王国が、この洞窟を見つけると。その時が、我々の滅亡の危機です……」

「ギガ。お前は?」

「偽物でもかまわねぇ。俺は面白いものが好きだ!」


 静かに考える王に、早苗は提案する。


「二つお願いがあります。一つは、デミニアン国への移住を望むドワーフたちがいたら、許可をして欲しい。代わりに、希望の製造法をいくつか教えます」

「王よ! 俺は行くぜ!!」


 ギガが一歩前に出る。

 少なくともここに1人、移住希望者がいた。


「次に、デミニアン共和国とドワーフ国で、貿易関係を築きたい」

「……帝国とやっていることを、お主ともやれ、と?」

「いえ。小さな取引ではなく、お互いの国力を高める、継続的なものです」


 しかしアルフォ王は、そこで言葉を詰まらせた。


「……貿易によって、洞窟の場所がバレるのを恐れているので?」

「察しの通りだ」

「でば、防衛協定を結びましょう。侵攻されたら、デミニアン共和国は必ず守りに入ります」

「ふむ、面白い考え方だな」


 アルフォは、王座から立ちあがった。

 本来ならきっと、見知らぬ男の言葉なんて、無視しただろう。が――


「ギガとグレイに免じて、一度チャンスをやろう。何が必要だ」

「ありがとうございます。主に鉱石などです」


 アルフォはグレイに顔を向ける。


「はいよ。鉱石の備蓄場に案内します」


 ついてこい、と言われ、洞窟の奥へ。


 早苗たちは歩く。

 石灰岩でできた天井や壁が、幻想的な景色を作り出していた。

 と――


「……グレイ。変な臭いがするんだが」

「ああ、飼育場のせいだな」

「飼育場?」

「こいつだ」


 大部屋に案内される。

 一見、ただの広い部屋だがーー


「ニワトリ? こんなにも沢山……」

「数百年前から、ここで家畜を育ててるんだ。臭いのはこいつらのせいだ」

「なっ!? 信じられない……!」


 地面が、かすかにキラリと光った。

 早苗は言葉を失い、その土の元へ早歩きする。


「何やってるんだ、お前……」


 早苗は構わず、土に触れる。


「硝石の土だ……」


 信じられなかった。

 まさかここで、火薬の材料が見つかるとは。


「早苗さま、これっテ……」

「何百年分のニワトリのフンがここで、硝石になったんだ」


 立ち上がり、グレイを見る。


「最初に欲しい物が決まった。ここの土が欲しい」

「お前、趣味悪いな……」


 ドン引きされるが、構わなかった。

 これで火薬を作れば、エアルドネル初の銃に――



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