「ギガ殿!! その剣を収めろ!」
「ハァ? なんのことだ」
ギガは黄ばんだ歯を出し、ラルクを笑った。
そして誇らしげに早苗に剣を見せる。
「1400年後から来たんだろ。この剣をどう思う?」
「……見てみよう」
受け取り、剣身を見る早苗。
光り輝く刃と、重厚な柄が特徴的だ。
「素晴らしい金属加工技術だ」
「ちげぇよ! そうじゃない」とギガが続ける。
「この鉄がわからないのか!?」
「鋼鉄だな。王国には錬鉄しかなかったから、遥かに優れている。高炉は見当たらなかったから、るつぼで作ったのか?」
ゾッとしたギガが、声を上げる。
「坊主、今なんて……」
「細かくした鋼を、るつぼに入れる方法で作ったのかと思ったんだが……」
「そ、そうか」
数歩後ろに下がりながら、悔しそうにギガ。
「俺たちドワーフしか知らない製鉄方法だ。1400年後だったか? もし本当なら、未来だと普通なんだな」
「……いや。僕の世界じゃ鋼鉄は、高炉で大量生産してる」
「大量だと!?」
ギガが声を上げ、疑いの目を向けた。
「そんな方法があるわけ――」
「高炉や溶鉱炉、酸素鋼を使った、未来の製鉄方法を教えてもいい。この世界なら、ベッセマー法がはやいか……」
早苗はパッと計算する。
「今は鋼鉄を20キロ作るのに、2週間はかかけてるでしょ?」
キログラム法を理解してないギガに、細かく説明した。
「ああ、大体あってる」
「僕が知る方法なら、15トンが20分で終わる」
「…………」
ギガは無言で固まり、尻もちをつく。
そして凍り付いて、黙りだした。
その反応から、いかに過去の生産工程が大変だったかがわかる。
「おい、早苗とやら」
「グレイだったな」
黒髪のドワーフはうなずいた。
「ワシは、アンタをまだ信用してない。その製造法が事実という証拠は?」
「実際に見せたいが、作るのに君たちの協力がいる」
「それだと証拠にならんぞ」
「そうだな」
信頼を得るために、早苗は簡単に理論を説明した。
「鋼鉄を作るには、不純物を取り除かないといけない」
そうして酸化還元反応を説明するが、ドワーフたちの反応は薄い。
だがギガとグレイだけは、なんとなく理解してくれたようだ。
細かく説明するたびに、2人の目が見開かれていく。
「………」
ドワーフ王は、静かにララを見た。
「ラランサよ。我々の言い伝えには、いずれ救世主が現れると。この者がそうだと?」
「はい、アルフォさま」
「……サナエよ、なぜ亜人に手を貸す。貴様は人間だ」
「僕は王国に処刑されるところを、ララと脱獄しました」
早苗は袋からある物を取り出す。
「今日は月がよく見えます」
「それは?」
「望遠鏡です。20倍、遠くのものが見えます」
使用人に渡すと、王の手に渡る。
覗きこんだアルフォ王は、興味深そうにしていた。
恐らく特大ズームで、誰かの顔が映ったんだろう。
「アルファさま。その望遠鏡を使えば、月の表面も見えまス」
「……ふむ」
「差し上げます。敵の襲撃を察知するのにも使える」
地球の歴史でも、別の文明と出会ったらまず手土産だ。
王はグレイを見た。
「……どう思う?」
「正直、怪しいです。ですが――」
グレイが神妙な面持ちで続ける。
「ワシは近いうちに、王国が、この洞窟を見つけると。その時が、我々の滅亡の危機です……」
「ギガ。お前は?」
「偽物でもかまわねぇ。俺は面白いものが好きだ!」
静かに考える王に、早苗は提案する。
「二つお願いがあります。一つは、デミニアン国への移住を望むドワーフたちがいたら、許可をして欲しい。代わりに、希望の製造法をいくつか教えます」
「王よ! 俺は行くぜ!!」
ギガが一歩前に出る。
少なくともここに1人、移住希望者がいた。
「次に、デミニアン共和国とドワーフ国で、貿易関係を築きたい」
「……帝国とやっていることを、お主ともやれ、と?」
「いえ。小さな取引ではなく、お互いの国力を高める、継続的なものです」
しかしアルフォ王は、そこで言葉を詰まらせた。
「……貿易によって、洞窟の場所がバレるのを恐れているので?」
「察しの通りだ」
「でば、防衛協定を結びましょう。侵攻されたら、デミニアン共和国は必ず守りに入ります」
「ふむ、面白い考え方だな」
アルフォは、王座から立ちあがった。
本来ならきっと、見知らぬ男の言葉なんて、無視しただろう。が――
「ギガとグレイに免じて、一度チャンスをやろう。何が必要だ」
「ありがとうございます。主に鉱石などです」
アルフォはグレイに顔を向ける。
「はいよ。鉱石の備蓄場に案内します」
ついてこい、と言われ、洞窟の奥へ。
早苗たちは歩く。
石灰岩でできた天井や壁が、幻想的な景色を作り出していた。
と――
「……グレイ。変な臭いがするんだが」
「ああ、飼育場のせいだな」
「飼育場?」
「こいつだ」
大部屋に案内される。
一見、ただの広い部屋だがーー
「ニワトリ? こんなにも沢山……」
「数百年前から、ここで家畜を育ててるんだ。臭いのはこいつらのせいだ」
「なっ!? 信じられない……!」
地面が、かすかにキラリと光った。
早苗は言葉を失い、その土の元へ早歩きする。
「何やってるんだ、お前……」
早苗は構わず、土に触れる。
「硝石の土だ……」
信じられなかった。
まさかここで、火薬の材料が見つかるとは。
「早苗さま、これっテ……」
「何百年分のニワトリのフンがここで、硝石になったんだ」
立ち上がり、グレイを見る。
「最初に欲しい物が決まった。ここの土が欲しい」
「お前、趣味悪いな……」
ドン引きされるが、構わなかった。
これで火薬を作れば、エアルドネル初の銃に――
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