【フルボイス】追放されたノーベル賞受賞の科学者、異世界に最強国家を作る ~チート無しで転生するが、現代知識で文明を再興~【エアルドネル戦記】

Naina R. Uresich
Naina R. Uresich

第10-2話 愛されたかった

公開日時: 2023年4月27日(木) 19:03
文字数:2,028





 亜人の島の、ララの故郷。

 そこで獣人たちに出会った矢先、刃物を首筋に当てられた。


「や、やめてラルク!! 何してるノ!?」

「姉さんが島を出た後、多くの仲間が王国兵に殺された。言い伝えだろうが、人間を受け入れられない」

「や、やめてヨ!」

「それにラニア姉さんは、姉さんを追って島を出た。たぶんもう死んでいる」

「そ、そんな。お姉ちゃんガ……」


 ララが顔を真っ青にする。

 たぶん、ララには姉がいた?


「わたしの言葉、もう信じないってこト?」

「そうだよ、姉さん」

「なら、わたしガ……」

 

 ララの拳は震えていた。

 

「わたしが、誉の泉で証明するかラ」

「……姉さん」

「早苗さまが、言い伝えの救世主だってことヲ!」

「ララ、ちょっと待って。話が読めない――」

 

 手を上げたまま、たまらず話を遮る早苗。

 

「……亜人たちには、言い伝えがあるノ。いつか、知識人の救世主が現れる。その人は、わたしたちの王になル」

「なるほど」

 

 会って早々、ララに救世主と言われた理由は、それだったのか。

 

「……姉さんのそんな顔、初めて見たよ」

「ラルク……」

「いいんだね、姉さん。本当に?」

 

 うん、とララが言うと、周囲を囲っていた亜人たちが警戒を解いた。

 ラルクと呼ばれた青年が、目の前まで歩く。

 

「姉さんに免じて、今日は泊めてやる。私はこの部族の村長、ラルクだ。ついてこい」

 

 早苗は怪訝そうに、後をつく。 

 見ると隣を歩くララは、今までで一番、悲しそうな顔をしていた。

 

 

 集落に着いた。

 森に囲まれた傾斜面の下に、木の扉が隠れている。

 そのうちの一つをララが開くと、中に部屋が一つ。

 

「地下室か。雨で浸水しないのか……」

「たぶん、大丈夫だヨ……」


 言われて観察するが、そこで大体の仕組みを理解した。



「貯水に炉まである」


 獣人たちが、王国人より清潔なわけだ。


「でもこの構造だと、持って半年から1年じゃ……」

「……住処がダメになる前に、別の場所に移動するノ」

 

 暗い声で言われる。

 部屋の真ん中には、藁の上に毛皮を敷いた布団が。

 早苗はランプを置くと――

 

「早苗さま……っ」

 ララに後ろから抱きしめられた。

 

「どうしたの?」

「早苗さま、安心して、わたしが何とかするかラ」


 沈黙の後、ララが小さく続ける。


「取り置きしたお願い、今使っていイ……?」

 「いいよ」


 後ろを振り向くと、彼女は涙をこぼしながら言う。

 

「わたし、早苗さまが好き……どうしようもないぐらイ……」

「……ララ」

「お願い。キスして……」

 

 上着を握る彼女の手は、震えていた。

 何かが、彼女を追いつめている気がした。

 姉の死を知ったから……?


「…………」

 

 両目を閉じる少女の、唇に近づく。

 が――

 

「………っ!」

 嫌な思い出がフラッシュバックした。


 心臓が握られるような不安感。

 殴られ、抓られる痛み。


 咄嗟に顔を引くと、一歩下がって距離を作った。


「ごめん……」


 ララはそのまま、涙をこぼしながら無理のある笑顔を作る。

 

「……大丈夫。無理言って、ごめんネ」

「ララ……」

「ごめんね。ごめんね。わたしみたいな汚い亜人が、変なことお願いしテ……」

「違うんだ。なにがあったんだ。教えてくれ」

 

 だが彼女は答えない。そのまま出て行ってしまう。

 なんだろう、すごく胸が痛い。選択肢を間違えてしまったような、この違和感。

 

 

 1時間は眠れたと思う。だが咄嗟に、胸騒ぎがして目を開いた。

 嫌な予感がする。どうしてもあの泣き顔が、脳裏から離れない。

 

「ララ……」


 気づいていた。この世界に来てからずっと、彼女が隣にいた。

 地下牢で苦しんでいた時も、野宿した時も、病気で死にかけた時も……

 

 必ず彼女が、そこにいた。

 

(……彼女がいつもそばにいたから)

 こんな未開の世界でも、正気を保っていられた。

 知ってたのに、気づかないフリをした。

 彼女はもう僕にとって……

 

「ララ、どこだ……!」

 

 ランプを手に取り、駆け足で外に出る。

 誰もいない。物音ひとつ……いや、かすかに獣人たちの声が。

 急いでその場所に駆けだした。

 必死に、嫌な予感を抑えながら。

 森を出る。木々の向こうには、一面の湖が広がっていて……

 

「な、なんだ、これ……」

 

 巨大な湖の周囲を、90人の獣人たちが囲むように立っていた。

 泉に向かって祈りをささげている? 

 湖には大量の花が浮かんでいて、そんな水面を、周囲に置かれた蝋燭が照らしていた。

 

 近づくと、ぞっとした。

 水中に誰かが浮かんでいる。

 そこから、赤い液体が広がっていて……

 

「う、うそだろ……」

 

 嫌な予感が当たってしまった。

 湖に浮かんでいるのは、よく知っている人物――

 泉に、白衣を着た少女……


 ララが浮かんでいた。


 彼女の右手首は切られている。

 まるで自殺したように。


「……う、うそだ、うそだ! 嘘だっ!!」

 

 パニックになる。

 あれは? 違う、そんな訳――

  いや、間違いなく、ララだ……


「……お、おい、ララ」


 目の前が真っ白になり、ぼやけていく。

 一歩一歩、必死に、少女のもとに歩くが……

 真っ青になったララの顔を見て、声が溢れてしまう。 


「う゛わ゛あ゛あ゛ッ!!! ラ゛ラ゛ァ゛!!!」

 

 体を持ち上げる。

 その体はすでに冷たくなっていた。


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