【フルボイス】追放されたノーベル賞受賞の科学者、異世界に最強国家を作る ~チート無しで転生するが、現代知識で文明を再興~【エアルドネル戦記】

Naina R. Uresich
Naina R. Uresich

第8-3話 気づかないフリをしていた

公開日時: 2023年4月23日(日) 19:03
文字数:1,744





 抗菌薬投与のタイムリミットから1日オーバー。

 死のタイムリミット当日。


 ララは嫌な予感を抑えながら、ベッドの彼の顔色をうかがう……


 と――


「ララ……」


 彼は……生きていた。

 かなり苦しそうだが、意識が一時的に……



「さ、早苗さま!!」


 彼にほっぺたを触れられる。

 夢なのだろうか。

 それともコウセイブッシツなしで、5%程度の可能性で生き残った……?

 

「あぁ、ああぁ!! 生きてる!! 早苗さま……!」


 ララはすぐに、抱きついた。

 早苗が辛うじて、指だけを動かす。


「……え?」

 その方角のポーチを見ると、紙と液体が入ったボトルが。

 読んでみるが――


「……えええ!? これ、ペニシリンなノ!?」

 でも全部失敗してたのに。なにがどうなって……


「と、とにかク……」

 ララは注射器を取り、紙に書いてある通り、早苗に点滴注射した。

 たぶん、これであってるハズ。


「……早苗さま」

 早苗の意識は再び途絶えていた。


 それからララは指示通り、ペニシリンを作成し続け、継続的に注射した。


 生理的食塩水を点滴しつづけ、3日目に意識が辛うじて戻り、すり潰したビーツを食べさせる。


 次第に、呼吸が安定する。

 血圧も触れるようになり、脈も安定した。

 それからさらに、2日後。


「ララ……おはよう……」

「さ、早苗さま……! うう、うわああああん……!!」

 

 寝込んでいるが、話せるまでに回復している。

 この数日間程、つらい日はなかった。


「……ララ、大変だったよね……」

「いいの。早苗さま……」


 早苗は顔をしかめた。


「痛むノ!?」

「大丈夫……苦しいのは、峠を越えたから……」


 苦しむ彼の手を、ララはぎゅっと握った。


「ララ……ペニシリン、どう……?」

「大丈夫。ちゃんと書いてある通りにやったヨ……」

「そうか。効果はあったんだね」


 口ごもるララ。

 ペニシリンは全部失敗してた。なんで、完成してたんだろう。


「あっ、そういえバ……」

 はじめて注射器を渡されたとき、すでに使い終わった後だった。


「あの、ペニシリンは全部失敗してた。どうやっテ……」

「……地下牢の、アオカビ」


 苦しそうに、続ける。


「……カーミットが盗んできたチーズのカビを、その日のうちに、芋のスープで培養してた」

「ええエ!?」

「……あの時から、薬が必要になると考えていた」


 さらに彼は続ける。


「その後、蛇の皮を煮て作ったゼラチンの固体培地に、アオカビを移動して、ずっと持ってた……」


 つまり、二つのペニシリン試作体があって、

 一つ目は、かなり前から作り始めていたらしい。



「この街に付く前の宿で、ララが買い物をしている時、宿で簡単に精製した」

「……さ、早苗さま」

 ポロポロと、涙を流す。


「もっとはやく教えて欲しかった……ずっと、ずっと心配してタ……」

「……ごめん。成功してるかわからないから、言いにくかった」


 下手に希望を与えるのは、よくないと思ったが……

 ちゃんと言うべきだったのだろう。


「ララ。君は、命の恩人だ……」

「え、うん……」


 涙を拭くララ。彼の方こそ、何度もわたしを救ったのに。



「もう少し、待ってほしい。これから1週間かけて歩行……リハビリする。2~3週間後には、元に近い状態に戻ってる……」

「早苗さま……無理しなくて、いいからネ……」


 ずっと、傍にいるから。

 そういってララは、彼のおでこに手で触れた。



 あれから7日後。

 早苗の見立て通り、彼は立って、歩けるまでに回復していた。


 彼は歩いて、ベッドに腰を掛ける。


「ララ、おいで」

「早苗さま!」


 手招きされて、ベッドの隣に座るララ。


「ありがとう。君のおかげで生き延びた」

「ううん、全然……」


 ララは好きな人の顔を見ると、自然に笑顔がこぼれた。

 男なのに、綺麗な顔。でも本当にきれいなのは、その中身。


「……わたし、もう、何もいらないかラ」

「ララ……?」

「王にならなくてもいい。生きてればそれでいイ……」

「ありがとう。でも僕は、この世界に近代文明を作りたいんだ」

「うん。協力すル」


 言ってララは、頭を早苗の肩に乗せた。

 彼は身長が高いので、横に寄る感じだが……

 

「ずっと、みんなおかしいって思ってタ……」

「え?」

「お父さんに、結婚して子供作れって言われて、ヘンだと思った」


 早苗の体温を感じながら、ララは続ける。


「なんでわたしの人生を決めるのって。結婚しなくても幸せだって。でも、今はそう思わなイ」


 だって、今のわたしは……





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