早苗とララが脱獄に成功したその頃――
心菜とカーミットも無事に街から出て、平原を歩いていた。
「クソ。明日かならず、あのバカを助ける……」
「バカって……サナエサンが嫌いなんです?」
心菜が眉間にしわを寄せた。
とはいえ、ヘルメットで見えない。
「どちらかと言えば好きよ。尊敬もしてる」
「デモその言い方じゃ、どう見ても……まぁ、いいですけど」
息苦しいので、ヘルメットを脱ぐカーミットたち。
その彼女らのランプが、樹木を照らすが……
「ウワ! 酷いですね……」
王国兵に拷問されたのであろう。
死屍が、見せしめに木に吊るされていた。
「手首が切り落とされている。窃盗犯への罰ね」
「アア、たしかに……」
「舌もない。多分、熱したペンチで抜かれた。兵に捕まった時、王族の悪口でも言ったのでしょう……」
「コノ世界、権力者を悪く言うだけで、舌抜きの刑ですもんね……」
ブルッと身震いし、カーミット。
「悪口だけでこれなら、サナエサンとララサンは……」
「だから、絶対助けるって! 手段は選ばない!」
「……ト言うと?」
「オズソン王子か、オズウィン王子を使う」
よくわからず、カーミットが首をかしげる。
「つまり、王子を誘拐して、人質交換する」
「――ハァ!? ココナサン、本気ですか!?」
真顔の心菜を見て、カーミットが真っ青になる。
「正気じゃないです…! どうやって? もし応じなかったら?」
「応じるわよ。王位継承者、たった2人だもの。それに早苗の命は、この世界の誰よりも価値がある」
「……ハァ。ワタシが間違ってましたね」
心菜がビクッとする。
「ココナサンのサナエサンへの愛は、尋常じゃないです。愛してるんですね」
からかうように、心菜を見るが……
ふと、自分の顔が濡れてるのに気づいた。
手で拭く。血だ。
心菜は……死んでいる……?
「ああ、あああっ!! ココナサンっ!?」
いや、まだ生きてる。
でも、音もなく飛んできた矢が、顔を貫通して……
ドサッ、と。心菜が力なく倒れる。
瞬間、静かに風を切る音。
「――ひっ!」
カーミットの真横を、矢が通った。
さらに一本。数センチ手前の地面に、矢が刺さる。
誰かに狙われて……
「――アアァ、ウワァアアアアアアア!!!」
『待て、逃げるな!!』
王国語で言われる。兵士が何人も。
無視して、ランプを捨てる。
カーミットは死に物狂いで走った。
「はぁ、はぁ――!」
馬が駆けて、兵士が何人も接近する音。
グサグサと、矢が周囲に刺さり続け――
構わない。全力で逃げ続ける。
『止まれ! この女を殺すぞ』
『――ひっ!』
一瞬だけ背後を見る。
兵士が、心菜の首元にナイフを立てていた。
いや、ダメだ。一瞬でも足を止めたら――
『――ウアァアアァ!!!』
森の中に逃げ込む。
怖い。何で? ココナサンが死んだから?
違う。自分が死ぬかもしれない、捕まり拷問されるかもしれない……
それが怖かった。頭が真っ白になるほどに。
◇
そんな時――
「早苗さま! 蛇とってきタ!」
早苗とララは、のんきに蛇を焼いていた。
早苗は少ない蛇の脂身と、焚火の草木灰を混ぜる。
「ララ、カタツムリ探せる?」
「うん! なにに使うノ?」
「石鹸を作る。それで体を洗う」
「……せ、せっケ?」
知らないらしい。思えばヨーロッパに石鹸が渡ったのは、12世紀。
つまり、500年後ぐらいだ。
「多くの病気を予防する、もっとも偉大な発明の一つだ。作り方は……」
貝殻を砕いて、水酸化カルシウムに。
それを草木灰の水に入れ、水酸化カリウムに。
最後に先程の蛇の油を入れて、混ぜれば完成だ。
そうして石鹸でまずは早苗、次はララが体を洗った後、
2人で久しぶりの食事を楽しんでいた。
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