【フルボイス】追放されたノーベル賞受賞の科学者、異世界に最強国家を作る ~チート無しで転生するが、現代知識で文明を再興~【エアルドネル戦記】

Naina R. Uresich
Naina R. Uresich

第十三章 獣人の平原Ⅱ Anthro's Meadow

第13-1話「The Ancients」

公開日時: 2023年5月5日(金) 19:03
文字数:1,777





 土壌調査をしていた早苗たちは、苦戦していた。 

 未だに候補地を見つけられない。


「気候、食糧、防衛性。どこもあと一歩足りない……」


 ただ歩き続け、時間だけが過ぎている。

 次第に焦りが生まれた。


「閣下。防衛は、壁を作っては? 本土ではそうだと」

「あってるが、時間が足りない」


 それに文明を発展させるのが、最優先だと感じていた。


「……拠点は丘の上がいい。敵が進行しにくく、遠距離から一方的に仕留められる場所」


 早苗はハッとした。

 そしてこの前の、忌々しい誉の泉の上を指さす。


「あの滝の上は?」

「早苗さま。あそこは聖域だヨ」


 姉の声に、ラルクはばつが悪そうに言う。


「……言い伝えでは、あの場所には神が住んでいます。立ち入りはできません」

「誰も入ったことがない?」

「はい」

「つまりリスクはあるが、野生動物が豊富で、未発見の資源があるかもしれない」


「行こう」と早苗が歩き出す。

 ララがくすっと、弟に伝えた。


「大丈夫。その言い伝えに、救世主様がみんなを救うって書いてあったんだかラ」

「……そうだね、姉さん」


 そして、30分は歩いただろうか。

 滝の上の平地にたどり着く。

 ラルクが掘った土を見て、早苗は驚いた。


「土は粘土質。農業に適していて、健康な土壌だ……」

「早苗さま! 野生動物のフンがいくつかあったよ! 」

「川の水も飲めると思います、閣下」

「よし。周囲の資源は……」


 木も豊富で、附近の小山で、石灰岩(セメントの材料)も取れるように見えた。

 早苗は確信していた。





「ここを開拓し、国をつくる――」


 そしてエアルドネル初の銃を生み出し、敵を駆逐する。 


「次に作るのは、無煙火薬。ニトロセルロース(ガンコットン)だ」


 材料の硫酸、アルコール、エーテルはもうある。

 銃は騎士や兵士を、ただの動きが遅い的に変えた。

 その圧倒的な力をこの手に――


「……あと6日。急がないと」



 その頃、元激戦区の、王国のナイフエッジ付近では――

 マックスが、早苗とは別の軍隊を育てていた。





『馬が来る! お前たちこのポーズ! 動かない! 』


 へったくそな王国語だな、と兵士たちは思っていた。

 ただ口には出してない。


(……よし、訓練は進んでいる)


 マックスは歩きながら考える。

 帝国軍の強みは、高い機動力の騎兵たちだ。

 地形、陣形を駆使すれば、破るのは無理じゃない。


 と、小声が。


『本当かよ、こんなもので騎兵が止まるって』

『俺たちを捨て石にするための嘘だろ』


 瞬間、マックスはその方角目掛けて、電気を発した。

 ズゴ――ン、と地面から火花が。

 土ぼこりが舞う中、兵士たちは恐怖に戦慄した。


『お前たち、背中を見せて逃げる! 帝国の馬、止まらない!』


 軍隊の教官のようにつづけた。


『お前らはなんだ? 言え!』

『虫けらです!!』

『よし。駐屯地を20周!』

『はい!』


 近代の軍隊の教育法だった。

 自尊心を潰してから、リーダーとして命令を与える。

 じゃないと戦場で命令を無視して、使い物にならない。


『20秒走れ! そして10秒歩く! 繰り返す!!』

『タバタ式か』

『HEY、ウィル。どうした?』


 こいつがイギリス人だと知ったときは驚いた。

 振り向くと、ウィルフレッドはいい面持ちをしていない。


『リンが呼んでる。ここは俺が見るから、行ってやれ』

『……っ!! わかった』


 嫌な予感がしていた――

 マックスは馬に乗り、キャンプへ戻る。



『リン!』

『……マックス、さま』


 寝込んでいるリンは、まだ全快していない。

 早苗の手術は成功した。なのに何故まだ完治しない……


(……こんな駐屯地にいるのが、いけないんだ)


 なにせ、ここにはまともな食事や、薬草の一つもない。


『リン。エフレに帰って治療を受けた方が……』

『……いえ。私はここに』

『わかった。次の戦に勝てば、ナイフエッジの城を与えられる。小さいが、お前が城のレディーだ』

『……はい』

『エフレの医師団も招集する。城でちゃんと治療も受けられる。待ってくれな』


 顔色が悪いリンは、小さく頷いた。


『……マックス様。嬉しいです』

『愛してるんだ。当然だろ?』


 それを聞くと微笑み、口数の少ない彼女は目をつむった。


『……はぁ』


 マックスはテントを出ると、医者に一言残す。


『リンを頼む』

『承知いたしました。今ある資源でなんとかします』


 拳を震わせながら歩き出すマックス。

 必ず、勝つ。何があっても、手に入れる。

 敵を全てなぎ倒し、自分の領地も、愛する女も、この手に……


 マックスはそう、覚悟を決めて歩んでいった。


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