土壌調査をしていた早苗たちは、苦戦していた。
未だに候補地を見つけられない。
「気候、食糧、防衛性。どこもあと一歩足りない……」
ただ歩き続け、時間だけが過ぎている。
次第に焦りが生まれた。
「閣下。防衛は、壁を作っては? 本土ではそうだと」
「あってるが、時間が足りない」
それに文明を発展させるのが、最優先だと感じていた。
「……拠点は丘の上がいい。敵が進行しにくく、遠距離から一方的に仕留められる場所」
早苗はハッとした。
そしてこの前の、忌々しい誉の泉の上を指さす。
「あの滝の上は?」
「早苗さま。あそこは聖域だヨ」
姉の声に、ラルクはばつが悪そうに言う。
「……言い伝えでは、あの場所には神が住んでいます。立ち入りはできません」
「誰も入ったことがない?」
「はい」
「つまりリスクはあるが、野生動物が豊富で、未発見の資源があるかもしれない」
「行こう」と早苗が歩き出す。
ララがくすっと、弟に伝えた。
「大丈夫。その言い伝えに、救世主様がみんなを救うって書いてあったんだかラ」
「……そうだね、姉さん」
そして、30分は歩いただろうか。
滝の上の平地にたどり着く。
ラルクが掘った土を見て、早苗は驚いた。
「土は粘土質。農業に適していて、健康な土壌だ……」
「早苗さま! 野生動物のフンがいくつかあったよ! 」
「川の水も飲めると思います、閣下」
「よし。周囲の資源は……」
木も豊富で、附近の小山で、石灰岩(セメントの材料)も取れるように見えた。
早苗は確信していた。
「ここを開拓し、国をつくる――」
そしてエアルドネル初の銃を生み出し、敵を駆逐する。
「次に作るのは、無煙火薬。ニトロセルロース(ガンコットン)だ」
材料の硫酸、アルコール、エーテルはもうある。
銃は騎士や兵士を、ただの動きが遅い的に変えた。
その圧倒的な力をこの手に――
「……あと6日。急がないと」
◇
その頃、元激戦区の、王国のナイフエッジ付近では――
マックスが、早苗とは別の軍隊を育てていた。
『馬が来る! お前たちこのポーズ! 動かない! 』
へったくそな王国語だな、と兵士たちは思っていた。
ただ口には出してない。
(……よし、訓練は進んでいる)
マックスは歩きながら考える。
帝国軍の強みは、高い機動力の騎兵たちだ。
地形、陣形を駆使すれば、破るのは無理じゃない。
と、小声が。
『本当かよ、こんなもので騎兵が止まるって』
『俺たちを捨て石にするための嘘だろ』
瞬間、マックスはその方角目掛けて、電気を発した。
ズゴ――ン、と地面から火花が。
土ぼこりが舞う中、兵士たちは恐怖に戦慄した。
『お前たち、背中を見せて逃げる! 帝国の馬、止まらない!』
軍隊の教官のようにつづけた。
『お前らはなんだ? 言え!』
『虫けらです!!』
『よし。駐屯地を20周!』
『はい!』
近代の軍隊の教育法だった。
自尊心を潰してから、リーダーとして命令を与える。
じゃないと戦場で命令を無視して、使い物にならない。
『20秒走れ! そして10秒歩く! 繰り返す!!』
『タバタ式か』
『HEY、ウィル。どうした?』
こいつがイギリス人だと知ったときは驚いた。
振り向くと、ウィルフレッドはいい面持ちをしていない。
『リンが呼んでる。ここは俺が見るから、行ってやれ』
『……っ!! わかった』
嫌な予感がしていた――
マックスは馬に乗り、キャンプへ戻る。
『リン!』
『……マックス、さま』
寝込んでいるリンは、まだ全快していない。
早苗の手術は成功した。なのに何故まだ完治しない……
(……こんな駐屯地にいるのが、いけないんだ)
なにせ、ここにはまともな食事や、薬草の一つもない。
『リン。エフレに帰って治療を受けた方が……』
『……いえ。私はここに』
『わかった。次の戦に勝てば、ナイフエッジの城を与えられる。小さいが、お前が城の姫だ』
『……はい』
『エフレの医師団も招集する。城でちゃんと治療も受けられる。待ってくれな』
顔色が悪いリンは、小さく頷いた。
『……マックス様。嬉しいです』
『愛してるんだ。当然だろ?』
それを聞くと微笑み、口数の少ない彼女は目をつむった。
『……はぁ』
マックスはテントを出ると、医者に一言残す。
『リンを頼む』
『承知いたしました。今ある資源でなんとかします』
拳を震わせながら歩き出すマックス。
必ず、勝つ。何があっても、手に入れる。
敵を全てなぎ倒し、自分の領地も、愛する女も、この手に……
マックスはそう、覚悟を決めて歩んでいった。
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