異世界に来たばかりの頃。
四人が動物パジャマに着替えようかというときだった。
「うち、思うんっすよ。異世界でゴブリンやドラゴンのような地球では知られている魔物がいるってことは、日本の都市伝説も実は異世界では通用するものがあるんじゃないかって」
帝都の宿で、千秋がそんなことを言い出した。
彼女が突然変なことを言い出すのはいつものことだったが、しかしその日の彼女の話には、他の三人も少し興味を持った。
「日本の都市伝説って、キサラギ駅とか口裂け女みたいなの?」
「そうっす!」
「……キサラギ駅はないだろ。電車がない」
蓮水が冷静に言うが、しかし、すべての都市伝説が存在しないとは思えなかった。
「それなら、検証してみたい都市伝説があります」
「お、ヤヨ先生。やる気っすね。どんな都市伝説っすか?」
「検索してはいけない言葉ってありますよね? ××××とか」
「××××とは、ヤヨ先生もなかなか渋いところをせめてきますよね」
「××××ってなに?」
「……私も知らない。××××……犬の名前みたいだな」
「××××を知らないっすか? ××××を検索した人が……って、ヤヨ先生、さすがにそれの検証は無理じゃないっすか? この宿、ワイファイ繋がってないっす」
「……そもそもインターネットがないだろ」
「だからこそですよ」
彼女は眼鏡の位置を直し、スマホを取り出した。
「もしも、検索ページから××××を検索して、どこかに繋がったら、その都市伝説は本物ってことじゃないですか?」
「あぁ、なるほど」
鈴はスマホを受け取り、××××と入力した。
あとは検索ボタンを押せば、結果が表示される。
どうせ、ページが表示できないと出るだけだろうと思った、その時だった。
「待て……そのスマホ、妙じゃないか?」
「え?」
「なんで、電池が百パーセントなんだ?」
確かに、鈴が持っていたスマホは充電が満タンだった。
「ヤヨちゃん、これって一体……あれ? ヤヨちゃん?」
鈴が周囲を見回しても、ヤヨの姿はどこにもなかった。
その時だった。
扉がノックされ、鈴の返事を待って扉が開く。
入ってきたのはヤヨだった。
「あれ? 皆さんまだ着替えていなかったんですか?」
ヤヨが部屋の扉を開けて中に入ってきた。
「ヤヨちゃんこそ、いつの間に部屋を出たの?」
「え? 私はさっきまで宿の支払いについて、この宿のオーナーと相談をしていたのですが」
そう言われ、鈴の血の気が引いた。
「そんなはずはないよ。だって、ヤヨちゃん、私にこれを――」
「なんですか? その板?」
ヤヨが首を傾げて尋ねた。
鈴は恐る恐る視線を自分の手に向ける。
すると、そこには真っ赤に染まっている木の板が握られていた。
そして、そこに書かれている文字を見て、彼女はさらに恐怖した。
【××××】
悲鳴にならない悲鳴とともに、鈴は真っ赤な板を窓の外に投げ捨てたのだった
果たして、あのまま鈴が検索ボタンを押していたらどうなったのか?
それはわからない。
「あの、皆さん、あまりくっつかれると」
「まぁまぁ、一緒に冒険するパーティなんだし」
「さすがにあれを見てひとりで寝るのは勇気がいるというか」
「……怖い」
四人はそんな言葉を交わし、ベッドを二つ併せてくっついて眠った。
異世界で都市伝説を試すときは、ご計画的に。
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