隼人視点と神代視点が出てきます。
一人称と三人称をごちゃ混ぜにしてしまっています。
全てのキャラを愛しているが如く、そのキャラの感情一つ一つを表現したくなるのです。
なので予め謝っておきます。
一人称と三人称をごちゃ混ぜにしてしまってすみません(o_ _)oぺこり
それでは、『2人の感情』をお楽しみくださいヾ(・ω・o)
電話を切った直後、扉を3回ノックする音が聞こえた。
「橘隼人です。入ってもよろしいでしょうか」
「ああ、構わないぞ」
他人行儀の言葉に、部屋の中にいる男は身構えた。
「昨日ぶりです」
「ああ、そうだな」
執務室。
三芳のいる部屋の下にあるこの部屋もまた、執務室だ。
上の階にある執務室とこの部屋の執務室とで違う点があるとすれば、役職が違う。ということだ。
この階の執務室の椅子に座る神代恭吾の役割は、俺たちの仕事の依頼を分配する役割を担っている。この分配を間違えると、依頼が成立しない可能性が出てくる。依頼の分配の他に、仕事の後処理の命令をする役も担っている。
仕事に関する命令は上の階にいる三芳から神代へと伝わり、神代が俺たちへと伝える。
つまり上の階にいる三芳は、この組織全てを支配しているということ。
この組織に属している以上、神代の言葉にも、三芳の言葉にも反論をしてはいけない。俺は反論しかしていないが、本来ならそれは死を意味する。胴体が繋がっていることが奇跡なのだ。
「上に報告してきた」
「ご苦労様。今日は家に帰ってゆっくり休め」
「やはり、あの案を出したのはお前なんだな?」
「ああ。ギリギリまで云わないでほしいと云っておいたんだ。前もって知ると、何としてでも依頼をこなそうとするだろうと思ってな」
俺は苦笑した。
「お前は俺のことをよくみているな」
「まあ、これだけ長く仕事をしていればな。嫌でも気付くさ」
「そうか」
「ああ」神代は頷いた。
こうなることが最初から分かっていたらしい。
「上司命令と云われた。逆らうことはできない。だが……」
絞り出すように俺は云った。
「俺はまだやれる。俺はまだ人を……」
「隼人」
神代は俺に最後まで云わせなかった。
「分かっている。お前を捨てるようなことはしない。捨て駒になんて俺がさせない。だから、明日くらいはゆっくり休め」
神代は2年前に俺に起きた悲劇を知っている。
知っているからこその言葉だと、俺は理解している。
俺は苦笑した。
「そこまで云われたら、休まないわけにはいかないな」
「ああ、ゆっくりと休め。明日くらいは、一緒にいてやれよ」
「……分かった、そうしよう」
「お前はよくやっているよ」
踵を返した俺に、神代は云った。
「明日、墓参りに行ってやれよ」
俺はゆっくりと振り返った。
「俺に行く資格があると思うか?」
「ある」神代は断言した。「あるに決まっている」
俺は沈黙した。
俺は神代を見た。神代は俺を見た。
必要な沈黙だったと俺は理解していた。当然神代もそのことを理解しているだろう。
最初に沈黙を破ったのは、神代だった。
「妹さんが亡くなってから、事件現場には行っているものの、墓参りに一度も行っていないだろう?」
「どれだけ杜撰な組織でも、情報はいつも飛び交っている。何の情報もない日などない。裏切り者が出たときにすぐに対処できる理由はそれさ。どれだけ逃げることが天才な人間でも、この組織に一度でも目をつけられたら最後だ。それはお前も理解しているはずだ」
俺の頭の中に、1人の男の顔が浮かんだ。
仕事こそこなしていたものの、その方法が遊戯と間違われるほどに依頼内容と正反対の方法で依頼をこなしていた。それに見かねた神代と三芳がその男を追放した。
本来なら処分するべきなのだろうが、相手にするのも面倒だと云って、追い出して終了した。
因みにこの場合の処分は、処刑という意味だ。
無価値な部下を切り捨てる。
そのために用いられる言葉だ。
ーー無価値な人間は勝手に自滅して勝手に居なくなる。相手にするだけ時間の無駄さ。
その男を追放したその日、神代は俺にそう云った。
『それならば自滅するまで待てばいいのでは?』
俺の言葉に当時の神代は首を横に振った。
『偶にいるのさ。勝手に自滅をしても居なくならない、ある意味強固な意志を持った人間が。あれはそういうタイプの人間だ。だから手っ取り早く追い出したんだ。それが一番適切な方法で、一番楽な方法だからな』
『お前、相当あいつのことが嫌いみたいだな』
『ああ。俺はああいうタイプの人間は大っ嫌いだ。出来れば二度と会いたくない』
『そうか』俺は苦笑した。
神代にここまで云わせるのは、そいつが最初で最後だろう。
『むしろよく平気だな? 俺は思い出しただけで吐き気を催すっていうのに』
『別に俺も平気ってわけじゃないさ。ただ、お前ほど顔を合わせる機会も話す機会もなかったってだけの話だ』
『そうか』神代は笑った。
「確かにその通りだな。明日墓参りに行くよ」
「ああ。そうしてやれ」
「なあ。最後に一つだけ訊いてもいいか?」
「何だ?」
「妹は……紅葉は俺のこと、恨んでいないかな」
弱気な発言に神代の心は揺らいだ。
ドクンと心臓が高鳴った。
鼓動が早くなる。
心の中の神代は、とても不思議な表情を見せていただろう。
けれど実際は、指先を少し動かしただけだった。
「妹は俺が殺したようなもの。妹を殺した兄に会いたいと……あいつは思ってくれているだろうか」
隼人の瞳の奥に、泣いている子供がいたような気がした。
俺たちは既に大人だと、神代は思う。
掛けてやれる言葉は沢山ある。
沢山ある、はずだった。
今の神代は言葉を覚えたての子どものような感覚に陥っていた。隼人に掛けてやれる最善の言葉が見つからない。
見つからない。
だが……
神代の瞳が隼人を捉えた。
「それはお前の心次第だと俺は思う。あの事件を知っている俺から云わせてもらうと、あれはお前のせいじゃない。お前が殺したわけではないし、お前が全責任を負う必要はない。気狂い犯人の動機が偶々お前だったというだけだ。だからそんなに」
「そんなに背追い込むなって?」
神代は言葉に詰まったように沈黙した。
それから云った。
「隼人。お前……死ぬ気か?」
俺は自身の手を見た。それから視線の端に神代を入れ、踵を返した。
扉に手を掛けると、俺は小さく微笑んだ。
「さあな」
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