この島に流れ着いてからはや3日、今だに助けは来ず。
今日は朝から雨が降って来たので、みんなでシェルターの中で道具作りをする事にした。
俺はろ過装置、後の3人は漁で使う釣り竿と罠だ。
ろ過装置で使うのは底の割れたビン、流れ着いていた布、沢で拾ってきた小石と砂利、砕いた炭、砂浜で拾ってきた砂。
ろ過をするのに汚れていては意味がないので、全部事前に洗って綺麗にしてあるのが前提だ。
作り方は入れる順番さえ覚えていれば実に簡単。
ビンの飲み口を下にして布を飲み口に詰める。
そして小石、砂利、炭、砂、布の順番に入れていけば完成。
後は一番上に汚れた水を入れれば下の飲み口から綺麗な水が出て来る……はずだ。
さて、他のみんなはどうなっているかな。
「釣り竿はどんな感じになった?」
釣り竿を作っているのはケイトとユキネさんだ。
釣り竿に必要なのは長めの棒、糸、針。
棒は1mほどの木の枝がああったのでそれを使う。
釣り針は木の枝を小さい棒状にして、その両側を尖らせるだけだけでいい。
魚は吸い込むように餌を食べるから、餌をつけておくと木の枝と一緒に吸い込んでしまう。
飲み込んだ時に糸を引っ張ると、木の枝が縦になって魚の口に引っかかって釣れるわけだ。
問題なのは糸。
ロープや蔓だと太すぎるから、手間がかかるが樹皮から作る事にした。
樹皮を木から剥ぎ取り、表面の皮と裏側の木部を石器で削り取る。
削り取る作業が済んだら貝殻に水と樹皮、木灰を入れて煮込む。
樹皮が柔らかくなるまで煮込んだら、そのまま半日ほど置いておく。
そして層を剥がして繊維を取り出して、まとめてよじると太い1本の糸になる。
後はどんどんつなげていけば釣り糸の完成だ。
「もうちょっとで完成……ずっとよじってたから手が痛いわ~……」
ユキネさんが両手をブンブンと振った。
糸の方は問題なさそうだな。
にしても、果たしてこれで魚を釣れるのかな?
釣り竿の作りもそうだけど、釣りの経験もほとんど無いから不安でしかない。
「ベルルさんはどんな感じですか?」
罠のもんどりは手先が器用なベルルさんに作ってもらう事にした。
ペットボトルの上半分を切り取って逆さまにして下半分にはめ込み、その中に入った魚が出れなくなるあの罠だ。
無論、ペットボトルなんて物は無いから細長い葉っぱと蔓を編んで作る。
先端に穴が開いている円錐型に編んだ物を逆さまにして、筒状に編んだ物に差し込んで蓋をすればもんどりになる。
「手慣れてないからぁまだ1個目が完成した所ねぇ」
「見させてもらいますね…………うん、これなら大丈夫だと思います」
「良かったわぁ」
とはいえ、1個だと足りない。
釣り竿はともかく、もんどりは何個か沈めておきたい。
その分だけ魚が獲れる確率が上がるのだからな。
「ふぃ~……お? 雨やんだみたいや」
外を見ると、青空が見え始めている。
にわか雨が来ない限りまた降って来るという事はなさそうだな。
よし、食料を探しに出かけるとしよう。
「それじゃあ、食料を探してきます。後はお願いします」
状況にもよるが基本的に俺とケイトのペア、ユキネさんとベルルさんのペアで行動し、トモヒロは必要な方について行く事を話し合いで決めた。
今日の食料探しは俺とケイトのペアだ。
「行ってらっしゃい~」
「気いつけてな」
蔓の籠を持ち、俺達は森の中へと入って行った。
※
さて、今日はちょっと遠出をして食料を探してみるか。
自然薯みたいな山芋があると嬉しんだけどな。
「……ん?」
先頭を歩いていたケイトが足を止めてしゃがんだ。
「どうしたの?」
「お嬢様、これを見て下さい」
「?」
ケイトの後ろから覗くと、ぬかるんだ地面に蹄らしき跡があった。
「これ、動物の足跡……よね?」
「恐らく」
蹄の跡って事は草食系だな。
こっちの世界でもそれは変わらない。
良かったー……肉食系が居たら大変だったぞ。
「……そういえば、この島に動物が生息しているのかどうかを考えていなかったわ」
他の事で頭がいっぱいでこんな重要な事なのに抜け落ちていた。
となれば……。
「よし、決めた」
「決めたといいますと?」
「動物を捕獲するわ!」
肉を手に入れるチャンスだ!
※
「という訳で、罠を仕掛けたいと思います」
すぐさま拠点に戻った俺は捕獲の提案をした。
ちなみに現実世界の日本では原則として、狩猟免許や狩猟者登録のない人が罠の設置をすると違法になる。
こっちの世界でも違法になるか全くわからない……が。生きていく為だ。
後で問題になったとしても、それで押し切ろう。
「罠ってぇ簡単に作れるものなのぉ?」
俺が知っている罠の種類としてはロープの輪っかを足に引っ掛けて、獲物を捕まえるスネアトラップ。
石を持ち上げて棒で支えて、その棒が外れた時に石が倒れて獲物を押しつぶすデッドフォールトラップ。
穴を掘って獲物を落とすピットフォールトラップ……早い話が落とし穴。
その3つ。
スネアトラップに関してはうろ覚え状態だからうまく作れる気がしない。
デッドフォールトラップはトモヒロの力があれば出来るだろうが……押し潰す用の石を探すのは大変だ。
となれば、ピットフォールトラップ……落とし穴が現実的かな。
「トモヒロの力があればいけると思います。とりあえず、足跡のあった場所にみんなで向かいましょうか」
大体の動物は同じところを通る習性がある。
設置をするならまずそこだ。
「……右から左に進んでいる感じか……なら……」
足跡のあった場所を掘り返すと、そこだけ色や地形が変わって違和感が出てしまう。
動物はそういった異変があると警戒して近づかなくなってしまう。
罠を設置するなら見分けがつきにくいところが理想だ。
「よし、ここがいいかな。それじゃあトモヒロ、ここを掘ってちょうだい。深さは……私の腰位わかる?」
俺は自分の腰に手を当て、大体の深さを表した。
『ウホッ!』
トモヒロは頭を縦に振って穴を掘り始めたけど大丈夫かな。
まぁ浅すぎなければ問題は無いしいいか。
「私達は穴を掘っている間に、木の棒の先を削って尖らせた物を何本も作ります」
「尖らせた棒……え? それって、まさか……」
そのまさかです。
あまり言いたくはないけど……。
「はい、落とし穴の底に設置します。落ちただけだと、登って逃げられる可能性があるので……」
「うわ~……惨い……」
「惨かろうとこの島で生き抜く為には必要な事です。特に肉は貴重ですから」
「…………うん、せやね……」
ケイトの言葉にユキネさんは石器を手にして木を削り始めた。
俺達も石器を持ち、木を削る作業に取り掛かった。
『ウホウホ』
しばらくするとトモヒロが俺達を呼んだ。
「あ、出来た? どれどれ」
俺はトモヒロが掘った穴へと入った。
深さは腰よりちょっと上くらいだからこれで十分だろう。
「削った木の棒をちょうだい」
「はい、お嬢様」
受け取った木の枝を穴の底に刺していった。
うーん……自分で作っておいてなんだが、これはまた危険な物を作ってしまったな。
俺達が落ちない様に何か印をつけておかないとまずいな。
穴から出してもらった後、穴の上に木の枝を縦横に並べて置いて、枝の枯れ葉を敷き詰める。
敷き詰めたら枯れ葉の上に軽く土をかぶせて、また枯れ葉をまく。
「うん、これならいいかな。後は……」
落とし穴の近くの木の幹に石器を押し付けて、ぐるっと1週回って線状の傷を付けた。
それを3回繰り返して幹には3本の線が刻まれた。
これなら360度どこから見ても、ここに落とし穴がある事がわかるだろう。
「この3本線の近くには落とし穴があるので、十分気を付けて下さいね」
「かしこまりました」
「了解~」
「はぁい」
さて、うまくかかってくれるといいが……こればかりは運だからなんとも言えないな。
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