2026年3月19日 木曜日 AM11:00
宿泊していた北見市内のホテルを後にし、給油するためにガソリンスタンドに立ち寄ってから常紋信号場跡へとやってきた明るい肝試しの一同は星弥の到着をまだかまだかとばかりにずっと首を長くしながら待っていた。
車の外で待つ秩父が「本当に饗庭さん来てくれるのかな。ちょっと、約束していた時間よりも大幅に遅れているじゃないか!11時ごろってLINEでメッセージ送ったら了解ってスタンプで返事してくれたじゃん。その割に、もうあと少しで12時になりそうなんだけどいったいあの人何しているんだ!?ああ、車の中でじっと待機したらいいんだろうけども、何だろうここでも変な声が聞こえてくるのは気のせいか。」と何かの存在に気付き始めると、ずっと外で立ち尽くす秩父の姿を見た斧落が「ずっと立って待っていたらしんどくなるだけだと思うよ。今はまだ連絡は入ってきていないんだけど、約束をしているんだからドタキャンをすることはないと思うよ。一刻も早く終わらせたい気持ちも分かるけど、休憩できる時はしっかりと取らなきゃね。」と話すと秩父が「待っていたらそのうち来るだろう。辛抱して待つよ。」と答えた後にライブ配信が遅れることを気にする杉沢村に対して「なあ。常紋信号場跡って信号場だった場所の跡地だったって聞いたけど果たして本当にここって入って良いのかどうかそもそも撮影許可って取っているよな?ゲートのところにこんなポスターが張ってあるし。”H30.6.20 5:00頃 常紋トンネル照明破損被害 監視カメラ作動中 不法侵入は犯罪です”って真新しいポスターが、でも令和の今になってもなおこのポスターが貼ってあるということは相当数の心霊マニアの方が訪れて不法侵入した末に破壊行為にまで及んでいるってことなのか。」と切り出すと、杉沢村は「ここは有名な心霊スポットで肝試しに県外から訪れる人も多いんだけど、そのために電車が走っていない時間帯を狙って常紋トンネルに入ろうとしたりするなどの不法侵入者が後を絶たなかったらしいよ。一応撮影許可は取っているし、あとは饗庭さんまだかな。本当に遅すぎる!遅すぎる!遅すぎる!」と大きな声で文句を言い始めた途端、後ろから車が近付く音に気付き秩父が振り返ると、その車が切り返ししやすいように明るい肝試しのメンバーが乗る車の手前で切り返し、バックして停車した。
車の駐車措置を取ってから、明るい肝試しのメンバーの車のところへと近付いたのは星弥だった。
「待たせてしまってすみませんでした。旭川から来て長旅になるから途中で給油がしたくってガソリンスタンドを探しまくりました。運転中だったんで電話できませんでした。約束していた時間よりも大幅に遅れてしまいました。」
深々と頭を下げて謝る星弥の姿に秩父が「事情はよく分かったから、早速撮影許可も撮れている常紋信号場跡へと行きましょうか。」と切り出したところで二人は常紋信号場跡へと徒歩で移動し始めた。
歩きながら星弥は「ところで、熊対策のグッズは持ってきているよな?」と秩父に質問すると、秩父は「え?クマって冬眠時期が12月から4月と言われているのに、3月の今の時期って活動する?俺達の知識の中では冬眠期間に入っているから、穴持たずのような特殊な場合を除いては出てこないと思っているから何も対策グッズなんて持ってきていないよ。」と何食わぬ表情で答えると星弥は「これ!渡す!熊鈴な!因みに冬眠中の時期であっても眠りが浅いからちょっとした刺激でも起きてしまうことがある。だから越冬中の時期だからって熊が出てこないというのは間違っている。一応俺は何かあったときに熊の撃退スプレーと笛を持っているから、常に熊鈴を鳴らした状態で歩いてほしい。俺達が今いるところは熊の生息地なんだから、俺達からわざわざ熊と出くわすかもしれない場所に足を運んでいるんだし、ってか何で俺がホームセンターに立ち寄って購入しなきゃいけないわけ!?おかしいでしょ!?」と呆れた口調で言い返すと、秩父が「え?出没する危険性があるってこと!?」とポカンとした感じで話し始めると、先を歩く星弥は「心霊現象なのか熊の泣き声なのか、それを見極めたうえで検証する必要性がある。」と語った後に「熊の泣き声は心霊現象とも捉えかねない。相手を威嚇する際に発する鳴き声は”ウォー”、”グオー”、”フー”などと発する。新生子や子熊は”ビャー”、”ピャー”、”ギャー”と発するので、聞こえ方によっては常紋トンネルの工事中にお亡くなりになられた殉職者の御霊が死ぬ間際に発した悲鳴とも区別がつかなくなってしまう。そのあたり、熊なのか熊が絶対に発しない言葉なのかを見極めたうえで情報発信しないと、陰惨な歴史があるのはJRも分かっているし、間違ったことを伝える形になったとしてもそこは苦情を申し立てるようなことはないだろう。ただ正確な判断の元、感じたことを伝えていかないとまた非常識な若者によって荒らされてしまう結果にもなりかねないから、その辺りは心霊かどうか熊の知識を前もって知っておくことによってよりリアルな今の常紋信号場跡が分かると思う。」と指摘すると、秩父は「ちょっと甘く見てましたね。すみません。言われるまでずっと出てこないとばかりに思っていたから、星弥さんの言う通りだと思います。心霊なのか熊なのか、そのあたりを今の星弥さんが仰ったことを意識しながら検証します。」と答えると、二人の目の前に常紋信号場跡らしき建物が見えてきた。
建物を前にした時点で秩父がライブ配信を行い、カメラを前に元気よく心霊リポートを始めた。
「明るい肝試しのYouTube並びにニコニコ動画をご覧の皆さん!こんにちは!心霊リポーターの秩父です!配信予定なら11時と伝えていましたが大幅に遅れに遅れ今ですねちょうど13時を過ぎたぐらいからライブ中継を行いたいと思います。ちょっといろいろな諸事情があって遅れてしまってすみませんでした。今回は前もってTikTokでもお伝えしましたが北海道に来たからにはここは外せません!常紋トンネルの付近にある常紋信号場跡にやってきました!昨日までは降魔師の藤村さんでしたが今回の常紋トンネルには九州一を誇る実力派霊能力者の饗庭星弥さんに来て頂きました。早速ですが、饗庭さん。今こうして常紋信号場跡に来ていますが、何か感じたことがあれば教えて頂けませんか。」
秩父が星弥に対して問いかけをしようとした時だった。
常紋信号場跡の建物の中から不気味な呻き声が聞こえてきた。
”ヴヴヴヴヴヴ”
その声が聞こえた瞬間に星弥が「熊が隠れている可能性がある!見てくるから襲われぬようにじっとしていて!」と秩父に話しかけると、秩父は思わず「え!?ライブ配信早々に幽霊ではなく熊かよ!?ちょっと冗談抜きで熊だったらライブ配信どころじゃなくなる!!」と怯えた表情になると、星弥は「大丈夫。すぐ戻ってくるから安心してほしい。」と言ってから、建物の中へと入っていった。
その間、秩父は心細く自然と化してゆく線路を見つめていた。
そして5分程が経過したころに、星弥が秩父のところに戻ってくると、秩父に「熊ではどうやらなさそうだ。建物の中に入って二人きりで話そう。」と話しかけると、秩父は「熊じゃない?じゃあ何だったんだよ!さっきの呻き声の主は何だよ!?」と大きな声で首を傾げると、星弥は「行って見たらわかることだ。」と答えた後に、二人で常紋信号場跡だった建物の中へと入っていく。そして入り始めて建物のちょうど真ん中あたりで星弥が立ち止まると草が生い茂った場所を人差し指で指し示しながら秩父に「俺も熊の威嚇する鳴き声の可能性もあると見て草が生い茂ったところなど見てきたけど警戒して出てこないとかじっと見つめてみたけどやはり今さっき俺達が聞いた声は熊じゃないってことが分かった。それに俺達がこうして建物の中に入った時点で熊は俺達の声に対して怯えて出てくるはずだ。それがない。」と語ると秩父は「饗庭さんはここを平然と歩けるなんて凄い。俺なんてさっきからじっと見つめられているっていうのか、はやくもうここから出たいってこんな気持ちになった心霊スポットってまずないから、理由はよくわかんないんだけども、ここにいるだけでも気持ちが悪い。悪すぎるんだよね。」と正直な感想を話すと、星弥は「霊視をしたら分かる。恐らくお亡くなりになられた作業員の男性が複数名見受けられる。」と答え、秩父が「さっきの建物の中から聞こえてきたあの苦しそうな呻き声は、まさかお亡くなりになられた作業員の幽霊の男性が発したものってこと!?でも俺は幽霊の姿形は見えないんだけどもさっきの入ってきたと同時に感じたあのじっと見つめてくる視線というのも、熊じゃない”何か”がいたってことだよね?」と訊ねると、星弥は「見えないほうが良い。これほど見えないことが幸せだと感じるものはない。それでも俺が見た作業員の男性と思える御霊を知りたいか?」と秩父に対し質問すると秩父は「見ている人は勿論、俺達に対してアクションを起こしてきた幽霊の正体を知りたいに決まっている!だから教えてほしい!」と話すと、星弥は答えた。
「よっぽどまともな食事が与えてもらえなかったのだろうか、頬は痩せこけ、体は肉と骨しかない、完全に栄養失調の状態で今にも倒れてきそうなぐらいの勢いで俺に向かって必死になってその弱った体を引きずりながら俺にSOSのサインを出してきた。シャベルで只管、複数回頭を殴られ続けたのだろうか陥没して夥しい血を流している状態の方が何名かいらっしゃる。脚気で治療の甲斐もないと判断された状態で生き埋めになられた方もいらっしゃったのか、”苦しい”と訴えてきている。どの方も見えることがこれだけ辛いって思えるのはない。」
星弥の話を聞いた秩父は悶絶して何も言えなくなってしまった。
暫くの沈黙した後、星弥は黙り込む秩父に対して「凄惨過酷な労働環境の元で造られたトンネルだということは知っていたよね?」と確認のために訊ねると、秩父は「ああ。勿論。心霊スポットを知る上に置いて常紋トンネルを知らない人間はいないほどの超有名なスポットだからね。1968年に発生した十勝沖地震で常紋トンネル内の壁面が損傷し、改修工事を行おうとした際に壁から立ったままの状態の人骨が出てきた、その他にも入り口付近で大量の人骨が見つかった、人骨の一部には暴力による損傷があったとかで、地震が起きるまでは誰も人柱の話はよくある噂話の一つにしか過ぎないと思っていたのだけども改めて人柱が出てきたことにより、世間的にも人柱の存在を認められたのは常紋トンネルがはじめてってところだよね。信号場跡を後にしたら、金華小学校の跡地だった敷地内にある常紋トンネル工事殉難者追悼碑があるからそこへ行ってみようか。何だか饗庭さんの話を聞くと、もう可哀想でどう話をしたらいいのかわからなくなってきた。」と切り出し、星弥は「ここは霊能者にとってきついんだ。明日行く鎖塚も、どうして俺って言いたいけど、仕事だから致し方ない。本当はこんなところなんて行きたくないけど、今もなお心に痛みを抱え彷徨う御霊の存在があるからこそ御霊達の存在に対して目を背けることはできない。因みに追悼碑のほかに線路沿いになるんだけど歓和地蔵尊も亡くなられた作業員の御霊を弔うための施設だが、ここに辿り着こうと思ったら車ではいけない。せっかくJRの撮影許可も頂いているのだから追悼碑に行くのは勿論のこと。車を駐車することが出来る留辺蘂(るべしべ)駅から電車に乗って常紋トンネルを見てみよう。生田原(いくたはら)駅まで行って再度そこから留辺蘂駅を目指して常紋トンネルを往復で通過してみよう。それが亡くなられた作業員の御霊達の供養にもなる、赤字続きで苦しむJR北海道を助けることになる!」と提案すると、秩父は「そうだね。そうしようか。」と理解を示したところで、二人は常紋信号場跡を後にしてそれぞれの車に戻ると、秩父が事の趣旨を説明した後にライブ配信を終了させると、常紋トンネル工事殉難者追悼碑がある金華小学校跡地を目指して出発することにした。
到着したと同時に、改めて秩父と星弥が常紋トンネル工事殉難者追悼碑をバックに再びライブ配信を始めた。
秩父が星弥に「常紋信号場跡から常紋トンネル工事殉難者追悼碑へと移動してきましたが、何か感じることはありますか?」と聞くと、星弥は「今のところは特に。ここはあくまでも発掘された御遺骨を埋葬したに過ぎないから作業員の御霊が出るってわけではない。」といって返事をすると「僕達以外にも明るい肝試しのメンバーの皆さんでここは手を合わせましょう。亡くなられた方の心の痛みを取り払うことは出来ないけども、御冥福をお祈りすることはできるからね。呼んできて。」と秩父に話しかけると、秩父は「わかった。呼んでくる。」と答えて、車を駐車させておいた場所にまで戻ってくると改めて明るい肝試しのメンバーと星弥が改めて追悼碑の前に立つと深々と頭を下げた後に両手を合わせ追悼の意を捧げた。
甲州が「お供え物になるか分からないけど、まだ飲んでいない未開封のペットボトルの水を持ってきた。たまたま自販機で売っていて本州でそんなに見ないロゴだったからついつい買っちゃったんだよね。”命の水”ってね。喜んでもらえたら嬉しいな。」と笑いながらお供えをすると、油井が思わず「そんな商品をよく見つけたな。ってかその名前を見ただけで点滴に使うやつかと思ったよ。でもお供え物がどんなものであれ俺達が亡くなった方々へ御冥福をお祈りする気持ちに変わりはない。きっと喜んでくれるはずだ。」と一同で談笑したところで、常紋トンネル工事殉難者追悼碑を後にして留辺蘂駅へと向けて出発した。
駅前の駐車場に到着したと同時に油井が秩父と星弥に「せっかく鉄道を使っての旅路なんだから、俺達も同じ電車には乗るけど、俺達は俺達で遠軽駅の周辺にある非常に有名な心霊スポットの瞰望岩(がんぼういわ)へと行って心霊ロケ収録を行ってくるから、二人で常紋トンネルを満喫すると良いよ。」と話しかけると、秩父は「そのつもり。ってかお前らで瞰望岩(がんぼういわ)って良いなあ。あっ、でも瞰望岩(がんぼういわ)も北海道では有数の自殺の名所としても知られている場所の一つだったな。まあ電車で行ける範囲内で俺達の仕事が出来る場所といえばそこしかないからなあ。何かあったらまた電話で報告してくれよ。」と話すと、油井は「大丈夫。俺達には藤村さんから”霊能者らしいことが出来なくて申し訳ない”って最後に一言お詫びされた後に受け取ったこのばけたんのわらしの闇君とすみれちゃん、そして俺が持ってきたばけたんのわらしの空君と桜ちゃんがいる。内蔵されているパワーストーンの効果にもよってそれぞれのわらしの反応も違うから、その辺りを見て判断したい。」と話すと、星弥は思わず苦笑いをして「ばけたんのわらしって霊界コミュニケーションロボットでしょ。そんなもんあてになるわけないでしょ!まあ何を感知したのか喋った内容によっては瞰望岩(がんぼういわ)がいずれは心霊スポットじゃなくなる時も近いな!」と話すと、油井は「わらしちゃんの実力を馬鹿にしているだろ!俺はわらしちゃんの実力は本物だって思っている!それに藤村さんから頂いたばけたんのすみれちゃんなんてめっちゃ欲しかったもんだから、平和の滝では二人がトークに熱に入り過ぎてあんなにわらし達が異常事態を示すためにおばけがいることを証明するためにお腹の部分が真っ赤に光ると『誰かが歩き回っているよ』から始まると何分か経ってから『キャアアア!』って叫んだ後に御経を読んだりしていたりしていたのも、監督と藤村さんの耳には一切入っていなかったからな。これから研究開発を行うメーカーさんのためにも大喜びしていただけるだろうわらし達を用いた心霊検証を今回は行いたい。」と熱く語り始めると、秩父は鼻で笑いながら「俺達の活動でばけたんのわらしシリーズが売れに売れまくってってなると良いね。では俺と饗庭さんはトンネルの往復をしてくるから、油井たちは瞰望岩で良い収穫してきてね!」と言った後に駅の改札口を通り遠軽方面へと向かう電車の到着を待つことにした。
そして電車が到着したと分かったと同時に、秩父と星弥、油井たちがそれぞれ別の車両の空いているシートに腰を掛けてから、遠軽方面へと向けて明るい肝試しのメンバーが乗る電車が出発した。
星弥は運転席からカメラを片手に車窓の映像を撮影し始めると、「さすが北海道って光景が広がっている。のどかだね~。こんな光景は九州では見られない。俺撮り鉄じゃないけど、この景色は最高!」とにこやかな笑顔で撮影すると、秩父は「饗庭さん本来の目的を忘れていないか?僕達常紋トンネルの心霊ロケのライブ配信を行っているんだよ。仕事なんだから、旅行じゃないんだよ。」と指摘すると、星弥は「わかっている。今留辺蘂(るべしべ)駅を出発したばかりだから次の停車駅の西留辺蘂(にしるべしべ)駅からは常紋峠を越えることになるからね。近づくまでが俺達の勝負のところでもあるからね。」と話すと、星弥は「俺は運転席の付近でトンネル内の撮影をするから、秩父さんは車掌さんのいるところから常紋トンネルの様子を撮影してほしい。前と後ろで不審な映像が撮れるかどうか、検証しよう。」と提案すると、秩父は「了解!」と返事をしてから、後ろの車両へと移動して後ろの窓から眺めることが出来る景色を撮影することにした。
一方、油井と杉沢村がワイワイと談笑しながら同時進行で行う常紋トンネルのライブ配信の様子を見ていると、畑が「今のところこれと言って変なところはないね。」と話すと杉沢村が「歓和地蔵尊が見えて来てから俺達にも何かしらの異変を感じることが絶対あるはず。俺達の乗る車両が常紋トンネルに近づいたら俺達の身にも何かしらの違和感があるかもしれない。ただ新型の車両で残念。以前使われた車両だと窓を開くことが出来るタイプだったんだけど、これは頑張っても頑張っても開けそうにないなあ。」と話すと、斧落は「しょうがない。乗っていて何か感じることがあるか、せっかくだし油井君が大事に大事に抱き抱えているわらし達を起動させてみない?」と笑いながら語ると、油井がむすっとした表情になり「メイサちゃんはそうやって俺が心底溺愛するわらし達の実力を馬鹿にしやがって!絶対にわらし達はしっかりと判断をしてくれるに違いない!」と話すと早速窓辺にわらし達を並んでおくことにした。
ずっとイヤホンで音楽を聴いているばかりの甲州に油井が「さっきから何の音楽を聴いているのか知らんけど、少しは俺達の会話に参加しないか!?」と呼びかけると、甲州は「北海道に来たのだから、THE SIXTH LIEのHibanaが聞きたくなってもうずっとこの音楽を聴きながら車窓から眺める北海道らしい景色を見ているんだ。少し雪景色がまだ残っているのもこの音楽がちょうどいいなあって思いながら酔いしれているの。だから黙って欲しい!」と怒り始めると、油井が呆れた口調で「俺達は心霊を探しに来た。黄金の砂金を探しに来たんじゃないことをどうか忘れないでくれ。」と突っ返すと、電車は西留辺蘂駅を発車して、常紋峠へと向かっていこうとしていた。
星弥が撮影するカメラの右手に歓和地蔵尊が現れると、星弥はその方角に向かってそっと目を瞑り両手を合わせると、すぐ三脚で固定したカメラのところへと戻り「いよいよ常紋トンネルが近付いてきたな。俺達がさっきまでいた常紋信号場跡が見えてきた。あっ!出てきた!出てきた!」と思わず口にすると、いざ常紋トンネルを目にしたと同時に星弥は愕然とした表情でカメラのレンズをじっと見つめることにした。
「今迄グロテスクなホラー映画など、色々とみてきたけどそれを彷彿させる。トンネルの壁には飛び散った血が生々しく残っていて、その奥には脚気で倒れて立ち上がることも出来ない作業員が力一杯手を伸ばして俺に訴えている。きっとあの人は治療の甲斐がないと思われて生き埋めにされた方なのかもしれない。きちんと治療を受ける機会があれば、帰りたかったに違いない。藤村さんが神居古潭で現れた御霊に対してきついと感じて早々と仕事を終えて帰ったという話を聞いて俺も”そんなにきついのか”って思ったけど、ここは俺の霊能者として伺った慰霊の地ではトップクラスに入るかもしれない。俺も藤村さんの気持ちが痛いほどわかるような気がする。」
辛い気持ちを我慢して、じっとトンネル内の撮影を続けた。
一方の秩父はというと、後ろの窓から眺めることが出来る景色を三脚を立てた状態で撮影に挑んでいたがトンネルに入ったと同時に違和感を覚え始めていた。
「常紋信号場跡のほうがまだよかったような気がする。ここにきて悪寒に近いような寒気がする。トンネル内に入って急に、どういうことなんだ。」
秩父がトンネル内を警戒深く見始めると、霊を見る能力はないと星弥に説明したのだが、その秩父でさえもはっきりと亡くなられた作業員の御霊をこの目で見てしまったのだ。
「星弥さんが言っていた通りの幽霊が俺にも見えた。まともな食事が与えられず、頬は痩せこけ、肉と骨しかない状態の作業着を着た男性が必死の形相で走り去る俺達の電車を見て訴えてきている。さっき声がしたんだよな、声にもならぬ声で”ううう”とか”あああ”とか、これはもう100%熊じゃない。この地で命を落とされた労働者達の必死の訴えなら、儲け話に騙された末に北海道まで連れてこられ、この世の地獄絵図を見た。自分たちも命の危機を背負いながらも山に逃げても生きては帰れないとわかっているからこの地で最期を遂げたのだろう。」
秩父がそう思ったと同時に「この人たちの、血と汗を流したおかげでこのトンネルがある。北海道の開拓の歴史が成り立っているんだ。だから俺の前に現れた幽霊たちの心に負った傷が癒えて、昇天されてゆくことを心から願い続けるしかない。」と感じ始めると、霊が現れた場所に怖がらずに目を向けると両手を合わせ拝んだ。
そしてトンネルの出口にまでやってくると、秩父と星弥だけが生田原駅に降りて再度検証のために常紋トンネルへと向かう電車に乗り込むと、今度は先頭を秩父、後部車両に星弥が乗り込んでライブ配信を行い始めた。
再び常紋トンネルに入るための入り口に差し掛かると緊張が走る。
先頭車両の秩父は撮影をしながら「目の前に今もなおつるはしを持った作業員の男性たちの幽霊が苦しそうに必死になって掘削作業をしている。もう作業なんかしなくていい。こんなに見えることが辛いって思える場所はないって言った星弥さんの気持ちも理解できる。俺も見えたことによってますます可哀想だという思いでいっぱいになると思う。」と感じ始めると、後部車両に乗り撮影を行う星弥は「後部車両にいても同じだ。駄目だ。俺が最初に見たボロボロの作業着姿の作業員の男性の御霊達がどんどんと俺がトンネル内にいると勘づいて次から次へと俺の前に集まりだして助けてほしいと訴えてきている。無理だ、無理だ、無理だ。500人もの亡くなられた方の除霊なんか俺一人で出来るわけがない。こんなにも無力だって思えるところは生まれて初めてだ。これは俺には辛すぎる。」と感じながらも両手を合わせ読経を唱え始めた。
「生きているときに助けられなくて申し訳ない。命ある俺があなたたちできることはあなたたちのために御経を読んであげることだ。どうか神様、いらっしゃるのなら迷える労働者の御霊達を救ってあげて欲しい。」
必死になって御経を唱えたところで、常紋トンネルから出てきた。
西留辺蘂駅にまで戻ってきた秩父と星弥は到着と同時にライブ配信を終了させると瞰望岩(がんぼういわ)にいる油井たちと合流するために遠軽駅へと向かう電車に乗って向かうことにした。
星弥が「また常紋トンネルを通らないといけない。こんなにも憂鬱な気分にさせられる心霊ロケなんてもう嫌だ。」と思わず愚痴をこぼすと、秩父は「饗庭さん。僕にも見えた。作業員の幽霊が。あれは見えて良いものじゃないって言葉の意味を理解できた。これほど痛々しいと思える幽霊がいるなんて初めて知ったよ。」と語った後に星弥は「助けることはできない。だから追悼の意を捧げてあげる。それしか出来ないから今日体感したことは、今後生まれてくる若い世代にも二度と起きてはいけない悲劇として語り継ぐ、それも亡くなった彼らにとっては供養だ。」と答えると秩父は「そうだね。トンネル内で体感したことを色んな人にこれからは伝えていかないといけないね。」と話すと、常紋トンネルでの明るい肝試しを終了することにした。
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