【完結】慰霊の旅路~試練編~

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雄別炭鉱(北海道・釧路市)

公開日時: 2022年3月27日(日) 19:54
文字数:9,882

2026年3月21日 土曜日 AM11:00


侑斗を迎えにJR釧路駅へと向かった明るい肝試しのメンバー。


車の中で雄別炭鉱の担当に選ばれた村田が「良いなあ。俺も選ばれなかったら皆と一緒に観光したかったんだけどなあ。」と大きなため息交じりに話すと、車を運転する油井が笑いながら「アハハ。もうだって入林許可だって残存する建物に入るための許可だって勿論撮影許可も侑斗さんと村田の二人で伺いますって連絡して立入並びに撮影の許可の申請も通っているんだからドタキャンをされては困るなあ。しっかりと二人で撮影して貰わないとね。先ずは管轄の事務所に挨拶に行ってこれから伺いますと説明してから現地に行かないと近代文化遺産の一つとして、経済産業省が2007年に認定した歴史ある建物として保存に向けての動きも着々と進んでいる上に、雄別周辺は国有林でまた電波が通じず圏外になるためライブ配信は出来ない。カメラを渡すからそれで撮影してきてほしい。ライブ配信が出来ないと分かった以上、俺達は電波の通じる春採湖(はるとりこ)で心霊ライブ中継を行う。何か異常があれば電波の繋がる場所まで移動した後に俺か監督に連絡して。あと車じゃないといけないから近くのレンタカーで四駆をレンタルしているからそれに乗って現地に行ってきてほしい。アスファルトで舗装されているのはごく一部、それ以外は殆どが舗装されておらずただ悪路を突き進んでゆくしかない!説明以上!」とはっきりとした口調で言い切ると村田は「はあ~。怖いからって断りはしない。選ばれた以上引き受けるけど、ただご挨拶に先ず事務所に行かなければいけない理由が何なのか、それをまず教えてほしい。そうじゃなければ、どうして立ち寄らなければいけないのかを侑斗さんにも説明しなければいけなくなるじゃん。」と指摘すると、助手席に座る杉沢村が「今回はまず最初に雄別炭鉱記念碑から行って貰って、次に雄別職員倶楽部、雄別購買跡、雄別炭鉱跡 近代化産業遺産、雄別炭鉱煙突跡、雄別通洞坑口跡、そして最後に雄別炭鉱病院跡へと向かって明るい肝試しの心霊ロケは終了という日程だ。場所は予めGoogleマップで検索して出てきたのをカラーコピーで印刷をしたからそれを片手に現地への調査をしてほしい。勿論管轄をしている事務所には”近代文化遺産の一つとして認定された雄別炭鉱の取材をしたい”ということで説明はしているので、心霊目的など口が裂けても絶対に言うな。」と念を押して説明すると、村田は苦笑いをしながら「そんな気が重たくなるような、だってその事務所の人たちだって常日頃からどんな内容が投稿されているのかチェックしているのなら、俺達が心霊目的で来ましたって内容を見ただけで通報されるリスクだってあるじゃん。心霊がどうのこうのよりも、俺はそっちのほうが怖い。ってか熊もどうなんだよ!?」と聞き出すと油井は「今も活動時期に入っているかわかんないんだけど、ここでもプーさんの目撃情報が寄せられている。ハチミツはあったほうが良いな。」と冗談交じりに語ると、村田は「何がプーさんだよ!そんな可愛いもんじゃねえ!少なくとも俺ら熊鈴と熊対策のスプレーと笛を持った状態で現地に行かないといつ心霊と化してもおかしくないってことか。」と怒りを露わにしているうちに駅前のロータリーで旅行用のスーツケースを片手に大きく手を振る侑斗を見ると、車はロータリーへと入っていく。そして侑斗の目の前で車を停車させると油井が「侑斗さんが待っている。村田は侑斗さんと一緒に先ずは事務所に行ってご挨拶をしてから雄別炭鉱に行って。現地に行けば連絡が繋がらなくなるから本当に異常事態が起きた際に電波の通じるところまで来て連絡するほか方法がない。だから二人で解決できることはなるべく二人でやってほしい。」と再度説明を行った後に村田は渋々「わかったよ。近くのレンタカーで四駆に乗ってから現地に行けばいいってことだよな。」と言って車から降りると、村田から侑斗に話しかけた。


「遠いところからわざわざ来てくれてありがとう。今回はかなり過酷なロケになると思うが宜しくね。」


村田の一言に侑斗は「ありがとうございます。長旅は慣れていますので大丈夫です。それに今回のためにこれを用意しましたよ。」と話すと、村田は「え?これってもしかして俺達への差し入れ!?」とキョトンとした表情で聞き始めると、侑斗は「違いますよ。これは伺う前に立ち寄る管轄事務所に渡す手土産です。前もって僕のほうから心霊ロケですけど良いですかってことを説明しています。管理する側としてはこれ以上心霊映像が撮れたり、また若者達によって落書きされたり破壊行為などの行為に及んでほしくないから、あまり怖い怖いと言って騒がれたくない。正直言ってあんまり快い感じの対応じゃなかったし、仮に心霊ロケだということを黙っていたとしてもいずれ投稿する俺達のYouTubeやニコニコ動画の内容を見て、説明していたことと違うとなると重大な違約事項にも繋がって、動画の削除依頼をされかねない。ここは予めカミングアウトをしたうえで、さらに皆さんにもご迷惑をおかけしないということを前提にするのならば、良い人だという印象を持ったほうが良いに決まっているじゃないですか。だから持ってきました。地方公務員の僕が代表で渡すので、まあ恐らく契約書のようなものを記載してから現地に入るという流れになるんだろうけども、仮に受け取らなかったとしても皆で食べてくれたらそれでいいですよ。小城名物の羊羹ですけどね。」と話すと、村田は「え!?俺達の知らないうちにそこまで交渉してくれていたのか。そんなことをしてくれるとは思ってもいなかった。」といって反応すると、侑斗は「本当はね、こういう心霊廃墟系のロケは、海外だと例えばUKとかなら幽霊が出るってだけでも幽霊見たさに観光客が集まるのとは対照的に日本では出ると分かった時点でマイナスのイメージしかない。怖いもの見たさの不良の溜まり場にもなる要素を作ってしまうから、行政としては(廃墟を)残したくないのが心情。心霊系や廃墟マニアによる不法侵入も横行している現状も踏まえた上で理解してほしい。」と語り村田は「わかった。」といって返事してから、予約をしていたレンタカー会社へと向かい四駆に乗った状態で管理事務所へと挨拶へ向かうことにした。


そして一通りの挨拶を終え、車に戻ってきた侑斗と村田がほっと一安心した表情になっていると、村田が「まさかあんな侑斗さんの買ってきた羊羹があんなに喜ばれるとは思ってもいなかった。仕事中ですのでとは言わなかった、そこが驚きだった。」と切り出すと、侑斗は「見た感じご年配層だし、それに事務仕事ばかりだから甘いお菓子があればちょっとしたお昼休みに皆で配って食べれるぐらいの個数はあるからね。食べた後が胃にもたれやすい洋菓子ではないから普通に喜んだに違いない。シンプルな羊羹にしてよかった。」と自画自賛するように話すと、村田は「その自慢がいつまで続くのか。果たして雄別炭鉱で”キャアアア!”なんて悲鳴を上げるようなことにはならないでよ。昔悪霊に憑かれて大変なことにあったロケもあったみたいだしね。」と指摘すると、侑斗は「わかっている。持ってきたお菓子が喜ばれたことに対して浮かれていないから。行かなきゃいけない場所も多いんだから、ああだこうだ議論していないでサッサと行ってサッサと終わらせよう。熊が活動する時間ともかち合いたくない。夕方、17時までには終わらせよう。長居は禁物だ。」と語り、村田も「そうだな。それだけは避けたい。ちゃっちゃと収録を終わらせて何もありませんでした!と終えたいな。」と侑斗の意見に理解を示したうえで、管理事務所を後にして雄別炭鉱へと向け出発した。走らせてから数十分が経過して地図を片手に助手席に座る侑斗が村田に「あれ?右手に立ち寄れるようなところがありますよ。この場所、今俺達の来た道順で考えると雄別炭鉱記念碑じゃないんですか。行きましょう。」というといったん村田は確認のために停車すると、「どうやらそのようだな。駐車してから心霊検証を行おう。」と答えると、車を駐車可能な位置に駐車をしてから、村田がカメラを片手に撮影を始めた。雄別炭鉱記念碑のところへと二人で駆け寄った。そして記念碑をバックにカメラを三脚に建てた状態で撮影し始めた。


カメラを前に村田が霊能力者の饗庭侑斗と共に雄別炭鉱の心霊ロケにやって来ていることを語った後に侑斗に対して「心霊スポットは主に購買跡、病院跡、”安全生産”と掲げられた現存する雄別通洞坑口跡ぐらいかな。ここは記念碑があるぐらいで心スポじゃないと思う。」と説明すると、侑斗は頷きながら「どうやらそのようだな。力が微弱な浮遊霊がいるのはわかったが、禍を齎すほどのものではない。生前に思い入れのあったこの地に戻りたいその一心で戻ってきた御霊達なのかもしれない。ここはそういう場所だったのだろうな。閉山するまでは良いところだったんだよ。」と答え村田は「まあ炭鉱で栄えたところだからね。出炭量で町の経済も非常に潤っていた時期には12000人の方が住んでいたそうだしね。時代が石炭から石油へとニーズが変わっていくことに対抗手段が見出せなかったのと、事故が起こったのも追い打ちをかける形となって閉山並びに運営していた雄別炭礦株式会社の倒産もあり、追い出されるような形で町を後にするしかなかったのだからね。思い入れはあって当然かもしれない。」と語ると二人は足早に車に戻ると次の目的地の雄別職員倶楽部の付近へと向け出発した。


数分も経たぬうちに、雄別職員倶楽部の付近へと辿り着き、車を邪魔にならぬように路肩へと寄せた状態で駐車してから現地へと向かうも、侑斗は村田に「これはある意味で心霊廃墟だな。とても入れそうな状態じゃない。崩壊寸前だ。辛うじて柱が支えている。まさかあんな建物に入れとでもいうのか?」と首を傾げながら話すと、村田は苦笑いをして「まさか。あんな状態じゃ俺達も心霊になりかねん。入るのは無理、外から眺めるしかない。」と語ると、可能な限り建物の撮影を終えたところで、村田と侑斗がすぐさま車に戻ると、村田が「次はえっと地図上だと雄別購買跡、雄別炭鉱跡 近代化産業遺産なのか。購買跡が心霊って言われる場所だったな。重点的に調査をする必要がある。」と侑斗に対して話しかけると、侑斗は「ああ。あの某有名怪談家の方が映画館に違いない!と言っていたが実は購買跡だったってところだよね。そう見立てた理由についても、検証のし甲斐がある。」と答えた後に、車を走らせた。


左手にパッと見えてきた購買跡を見た侑斗は「見た限りハズレっぽいな。出るような感じが一切ない。」とはっきりとした口調で言い切ると、村田は「それじゃ心霊検証のし甲斐が!?それでも現地には伺ってくれるよね!?」と確認すると、侑斗は「パッと見だよ。でも悪い気がない。現地で霊視の必要がある。」といって返事をした後に村田は車を駐車可能なところに駐車をさせてから、二人並んで歩くような形で購買跡へと向かった。村田も侑斗に「気配はあるんだよな。出そうだなってのが、でもこの建物の壊れ具合から、あの意図的に壊された部分がお亡くなりになられた御遺体の遺体保管所が病院だけでは収まりきらなかったために御遺体の仮置き場になったに違いないと見立てたのも頷けるような気がするのだが。でも購買跡だってわかっている以上、その可能性は無いってことだよな。」と話すと、侑斗は黙って購買跡の中に突き進むようにして入ると、立ち止まって深く深呼吸をした後に霊視と透視を行った。


”ここは多くの方が、日用品や食料を買うために集まり、また町民の方からすると憩いの場の一つだったのだろう。奥様同士で楽しそうにやり取りしながら買い物している姿が見える。大きく意図的に開けられた場所は商品を入れるための搬入口で、多くの御遺体を一度に一時的に預かるために壊したわけではないようだ。”


侑斗がそう話すと、辺りを隈なくチェックし始めた。村田も侑斗の後を追うようについていくと、村田は「ここが憩いの場なら、何か出くわしてはいけない幽霊だとかそういったのは見た感じなかったのか?」と侑斗に対して訊ねると、侑斗は「今のところはないな。ただ記念碑のところでもそうだったが、思入れのある土地だったのに離れなければいけなくなった。そんな思いが死んでからもう一度訪れたいと思えるスポットのうちの一つになっているのだろう。ある意味で霊場と化している。ただ何度も言うが禍を齎すほどの力は持っていない。」と話しながら二人は二階へと上がる階段を侑斗が先に到着すると、後ろの村田に「村田さん。引き返そう。これ以上は進めない。床が今にも抜けそうだ。」と話すと、村田が「途中の踊り場のフロアのスペースの部分だって床が抜け落ちていた。ここから先は今にも崩落しそうな危険しか待ち受けていなさそうだな。」と語り、検証を終えたと考えた二人は次の雄別炭鉱跡 近代化産業遺産へと向け移動するが、かつてのガソリンスタンドと鉄道が走っていた時の橋脚の跡並びに住民が住んでいたアパートのようなものがあるだけで、サッサっと見回しただけであっという間に心霊検証が終わってしまった。


侑斗が両手の手の平を叩きながら「よし!次の雄別炭鉱煙突跡、雄別通洞坑口跡とみてラストの病院!病院へ行って皆がライブ配信をしている春採湖(はるとりこ)へ行こうぜ。崩壊寸前が多すぎる。辛うじて建物が残っているので殆どが立入禁止、検証のし甲斐がない。こんなところで時間を稼いでもしょうがない。」と言い切ると、村田は「購買跡も入って心霊検証もしたところだし、雄別炭鉱跡 近代化産業遺産だって何もないと分かれば長居をしてまで回る必要も無い。先に進もう。」と語り車まで戻ってくるとあっという間に雄別炭鉱煙突跡に到着すると、車を駐車可能なスペースに停めてから向かうことにした。


残された巨大な煙突を目に村田が「噂だと訪れたときに煙突が逆さまに見えてしまうと雄別炭鉱から帰れなくなる。そのほか、煙突の上から子供が手を振っている姿を目撃して”おかしいな”と感じながらも手を振り返すと気が付けば煙突の上に連れていかれており、そこから落下してしまうというのがある。」と話すと、侑斗は「まあよく思いついた怪談話ってところだな。そういえば恐怖で震え上がるだろうなあ的なもので現実そんなことは有り得ない。」と鼻で笑いながらも煙突を見上げた。


「ただの煙突。恐怖要素は何もない。御霊の存在も確認できない。次行こう。」


侑斗が村田に話すと、さっさと地図を片手に雄別通洞坑口跡がある場所のほうへと移動すると村田が「えっ!?たったそれだけ!?ってかめっちゃテンポ速いな。」と侑斗のスピーディーな対応に、侑斗は「出来ることなら、メインを雄別通洞坑口跡と病院跡にしたほうが良いと思う。長居をしたら時間の無駄。無いと分かったらパッと切り上げ次へ行こう。せっかくだから見たいと思う人が思う映像を撮影することに専念したほうがより視聴回数も増える筈。」と話し、村田は「視聴回数を気にしてくれるのは嬉しいけど、でもこのテンポの速さには付いていけない~。」と愚痴をこぼしながら雄別通洞坑口跡へと向かっていく。


雄別通洞坑口跡を前に侑斗が「ここはかつて鉄道が通っていた場所なのだろう。トンネルだった場所が埋め立てられて、橋脚だった場所は完全に足場がなく、近づけそうにないな。」と村田に対して話すと、村田は「かつては舌辛川(したからがわ)沿いに複数の坑口があったそうだけど、確認が取れているのは主力としていた雄別通洞坑口跡のみであとはあの川沿いをひたすら探すしかないのだろうけども、ただこの与えられた地図情報などを見ても、それらしき情報の記載がされていないから現存はしていないのかもしれない。」と話すと侑斗は「電波が通じたらね、ストリートビューでも確認できるのかもしれないんだけど、でもここだけで確認する限りでも水場と化しつつある今、そのためかやはりここは霊が集まりやすい環境が揃っているために非常に遭遇しやすいのかもしれない。今俺が立っている場所から確認しただけでも複数名の炭鉱夫らしき男性の御霊を捉えることが出来た。恐らく事故で亡くなられた方なのかどうかをジャッジするのは、やはり複数ある坑口を確認してからじゃないと判断は難しいな。生前に思い入れがあって再度この地に来ている可能性もあるから。行けるところが少ない分、これだけで推理しなさいってのは厳しい。」と答えると、村田は「だろうなあ。どの心霊系のYouTuberの動画を見ていても、取り上げられるのは俺達がさっき行ってきた購買跡とこれから行く病院跡が殆どなんだけど、やはり雄別通洞坑口跡だけでは判別はしづらいと思う。確かめるためにも、さっと切り上げた後に車を発進させて最終の雄別炭鉱病院跡へと向かった。


車の駐車可能な場所に駐車をしてから雄別炭鉱病院跡へと向かう道を地図を片手に険しい獣道を突き進んでゆくうちに、病院らしき建物が見えた。


村田が侑斗に「見えた。見えた。ここに来るまでが本当に探検隊そのものだったけどいざ入り口らしきものが目の前に現れたときに”はあ、やっと辿り着いた”というこの達成感がたまらないね。因みに噂では事故で亡くなられた方々が幽霊となった今でも彷徨い続けているとされている。」と説明すると、侑斗は「病院は出やすいからね。でも外観を見た感じでは、俺の直感だけど”出るな”という印象だね。中に入ればより空気が変わってくるかもしれない。」と語ると先に正面玄関から入っていく。


続けて村田が入っていくと「あそこに防犯カメラと人が入った際にセンサーが鳴るようになっているんだ。ここまで厳重にセキュリティが施されているということは、貴重な文化遺産を守っていこうということだろうな。落書きも見た感じされてあった箇所をペンキなどで塗って綺麗にされているね。」と語ると、村田は「だろうな。そのためにも人が入ってきたときに探知するセンサーや防犯カメラをつける理由の一つとしては窓ガラスが割れて侵入は出来るが仮にもし誰かが許可なく不法に建物に侵入して落書きされたり破壊行為に及んでほしくないというのがある。俺達は許可を頂いてから撮影に臨んでいるけども、そうじゃなければ熊も出る危険性が高いし、こうやって熊が出たときの熊スプレーと熊鈴をリンリンと鳴らしながら歩かなければいけないとなると、わざわざ足を運んでまで訪れる必要性は無いかな。出るのは間違いないけども、危険なリスクを背負ってまで来る必要はない。」と語りながら、2階へと上がるスロープを見て「今では当たり前のバリアフリーの構造だけど、当時としては画期的な設計だったのだろうな。」と語りながらスロープを上がり始めると眺める景色を見て「全面ガラス張りだから、凄く綺麗な景色を一望できる。ここだけでも写真撮影したくなる気持ちも理解できるなあ。新緑の季節に足を運んだらもっと綺麗かな。今はまだ雪景色がちらっと残っていて、本当にこんなにも緑を堪能できる設計になっているというのが理解できる。ただ電波が通じないのが残念。」と思ったことを語りながら、上がった直後に侑斗が「うん?」と反応を示すと、後ろから村田が「何かあったのか?」と声をかけると、侑斗は「さっき、あそこで子供が俺のほうを見てちらっと見て左の廊下のほうへと駆け抜けていった。まさかと思うがこんなところに子供なんていないよな?」と話すと、村田は「何を言うんだよ。大人でも来ない場所に子供が来るわけないじゃん。」と突っ込み始めると、侑斗は「まあそうだろうな。病気で入院していて、治療の甲斐も虚しく亡くなられた方が、思い入れがあって再び来たというのかな。そういう感じだね。そのほかの部屋も確認が出来る範囲内で確認しようか。」と自分なりに感じたことを話すと、村田は「炭鉱夫の霊は出たのか?」と質問したところ侑斗は「今のところは特に。ただ入院していたであろう患者さんの御霊がちらほらと、子供の霊が駆け抜けた方向へと今突き進んでいるけど、部屋の入り口からちらちらとまるで”先生!”と呼んだら反応を示してくれるかなという感じで現れているのが多数見受けられる。悪い気は一切しない。どこかとは事情があって言わないけど某都道府県にある病院の施設も兼ねた老人ホームのほうが、俺的にはやばかったのを覚えている。夜に管理人の許可を予め頂いた状態で撮影に挑んだけど、老人施設で暮らされていたであろうご高齢の女性かな、あまり主張をすることが出来ないようなタイプなのかは分からないけど、よくある主張できるタイプの人にはスタッフの目が行くけどそうじゃないタイプの人は見逃されやすくって異変が生じたとしても気付きにくいってパターンなのかもしれないが、俺があの時に見たご高齢の女性のほかに男性もいて、複数名が俺達の背後を付いて歩いて回っていた。下水のタンクの中にいるような、異常な腐敗臭がするって訪れた人は口を揃えて言うが、恐らく見過ごされた方達、お風呂にすら入れるような状態だったのか恐らく違うだろうな。対応があまりにもお粗末すぎたがゆえに潰れて心霊廃墟となったんだろうけど、あれは駄目。生前に訴えたかったことを言葉にはできないが俺達を見てSOSのサインを出しているのだから、きちんとした経営をしていたらこんなにも時代のニーズに合わせて造られただろう施設が潰れることはありえないからね。何かある。まあ某都道府県の訳アリ廃病院はさておき、ここの雄別炭鉱病院跡は違うと思う。閉山にならなければ廃病院にはならなかっただろうし、町の自慢の一つだったと俺は思う。心霊スポットだというにはちょっと失礼かな。思い入れがあってここに戻ってきている御霊達を見ていたらそれぞれが戻りたくても戻れなかったから死後にもう一度足を運んでいるって感じがするな。だからそっとしておけば、禍を齎す可能性は無い。炭鉱夫の霊も今のところはいない。どうしても見たければ坑口をひたすら探すのが良いだろうが現存しているのが少ないのであきらめるしかないだろう。以上。」と話すと、2階の全てのフロアを見終え、3階まで上がってくると屋上へと出てみた。


侑斗が「建物と自然が共同している。植物は強いね。コンクリートの地盤で出来たところでも群生して育っているのだから、改めて命の強さを感じさせる。ここはもう怖いとか、そういうことは忘れて、純粋に観光地の一つとして味わうべき場所なんだと思う。こんなにも綺麗にされてあるのを見たら、あとはここに今もいらっしゃる御霊達を刺激せぬようにしなければいい。ここに彷徨う御霊達にとって、最期を過ごしたこの地が安らぎの場所であり騒がれてほしくないと思っているからね。遺体安置所とされる地下室も多分あのスロープの下なら行けそうにない。フロントの裏手にも地下に降りれるスペースがあったがあれは入院患者のカルテルなど保管する場所だった筈。見るところ全て見終えたらもう心霊調査は中止しよう。今俺達がこうしてカメラ片手に撮影しているけど、霊視をしなければわからぬほどの微弱な霊しか確認が出来ないので、運ばれた炭鉱夫の方々の無念のようなものは感じられない。時代の流れと共に浄化したのかもしれない。怪異減少は起きにくいだろうし、何もないと分かれば後は病院を出てロケ収録を終了させよう。」と話すと、再び1階まで下りて確認のために1階のフロアをまわれる限りの範囲内で探ってみるがやはりこれと言って異変もないまま、雄別炭鉱病院跡の正面玄関から出て後にすることにした。


最期に村田は「侑斗さん的に雄別炭鉱の怖さってどうよ?」と話すと、侑斗は「かなり色々な方が訪れているから心霊観光地と化しているからね。色んな人々の目があるから殆どの御霊が昇天されていると思う。もう怖いと言えるものはない。星であげるなら一つ半ぐらいかな、だからあとはそっとしてあげるべき場所なのかもしれない。御霊達はそれを一番望んでいる。もうこれ以上騒がれてほしくないとね。」と語ったところで雄別炭鉱での心霊ロケを終了した。

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