【完結】慰霊の旅路~試練編~

退会したユーザー ?
退会したユーザー

華厳の滝(栃木・日光市)

公開日時: 2022年1月30日(日) 17:13
文字数:7,560

バルセロナで最後となる1月3日を迎えた星弥と侑斗はスペイン時間の朝9時に慌しく出国の準備を済ませた後に空港まで一緒に出迎えてくれた祖母に対して星弥がカタルーニャ語で「お婆ちゃん!ありがとう!またバルセロナに遊びに行くから元気で長生きしてね!」と話すと侑斗も続けてカタルーニャ語で「またおばあちゃんの美味しい手料理が食べられてお正月料理でお腹いっぱいになって大満足!遊びに来るから楽しみにしてね!」とにこやかな笑顔で手を大きく振ると搭乗手続きをしていたフランス行きの飛行機に乗り、12月28日から過ごしていたバルセロナを後にした。


移動中の飛行機の中で侑斗が持っていたタブレットを片手に星弥に「1月3日の生放送肝試しは栃木県だったみたいだよ。矢板市のおしらじの滝に、日光市の華厳の滝。どれも俺ら霊能力者としても検証のし甲斐があるな。」と話すと、星弥は苦笑いをしながら「んなもん、霊感エネルギーの強い人間が寄ってたかって8人も集えばそりゃあ御霊達は集まるに決まっている。霊視が出来るクリエイターたちで集っているんだから当然ながら心霊好きにはきちんと説明するべきところで説明しているんだから、ただの心霊スポット巡りをしているYouTuberとは違うだろ。しかし気掛かりだ。」と話すと、侑斗は星弥に「気掛かりって何?まさかと思うけど、俺達が管理する”慰霊の旅路”の消滅の危機?とでも言いたいのか?」と聞き始めると、星弥は「そういうことじゃない。今の俺達はテレビ局や御祓い依頼を引き受ける形で霊能者としての活動を続けているが、明るい肝試しのメンバーのような霊感が強いメンバーが8人も揃っていてその上御祓いの能力がないと、とくに悪霊は霊的エネルギーの強い者が持つエネルギーを吸収しようとして狙ってくる危険性がある。そうなったときに、明るい肝試しのあのメンバーではそれに対処することが誰も出来ない。襲われたらおしまいだ。そもそも霊感の強い人たちが集って肝試しを行うこと自体が間違っている。彷徨う御霊はきっと霊的エネルギーの強いと分かっただけでも”救済に来てくれた”とも勘違いされかねない。たとえ大人数であれど、そのうちの一人が御霊が齎す禍を祓える能力がないといつかは取り返しのつかないことがおきてもおかしくないだろう。」と答えると、星弥の答えを聞いた侑斗は「兄ちゃん。俺達は明るい肝試しのメンバーに対してそれを指摘する必要があるんじゃないのか?」と聞き始めると、星弥は「何も指摘をする必要はない。霊感が強いことを売り文句に俺達が今まで行ってきた霊視検証さえも疑い自我持論を繰り広げるような奴らに俺達の指摘など仮にもししたとしてもそれは馬の耳に念仏だろう。あいつらは悪の恐ろしさを何も知らない。身をもって体験することでより俺達霊能者に対する態度も変わってくるだろう。」と話すと、侑斗は黙り込んで何も言い返すことなく明るい肝試しが投稿した動画を確認するためにYouTubeのアプリをクリックすると、投稿されたばかりのおしらじの滝と華厳の滝の心霊動画を閲覧し始めた。


「俺はそんな奴らであっても救ってあげたい。それが俺にとっての試練となったとしても俺は何とか近づきたい・・・!」


時は戻り、おしらじの滝を後にした明るい肝試しが次の明るい時間帯でのライブ配信で肝試しを行う場所と時間をTikTokで配信し始めたのだった。甲州がカメラを前に次の心霊スポットの話について説明をし始める。


「明るい肝試しのファンの皆さん!こんにちは!!今我々が向かおうとしているところは栃木県最恐を誇ると言っても過言ではない華厳の滝です。華厳の滝は日本の三大自殺の名所とされており、福井県の東尋坊、和歌山県の三段壁と並ぶ非常に有名な心霊スポットの一つです。華厳の滝が自殺の名所として知られるようになったのが明治36年5月22日に夏目漱石の教え子だったエリート学生の藤村操が近くの木に遺書を残し華厳の滝で自殺を図った。遺書には”巖頭之感”と題されており、世の中は悪と悲惨に満ち溢れているという内容が記されてあったという。藤村の死は社会に大きな影響を与えたのは言うまでもありません。後追い自殺で4年の間だけで185名もの方々がこの滝で命を絶ちました。そして相次ぐ自殺者の報告が自殺の名所として知られるようになったと同時に自殺者の霊が出るとも噂されるようになった場所です。調べたところ、今では華厳の滝で自殺を図る人間は殆どいなくなったとされているが、今も自殺者の幽霊が彷徨っているのか否か、明るい時間帯の肝試しで実証したい。華厳の滝でのライブ配信は13時から生放送でYouTubeとニコニコ動画でライブ配信を行いますのでぜひ華厳の滝での肝試し配信を楽しみに皆さん待っていて下さい~!」


TikTokでの宣伝を終えた一同は昼休憩を取ることもなく華厳の滝へと向かい始めると乗ってきた車を県営華厳の滝第1駐車場に車を停車させると、華厳の滝展望台がある方向へと歩き始めた。そして華厳の滝エレベーター営業所の前に着いたと同時に、YouTubeとニコニコ動画でのライブ配信を行うための撮影が13時になったと同時にスタートした。


畑の持つカメラを前に村田が油井に対して「午前中はおしらじの滝での明るい肝試しだったけど、午後からは栃木県でも最恐と言われている華厳の滝にまで来たね。折角だから滝の近くまで行くことが出来るエレベーターでも利用しようか?」と切り出すと、油井が頷きながら「そうだな。滝の近くまで行ってみて現れるかどうか検証してみようか。」と答えたところでカメラは一度中断するような形でカメラを下に向けると、華厳の滝エレベーター営業所内にあるきっぷ売り場で一同がエレベーターの往復料金570円を支払い、エレベーターに乗り込む。


エレベーターから降り、滝の近くまで接近することが出来るスポットへと向かう通路に辿り着いたところで、再びカメラでの生配信が行われ始めた。


そのことについて油井が「さっきはライブ配信を中断してすみませんでした。一応撮影の許可は取っているんですけど、他の観光客の方がいますので、写すわけにはいかないという理由で一時撮影を中断しました。」と説明した上で、村田が「あと少しで華厳の滝の絶景を堪能できるポイントへと辿り着くな。」と油井に対して語ったところで油井は「そうだね。でも今のところここでは霊の気配は一切感じない。投稿されている動画の内容などを見ているとこれは明らかにここではなく、エレベーター営業所の先にある華厳の滝展望台のほうだろうな。」と語ると、村田は「恐らくそうだろうね。何もお金払ってここから身投げをするようなことをするとは思えない。」と言って答えると一同は滝の絶景を眺めるスポットへとやってくると、流れていた滝がまるで時が止まったかのように凍り付いている様子を見て斧落が思わず「凄い。この冬の時期にしか味わえない絶景だね。」と話すと、斧落の言葉を聞いた甲州は「言葉には言い尽くしがたいね。」と語った後に持っていたスマートフォンで撮影をし始めたのだった。


斧落と甲州のやり取りを見た杉沢村が苦笑いをしながら「おいおい。俺達の目的は明るい時間帯の肝試しであってパワースポット巡りをしに来たんじゃないんだぞ。出ないと分かったからさっとエレベーター上って華厳の滝展望台へと移動しようぜ。」と指摘すると、斧落は「わかっているよ。でもせっかくだから幽霊が出ない時間だってこんなところなんて東京に住んでいたら日光なんて来ることなんてないじゃん。肝試しだけじゃなくってさ、旅行気分だってたまには味わいたいよ。」と話すと、杉沢村は「わかった。わかった。」と返事をしたところで、一同は華厳の滝展望台へと移動するために帰りのエレベーターへと向かうことにした。


華厳の滝展望台へと向け歩くこと数分が経過したところで、数多くのYouTuberが動画配信を行っただろう華厳の滝展望台に到着した。


そこで改めて斧落が油井と村田に対して「あの真正面に設置されてある高いフェンスって景観的に考えてもおかしくない?」と聞き始めると、それを聞いた油井は「景観的におかしい?どういうこと?」と質問すると斧落は「あそこだけ高いフェンスが設けられてあるってことはどういうことなんだろうなって思った。だってあそこだけ高いフェンスなんだろうなって思った。右側にはないのに、あそこの真正面のところと左側にはそう簡単には上れないようなフェンスになっているからね。」と話すと、それを聞いた村田はぶっと吹いて笑い始めると「メイサちゃん。それは投身自殺対策のためだよ。」と話すと、後ろで聞いて居た後藤が「自殺する人間の行動心理学上で考えると、入ってすぐの右側から投身自殺を図るとは考えられない。歩いていて目に留まるところで衝動的に命を絶つパターンが多いとも考えると、相次いで自殺が発生したのはまさに高いフェンスが設置されてある場所なんじゃないのか。そう考えるとここ最近自殺者がめっきり減ったというのも、このフェンスがあるおかげもあるからじゃないのか。」と後藤なりの解釈を伝え、油井は「その可能性があり得るな。フェンスに近づこうか。」と答えると、油井と村田はフェンスの付近まで接近をしようと試みたが、油井が何かを感じ取ったのか急に立ち止まった。


”ううう”


フェンスの向こう側から男の呻き声が聞こえてきた。


油井が秩父に対して「音拾えた?明らかに聞こえたらおかしい方向から男の呻き声がしたよ。秩父も聞こえたよな?」と聞き始めると、秩父は「俺も聞いた。でもあれは拾えなかったと思う。」と話すと、秩父が続けて「呻き声だけじゃないんだよな。ここって観光目的であれど結構歩くわけだし割と訪れている人の大方はスニーカーだったりクロックスとか歩きやすい靴を履いている人が多いと思うんだけどさ、下に下りる階段のほうからさ高いハイヒールのさ、カツ、カツって歩く音が俺と後藤の後ろからも聞こえるんだ。誰か近付いて来ているのかなと思ったけど、誰もそんなヒール音がするような靴を履いていない。」と説明すると、村田は「音で俺達のことを威嚇しに来ているのかもしれない。注意をしながら肝試しを実行するしかない。」と提案した。油井は村田の意見を聞いて恐る恐るフェンス越しから眺める崖の下の景色を見てみる。続けて村田も確認のためにフェンス越しからの景色を眺めはじめる。


油井が「このフェンスをバックに皆で記念撮影をしようか。念のために一人一人の写真も撮影しようか。何もない状態での写真も撮ろう。何か映るかもしれないね。」と話すと、検証のために3台のカメラを使用し何もない状態でまずは写真を撮影し始めると続いてメンバー一人一人を撮ったところで最後にその場にいた観光客の方にお願いする形で明るい肝試しメンバー8人全員の記念撮影を行った。


写真を撮ってもらった観光客の方に「YouTubeで見ています!明るい肝試しの方々ですよね?いつも楽しく見ています!」と言われると、油井は照れながら「そんなことを言って下さるなんて嬉しいです!ありがとうございます!これからも引き続きご視聴のほど宜しくお願いします!」と代表して杉沢村共々挨拶をして、一同は階段を下りてそこでも念のために何もない状態での写真撮影をした。ある程度霊が出てきそうだと思った場所の写真を撮り終えたところで、改めて一同は他の観光客の邪魔にならぬ場所にて、撮影した写真や画像の検証を行うことにした。


ポラロイドカメラで撮影を行っていた甲州が油井に対して「この写真さ、何か変じゃない?この木々の下に顔のようなものが浮かび上がっている。」と切り出すと、チェキで撮影していた斧落は「こっちだって赤い靄のようなものが写っている。カメラのフラッシュによるものとは思えない。」と言い出すと、続けて杉沢村が撮影したデジタル一眼レフカメラで撮影した画像を確認すると、それを見た畑が「こっちは白い靄か。それにしてもカメラのフラッシュによるものでも、ハレーションでもホコリによるものとは考えにくい現象が起きているのは間違いない。」と語ると、それを聞いた後藤は「いや、そうじゃなくても人の顔は浮かび上がらないよ。明らかに自殺者の幽霊だろう。」と言ったとたんに、後藤の背後から女性の声が聞こえてきた。


”あああ”


後藤が思わずハッとなり振り返るも、背後には誰もいない。周りには笑いながら写真撮影に興じる観光客ばかりがいて、誰一人後藤に近づき声をかけるような痕跡なども見受けられなかった。


後藤が油井と村田に「さっき、俺の後ろから女の呻き声がした。あああって。油井が最初に聞いた男の呻き声もそうだし、やはりここには自殺した霊達が彷徨い続けていることに間違いないだろう。それに俺達は今自殺の名所としてここにきているけど仮にもしこの事実を知らなければ、この高いフェンスが無ければ”下のほうで誰かが助けを求めている”と善意ある方が柵から身を乗り出して命を落とした可能性だって否定はできない。そう考えるとここはかなり危険な場所だろう。心霊写真も撮れたし秩父の持つ高性能マイクで果たして拾えたかどうかはかなり微妙なところではあるけどもひょっとすると不審な音が入り込んでいる可能性だってある。それは後々行う編集の際に確認しよう。肝試しをもう終わらせて、華厳神社にお参りしてから、群馬県へと向けて出発しよう。監督もこれ以上調べる必要はないと思うよな?」と言って杉沢村にどうするのか質問をし始めると、杉沢村は後藤に対して「もういいだろう。あまりにも俺達の周囲を自殺者の幽霊たちが取り囲むと今度は俺達が太刀打ちする手段がない。御祓いの能力のない俺達には禍を齎す危険性がある霊達と対等に戦うことはできない。華厳神社にお参りしてから明くる日の明るい肝試しに向けて出発しよう。」と話したところで、華厳の滝展望台を後にすることにした。


そして、華厳神社に到着すると早速一礼二拍手で8人全員が並んで参拝を済ませたところで、ライブ配信を終了させた。車を駐車させておいた駐車場へと戻ってくると、次の目的地へと向けて出発することにした。


「営業時間ギリギリの16時30分までに滑り込むような形になったけど、ゆばコロッケと餃子コロッケ、なかなか美味しいね。」


車の中で購入したコロッケを食べながら斧落が語ると、甲州は「あれだけグルメとか充実しているんだからもう少しゆっくりと心霊検証じゃなくて観光したかったな。甘酒めっちゃ美味しい。五平餅と相性が凄く良い。」と言いながら、それを聞いた村田がゆばコロッケをかじりながら「華厳の滝で自殺をした藤村操ってYahoo!のワード検索で調べて改めて遺書とされる巌頭之感ってのを読んでみたけど、16歳の少年が考えるにしては凄いことを考えたよなって思いながら今読んだんだよ。」と話すと、記載されてある内容を口頭で説明をし始めた。


「巌頭之感」


”悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲學竟に何等のオーソリチィーを價するものぞ。萬有の眞相は唯だ一言にして悉す、曰く、「不可解」。我この恨を懐いて煩悶、終に死を決するに至る。既に巌頭に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし。始めて知る、大なる悲觀は大なる樂觀に一致するを。”

(出典先:Wikipedia 藤村操の記事より引用)


(訳文)


なんと悠々たるかな、天地(=の空間の広さ)は。なんと遥かなるかな、古今(=の時間の長さ)は。私は五尺(=151cm)の小さな体で、この偉大さを測ろうとしました。ホレーショ(=シェイクスピア『ハムレット』に登場する彼の友人の名前)の哲学は、結局は何らの権威者に値するものか。万物の真相はただひと言で言える、すなわち「不可解」だと。私はこの恨みを抱いて悩み苦しみ、ついに自殺の決意に至った。今すでにこの華厳の滝の岩頂に立っているが、胸のうちには何の不安も無い。初めて知った。大いなる悲観は大いなる楽観と同じだと。


村田がじっくりと読み上げると、それを聞いた油井は思わず「俺が16歳だった時、少なくともそんな考えは芽生えなかったな。万物の真相って何だよ!ってなるな~しかもシェイクスピアの劇を知っていて、セリフまでも覚えている。」と苦笑いしながら話すと、村田は「因みにホレーショの哲学とされているのが凄いんだ。」と話すと英語で書かれた文章を読み上げることにした。


"There are more things in heaven and earth, Horatio. Than are dreamt of in your philosophy"

(訳:この天地の間には人智の思いも及ばぬことが幾らでもあるものだ。)


村田が「つまり天地の心理とは何か、人間として生まれた目的は何か?」と死ぬほどの決意を固めるほどの哲学的な思想を抱いたまま命を絶ったのだからね。一説では縁談の決まった女性に藤村が恋しており、叶わない恋だと知った藤村が絶望した末にという失恋説もあるから、いずれにしろ16歳で人生を悲観した末にということなのだろうね。生涯を共に捧げるつもりだったのだろうか。藤村操の墓は青山霊園にあるとされている。」と話すと、それを聞いた後藤は「生きていたらきっと彼は凄い人物になっていただろうな。自殺を思いとどまって欲しかったな。」と話した後に「16歳の少年の早すぎる死に世の中が心を悼み、彼の後を追うようにして世の中に嫌気がさして相次いで自殺者が多発した背景にはウェルテル効果(=マスメディアによる報道により自殺者が増える事象のことを指す)によるものも当時としては大きかったのだろうね。」と話すと、じっと話のやり取りを聞いて居た油井が「最近の自殺による報道は2019年だ。9月1日に栃木県警のヘリコプターが日光市の華厳の滝付近で身元不明の男性の遺体を発見。遺体を引き上げる際に大型クレーン車など9台を手配して4日の朝に遺体を引き上げたというのだから、相当な費用が掛かったことが想像できるな。だから今は自殺した親族に対して遺体の引き上げ費用として多額の請求が来るというのも、あの土地の形状から見て簡単に引き上げることが出来ないためというのがあるのだろう。やっぱり何事にも冷静になって行動することが一番だね。」と話すと、斧落が「何よ!俺は悟り切った!みたいなことを言っているの!」と笑いながら突っ込むと、油井は「そうじゃないって、単純に思ったことを言っただけ!」と言って談笑し合うのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート