【完結】慰霊の旅路~試練編~

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幽霊橋(福島・いわき市)

公開日時: 2022年3月6日(日) 01:25
文字数:10,671

2026年2月22日PM13時30分頃のことである。

飯盛山での心霊ロケの収録の最中に侑斗の携帯に支倉から電話がかかってきたので鳥井に対して「すみません。緊急の連絡かもしれませんので電話を取らせていただきます。」と語り、支倉からの電話を取った。


「もしもし。御無沙汰です。急にどうしたんですか!?」


侑斗の問いかけに支倉が「いまちょうど侑斗のInstagramを見ていたんだけど、いま福島にいるんだよね。俺と星弥の共通の知り合いで福島に住んでいるん人からの心霊検証なんだけど、星弥も俺も九州から離れることが出来ない。そこで今福島に来ている侑斗にお願いしたい。場所はいわき市にある高麗橋というところで、心霊スポットとしても知られているところだが、星弥の知り合い曰くは”ここに行ったら通っただけでも頭痛がした。自分以外の人でも体感するのか試してほしい。”という内容だった。まあ俺も出来る限り高麗橋については調べてみたけど、色々な歴史があるみたいでそれは現地に向かえばどんな御霊が彷徨っているのかはわかる話だし、俺と星弥のお願いとしては”頭痛の正体が何なのか”を探って来てほしい。福島市内の上蓬莱橋に行くより、場所が関東寄りといっちゃ関東寄りだし最終日の目的地のことも考えたら俺はいわき市の高麗橋で行うべきだと推奨する。だって明日が正丸峠に行って、最後に旧吹上トンネルでしょ。一緒に同伴する人に今俺が伝えた霊障と思える事例についても検証してほしいという内容であれば番組サイドも調べる価値があるだろうし前向きに検討をしてくれると思う。一度打診をしたらどうかな?」と侑斗に対してお願いをすると、侑斗は時折相槌を打ちながら「分かりました。その方が悩んでいる”頭痛の原因”が突き止められるようにします。ディレクターと相談します。」と答えると支倉は「ありがとう。俺も星弥も助かる。侑斗も無茶はし過ぎないで、出来ないことはできないときっぱりと、霊能力者として仕事を与えてもらっている以上何事も”出来る”ように意地を張るようなことはしていないよな。そもそも俺達霊能力者がやる御祓いと除霊と、降魔師の藤村君、陰陽師の政井さんが行う御祓いも除霊の実施方法もそれぞれ違う。テレビ局としては競わせたい目論見があるんだろうけどはっきり言ってそれは無理だ。それはしっかりと説明はしているよな?」と心配になって声をかけると、侑斗は「それは勿論。しっかりと説明した上で順調にロケ収録が進んでいるよ。」と言って返事をすると、支倉は「それは良かった。色々吸収できることはしっかりと吸収して九州に帰ってきなさい。駄洒落じゃないよ。」と笑いながら話すと、侑斗は「わかってますよ!沢山吸収してから九州に帰ってきます。」とプププと笑いながら支倉との電話を終えると、後ろで待機していた綾羽のところへと勢いよく駆けつけると、侑斗は綾羽に「すみません。飯盛山での心霊ロケが終わったら上蓬莱橋にということでしたけど、予定を変更して高麗橋での心霊ロケを行いませんか?実は僕の兄星弥と兄の友人の共通の知人が福島のいわき市に住んでいるんですけど、その方が高麗橋を通るたびに頭痛に襲われるそうで、霊障なのかどうか理由を探って欲しいというものなんです。上蓬莱橋に行くより、正丸峠との距離を考えたら懸命だと思います。頭痛の原因が何で生じているのか、この橋を通っただけで起こり得るというのなら霊感をあまり感じない人であっても感じるものがあるかもしれません。次の目的地を上蓬莱橋から高麗橋に変更しませんか?」と熱心に説得をすると綾羽は深く考えた末、悩み終えること3分程が経過して「一番の責任者である俺の判断だけで目的地の変更をすることは決めかねるから、飯塚、古森、鳥井のほか、藤村君にも政井さんにもしっかりと説明して理解を得たのなら、いわき市の高麗橋での心霊ロケに変更をしよう。実は言うと、上蓬莱橋と同様に興味を持っていたけど、ただこれといって怖いという話を聞かなかったもので、検証のし甲斐があるなと思ったのが上蓬莱橋のほうだったんだ。まあ俺の個人的な考えは別として、とりあえず高麗橋に行くか行かないかの緊急ミーティングを行う。」と語ると、侑斗は「そう仰って下さるということは行って下さるってことでいいですよね。だって興味がないのなら検証のし甲斐があるなんて言いませんよ。でも僕の唐突な仕事の依頼でも聞いてもらえて本当に嬉しいです。有難うございます。」と笑顔で話すと、綾羽は「まだ正式に高麗橋に行くって決まったわけじゃないからね!」と慌てた口調で語った後に全員を呼び出すとすぐその場で侑斗による上蓬莱橋から高麗橋での霊障と思える相談が寄せられたので次の目的地を変更したい旨を伝え、藤村と政井がそれぞれ”頭痛の理由を探る必要がある”と理解を示し、飯塚、古森、鳥井の三人もOKと返事をしてくれたことにより、次の目的地が急遽上蓬莱橋から高麗橋に変更になった。


そして17時過ぎに飯盛山での心霊ロケ収録を終えると、高麗橋へ向けて出発した。


車の中で藤村が侑斗に「高麗橋にいるだけでも頭痛がするって話だったよな?」と改めて聞くと、侑斗は「ああ。どうやらそのようだ。心霊スポット検索サイトで改めて調べてみてみたら非常に興味深い記載があった。国道399号線の上に差しかかかる小さな陸橋で昔から飛び降り自殺が多かったらしい。夜中に車で下の国道をいわき駅に向かって走っていると高麗橋から女性の霊が走ってくる車に向かって落ちてきたという。この噂が広まるにつれやがて高麗橋は幽霊橋と呼ばれるようになった。また高麗橋を通る際には決して後ろを振り返ってはいけないという。後ろを振り返れば霊に取り憑かれるとされている。高麗橋に纏わる因縁はこれだけでなく、明治以前は現在下を通る国道399号線が磐城平城のお堀の一部で高麗橋のある場所は平城の六間門に通じる橋だったという。戊辰戦争の際には、明治新政府軍に追い詰められた平城の武士が城に火を放ち自害を図った後、女性や子供は現在高麗橋がある築堤から身を投げたという伝説があるとされている。伝説が真実ならば、そして飛び降り自殺が本当に多発したのかどうかも含め、噂の真偽を検証する必要性はありそうだな。それにしても頭痛の原因がやはり何かが背後に憑いて来ているということだよな。せめて相談の話だけじゃなく、映像とか画像があればなんだけどな。」と苦言を呈しながらも、藤村はスマートフォンを片手に「磐城平城が実在したのは伝説でもないみたいだね。調べてみたら、飯野平に転入した徳川幕府譜代の鳥居忠政により磐城平藩を樹立した後に八幡小路に移設した飯野八幡宮の跡地に磐城平城の建設を命じると慶長8年(1603年)に着工してから12年の月日を費やして慶長20年(1615年)に梯郭式平城を完成させた。天守は造られず本丸の三層櫓がその代わりを果たしたらしい。磐城平を鳥居忠政の本拠地とさせた理由としては仙台を本拠地とする伊達政宗への牽制だったらしい。まあそんなことを歴史に疎い饗庭君に言っても分からないことかもしれんな。」と嘲笑うように侑斗に語り掛けると、侑斗はむすっとした表情で「何言っているんだよ!俺だって伊達政宗ぐらいは知っているよ!!!有名な武将じゃん、ほら頭の鎧兜が愛の人でしょ?」と自信たっぷりに答えると、それを聞いた藤村は「それ、違う人(直江兼続)。伊達政宗は三日月だね。」と苦笑いをしながら話した後に「伝説と語った話は事実のようだ。明治元年(1868年)の戊辰戦争時に奥羽越列藩同盟に与した磐城平藩家老の上坂助太夫が磐城平攻防戦で明治政府軍に敗れたことにより自ら城を焼き払って逃走したそうだよ。城に火を放ち自害を図ろうとしたが失敗に終わったので逃げようとしたのは事実と認識して間違いないだろう、ただ残された女性や子供が今の高麗橋から身を投げたかどうかについては、色々なサイトをネットサーフィンをしてみる限りでは磐城平城の陥落により磐城平藩で出した死者の数は58名を数えたとされているが果たしてこのお亡くなりになられた方の数は戦った末のものなのか、自害も含まれているのか、その辺りが調べて見る限りでは情報はないな。しかし噂であったとしても、それだけ多くの仲間が命を落とした場所だから降伏を認めたくない一心で身投げしても当時の戦況としてはおかしくないと思われる。だからこそ生まれた逸話なのかもしれない。伝説とされたのは、真実なのかどうかが死霊が遺されていないからこそ、”ひょっとすると”という程度にしておきたかったのかもしれないな。何せお堀の一部だから、落城した際に城の外へと逃げ出そうとしたが逃げきれずに門に通じる橋から身投げしても不思議ではないと後々の人が考えた可能性も捨てきれない。その辺りも実際に現地に行けば答えが分かるはずだろうな。」と語った。二人のやり取りをじっと聞いて居た政井は侑斗と藤村に「伝説は事実の可能性のほうが高いと思うよ。気になって画像検索をしてみたんだけどさ、噂にもあるこの橋での飛び降り自殺が多く自殺の名所として知られている、橋の下にある国道399号線を車で走行した際に高麗橋から女性の霊が車に向かって落ちてくるとされる、橋を渡っているときに振り返ってしまうと霊に取り憑かれるために振り返ってはいけないという心霊スポットよくあるシチュエーションで考えてもこのフェンスの高さ、不自然な点は見受けられないが、Googleマップのストリートビューでも気になって見てみたが足場もないはずなのに欄干越しに女が覗いているのが気になった。そのほか橋の木々にカメラのフラッシュのようにも見える赤い靄のようなものもやはり気掛かり。ハレーションによる可能性も捨てきれないが、わたしには何名もの御霊を確認することが出来た。間違いなくここは”何か”暗い過去を抱えていると思う。」と語ると、不思議に思ったところを自らのタブレットで開いたGoogleマップのストリートビューの画像を侑斗と藤村に対して見せ始めると、侑斗は「確かに。この木々の赤い靄のようなものは太陽の日差しの位置から見てもこのような形で写り込んでも不思議ではないが、霊視をすれば見える霊が複数名隠れているね。それに欄干越しに顔を覗かせる女も気になった。前髪ぱっつんの今どき見かけない、綺麗な黒髪の女性だね。それこそ江戸時代の後期から明治時代の初期にいても不思議じゃない。あ!」と侑斗が何かに気付き始めると、藤村は「伝説は本当の話かもしれないってことだな。身なりも見た感じ着物を着ているしね。落城した際に自害した女性の霊かもしれない。もうこれで十分情報は集まったわけだから、充分御霊達の説得をすることが出来る武器は揃った。」と自信満々に語り始めると、政井は「飯盛山ではしくじったけど、今度こそはわたしが陰陽師としての力を発揮したい!女性相手の霊だから、わたしが同じ女性の味方として昇天させてあげたい!このままでは今までの私の活動は御霊達にとっての救いの存在にもなっていない!」と強く主張し懇願すると、侑斗は藤村の表情を見て「まあいいんじゃないのかな。俺達誰が一番活躍したかどうかなんてそもそも競い合うためにここに来たんじゃない。霊能者として心霊スポットとして伝わっている内容の真偽を確かめるために俺も藤村さんもこの番組のオファーを受けている。自分がどれだけ除霊をしたのか、御祓いをしたのか、そんなことはどうでもいい。大事なのは心霊スポットとして伝わっているからこそイコール怖いという概念を俺達霊能者としての意見を伝えることでイメージを払拭させてあげることなんだ。それは政井さん、この道を選んだからこそ師匠からも言われているはずだ。番組の趣旨は俺達の除霊バトルだが、俺達はそもそも戦うことが仕事じゃない。霊能者の定義が何なのか、それは困っている人たちに対して手を差し伸べてあげることなんだ。基本を忘れてはならないと俺は率直に思った。でも飯盛山で何もできなかったことを恥じるぐらいなら、もっともっと自分の技術を鍛錬していかないとぐらいの気持ちに切り替えないと、リベンジに燃え上がっていてはその心の弱さを突かれてしまうだけだ。もう少し冷静になって考えたほうが良い。」と淡々とした口調で指摘をすると、政井は嫌な事を言われたのかムスッとした表情で黙り込むとじっと考えた末に侑斗と藤村に「わたしはわたしのプライドは絶対捨てないがでもこれだけは言える。わたしはどんな御霊であっても突かれたり憑かれたりは一切しない。わたしは強いんだと言い切っているからね。だからこそ次の高麗橋での頭痛の原因も、現れる御霊の正体も突き止める!絶対の自信がある!絶対にわたしのほうが実力派なんだからね!」と言って抵抗した。


そんな様子を見た藤村は侑斗に対し「あれで大丈夫なのか。強気なのはいいが、ただただ強がっているようにも見えてならないね。心の修業が必要な印象だな。」と語ると侑斗は「まあ。伝統ある仕事でもあるからね、俺のような霊能力者、藤村さんのような降魔師にだけは陰陽師としての活動を認めてもらいたい、それだけなんだろう。でもやはりどんな霊能力者であれど御霊が多く現れ下手をすると自身にも憑いてくる危険性がある心霊スポットでの仕事は嫌がられる可能性も高いだけに、胸を張ってわたしが除霊をしましたって言ってあっちこっち行かされたらそれはそれで後々のことを考えると収拾もつかなくなる事態にも陥ると思うけどな。政井さんは陰陽師としては駆け出しだから、真の恐ろしさを知らなすぎるのかもしれない。」と語ると藤村はスマホの位置情報を確認しながら「あと少しでいわき駅北口駐車場に到着だから、ここから徒歩で高麗橋に向けて心霊検証。政井さんの腕を確かめるためにも俺達は何も言わずそっと見守ろう。」と侑斗の耳元でそっと囁くように提案すると、侑斗は「そうだな。俺達はそっと後ろから見守って万が一彼女の身に危険が生じたときは手助けをしよう。これで彼女も学習をしてくれるはずだ。」と言って理解を示したところで一同は車を駐車するためにいわき駅の北口駐車場に車を駐車させた後、徒歩で高麗橋のほうへと向けて歩くことにした。


歩く途中で綾羽が侑斗と藤村と政井に対し、「歩いていった先に丹後沢公園というのがあってそこが磐城平城の本丸と二の丸、三の丸の間の内堀だったとされる場所だ。移動中に色々と調べては見たけど、落城した際に追い詰められた女性や子供が高麗橋から身投げをしたのではという伝説についての真偽については資料が遺されていない以上、本当なのかどうかについては疑ったほうがいいだろうと思われるが、磐城平城には人柱の伝説というのがあるようだ。これは”丹後沢”という場所で近くの菅波村に住んでいた齢90余の老人”菅波丹後”を人柱にしたというもの。これは菅波丹後自身が進んで人柱になったと言われ、子孫は召し抱えられたという。因みに人柱になったとされる場所が今の丹後沢公園がある付近らしい。そのほか、高麗橋の近くにある某学校はかつて磐城平藩の処刑場が存在していたようだが、その付近は磐城平城の郭内に当たる場所で郭内に処刑場を本当に置いていたのかどうか疑問に残るところ。そして何より、自殺者が本当に多かったのか、幽霊橋と言われているのか、頭痛の原因は霊障以外の他にあるのかもしれない。でもいずれにしろ、まずは丹後沢公園からちらっと見た後に、高麗橋へと行って真相の追求をしたほうが良いと思う。丹後沢公園はふれあい広場と水の広場とあるね。磐城平城本丸跡地は時間外で入れることはできないけども、公園内だけでもどういう雰囲気なのか、確認をする必要はあるね。」と切り出すと、侑斗と藤村が「そうですね。検証のし甲斐がありますね。」と言って返事をした後、政井は思いもしなかった話を聞いたのか「そうですね。何かしらの因縁があるかもしれませんね。調べてみる必要はありますね。」と語った後、「丹後沢公園も心霊スポットの一つなんですか?」と綾羽に対して聞き始めると、綾羽は「丹後沢公園は心霊スポットではないが、高麗橋とセットにされている感じがあるね。まあ高麗橋そのものが磐城平城があったときから外門へと繋ぐ橋として存在していたわけだし何かしら出てきても不思議ではない。」と答えると、政井は「知られていない場所だからこそ真相を探るにはもってこいかもしれませんね。」と理解を示しながら、一同は丹後沢公園のふれあい広場に足を運ぶと、ふれあい広場にある中でも霊が出てきそうだと確信した丹後沢公園トイレの付近で霊視を行ってみるが、侑斗と藤村が答えがわかったのか何も語らずにいると、二人の様子を察した政井が代わりに答えた。


「トイレには何もいませんね。トイレの周辺の木々に微弱ながら浮遊霊がいる、それだけですね。お散歩中だったのかもしれませんね。ここにいる我々に危害を齎す可能性は皆無に等しい事でしょうから、水の広場へと行きましょう。」


政井の語る内容に侑斗と藤村がお互いの顔を見ながら「よかった。俺達と同じ考えでしかしこれから先が心配だ。多分地図で見る限りでも、水の広場も何もないだろう。高麗橋でどんな暴走に出るか、それだけが気がかりだ。」と藤村が侑斗に話しかけると侑斗は「俺も、こんなにヒヤヒヤしながら他人の霊視結果を見守るなんて思いもしなかった。こんなんじゃライバル同士としてというよりこっちがもう見ているだけで危なっかしくって何だか俺も藤村さんも政井さんの親になった気分だな!」と呆れた口調で語ると、藤村は「俺達、政井さんの父親にはなれないけどな。でも本当にあれでよく陰陽師として認められた、いや実力派だったから認められたのかもしれんが、だからこそのそれなりの揺ぎ無い自信とプライドがあるのかもしれない。出来る限り俺達はそっと彼女のプライドを傷つけないように今回ばかりは見守ろう。」と話し、侑斗も「そうだね。俺もそのつもりでいるよ。何かあったときに助けなきゃと思ったけどでも何かあったときにこそどうすべきかを学習しなければ彼女のためにもならないからね。きっと今の今まで心霊スポットなど足を運んでいなかったから、通常の御祓いと同じ感覚でいるのかもしれない。」と語ると、藤村は「だとしたら、政井さんを実力派の陰陽師としてチョイスをしたのは番組のミスチョイスってことだな。」とブフッと思わず鼻で笑ってしまうと、二人のやり取りを後ろでチロチロと見ていた政井は二人に対して「何よ!さっきからこそこそ二人で小言でわたしに言えない何かあるわけ!?どういうこと!?」と大声で怒鳴り始めると、侑斗と藤村は「いやいや。何でもない。何でもない。」とお互い口を揃えて釈明をすると、水の広場に到着をすると可能な限り遊歩道を政井を先頭に三人がゆっくりと歩きながら霊視検証を行ってみるが答えは同じだった。


引き続き侑斗と藤村が答えを政井に託すような形で黙り込むと、政井は「御霊が集まりやすい条件が水の広場には揃っていますが、やはり力の微弱な浮遊霊が、霊視をしてみないと分からないレベルのものでしたので、こちらもやはり心霊スポットという定義には当てはまらないものだと思います。危険ではないと分かった以上、噂される高麗橋へと移動をしましょう。そうゆっくりしている暇はないと思います。」とはっきりと言い切ると、丹後沢公園を後にして高麗橋へと移動した。


そして高麗橋に到着すると、政井の目つきが変わり始め、ある一点の方向に目が釘付けになった。


「あそこに女性がいる。声をかけてみる!」


政井は後ろにいる侑斗と藤村に語り掛けると、女性の気配を感じた橋の欄干のほうへと近付き声を掛け始めた。


「あなたはそこで何をしているんですか?一体ここで何があったんですか?」


政井が優しい口調でそっと現れた女性の御霊に対して語り掛けると、その後政井と女性の御霊とのやり取りがずっと続いた。政井は何があったのかを悟ってくれない女性の御霊に対して、焦りの表情を見せながらも粘り強く「磐城平城が落城した際に取り残された女性と子供は追い詰められた末にこの高麗橋で自害を余儀なくされたと伺いました。あなたもそのうちの一人だったのですか。辛かったでしょう。自分の居場所を失ったうえに、敵から追い詰められた末に外へ逃げることも難しいと分かってこの橋から身投げしたんですね。」と語った後に、「高麗橋で伝わる噂の一つに振り返ってはいけない、それは背後に御霊がいて取り憑かれるからという噂が出来て幽霊橋と言われるようになったのも、城が攻め落とされた時に決して敵が背後から攻めてきても”決して後ろを振り返るな”という事だと思いました。本当にそのようなことがあったのか具体的な資料がないので憶測でしか言えませんけど、あなたとこうして会話のやり取りをすることが出来る我々に対して救済の声を上げているように見えました。生前に抱えた心の痛みを取り除くことはできませんが、あなたの心の嘆きに寄り添うことはできます。どうか、悔しいと思ったこと、腹立たしいと思ったこと、打ち明けて下さい。我々はあなたの味方です。辛いと思ったことは溜め込まないで吐き出してください。」と熱心に説得をすること30分以上が経過してようやく女性の御霊と打ち解けることが出来たのか、女性の御霊は政井に近づくと耳元で何かを語ったと同時に、政井に対して感謝の言葉を伝え黄色い淡い光となって天へと昇っていく。


背後で見守るような形でじっと見つめていた侑斗と藤村が「やった!昇天してくれたんだね!」といって政井の元へと駆け寄ると、政井は「わたしの必死の説得が通じたようで、最後にわたしにこう伝えてくれた。”思い出すのも辛いことが起きてこの地を最期にしなければいけないことが起きた。このまま人生を全うしていたらやりたかったこともあったが致し方なかった。未練が拭えず彷徨い続けていた。でも熱心にあなたが訴えてくれたおかげで少し心が楽になった。ありがとう。”といってね。伝説とされる女性と子供の身投げがあったかどうかは別として、高い欄干にしてあるあたりからも転落防止とみて間違いはないだろう。またそれ以外にも欄干にはシートのようなもの張ってあるあたりから下を決して見下ろさないようにしている他、近くには簡易裁判所と検察庁がある、衝動的な自殺を抑止する効果があるのかもしれない。」と話すと、政井の見解を聞いた侑斗は「現代においてここが果たして自殺の名所とされるかどうかについては疑ったほうが良いね。仮に事実なら行政が自殺の防止対策に出ている。それがこの高いフェンスとシートで下を見られないようにするだけならば果たしてこれだけで十分なのかと思えてならない。それにこの橋の下は国道で、俺が見てきた自殺の名所の大方は橋の下が湖や渓谷など、車と正面衝突しかねないような場所でというのは仮に投身があったとしても痛いという意識が先行して件数としては少ないだろう。」と語った後に政井に対して「実はいうと、俺も藤村さんも政井さんの実力を疑っていたんだけど、でも改めて政井さんの除霊方法を見て認められる理由を知った。よくやってくれた。俺も藤村さんも見習いたい。」と藤村の表情を見ながら語ると藤村もにこやかな笑顔で侑斗の問いかけに対して反応を示すと、褒めちぎられた政井は驚いた表情で「え!?見習いたいってそんな、でもわたしそんなたいそうなことをしていないよ。でも藤村さんも饗庭さんもそんな風に、でもわたしまさか選ばれるとは思ってもいなくって、ニコニコ動画で主に御祓いを中心に活動しているんだけどそれが認められて念願のテレビ出演を果たすことが出来て、でもわたしは陰陽師としてはまだまだ半人前、一人前でも何でもない。まだまだ鍛錬をしなきゃ、飯盛山で改めて学習をさせられた。だからまだ褒められるような事ではない。」と照れ臭そうに語りながらも謙遜の姿勢を示した。


三人の仲良くやり取りをしている様子を見た綾羽は「我々としては議論し合っているところが見たかったのになあ、ところが仲良くやっているだけじゃ番組の趣旨から離れてしまうじゃないか。」と一人苦言を呈すのだった。


そして侑斗は最後に政井に質問をした。


「この橋を渡ると頭痛に襲われる!その理由は何かわかったかな!?」


侑斗の問いかけに政井は「下を走る車の音速によるものではないことは言える。ただ霊感が敏感な人ほど気配を強く感じる傾向にあると思われる。それが頭痛の要因だと思われる。恐らくだが”後ろを振り返るな”と言われる所以の経緯には、落城され敵に脅された際に、後ろから何か後頭部に突き刺すような痛みが生じるもので脅された上、刀のようなものかもしれない。嫌々この橋から飛び降りたのだとしたら、そのときの状況ってのかな、残像として残っているのかもしれない。負の歴史を抱えているこの地だからこそ、御霊達が痛みを訴えているのかもしれない。」と自分なりの見解を話し始めると、侑斗は「資料にはないから憶測でしか言えないのが残念だが、恐らくそうだろう。俺も過去の透視を行ったが、戊辰戦争時の際の痛ましい戦場を見てしまった。当時としては凄惨な状況だったのだろう、資料に残されていないという事はそれだけ痛ましいことが起きたという事だ。残留思念があってもおかしくない。」と言って答えると侑斗の見解を聞いた政井は「それがわかったのなら、わたしが説得しているときに一言アドバイスは欲しかった。」と嘆くと、侑斗は「何を言っているんだよ。助言があろうがなかろうが政井さんの思いは伝わったじゃん。だからあとは女性の御霊のことをどんなときでも思い続けて心の中で供養をしてあげることが大事だよ。」と政井にアドバイスをすると、政井は「わかった。ありがとう。」と語った後に一同は駐車場へと戻るために高麗橋を後にすることにした。


「明日は朝6時から出発とも考えたらゆっくりしている暇はないなあ。はあ。」


侑斗は車の中でため息をつきながら独り言をつぶやくと急遽宿泊することになったいわき市内のビジネスホテルで一夜を過ごすことにした。

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