試合はその後も大学サークル側のペースで進む。
「ボールがこぼれた! 真珠!」
円が声を上げる。
「おっしゃ!」
「させん!」
「どわっ!」
再びショルダータックルを食らい、真珠が倒れ込み、ボールはまたもやこぼれる。
「雛子さん!」
「分かってるわ!」
ヴィオラの声に反応して、雛子がルーズボールを拾おうと走り込む。
「させない!」
「くっ⁉」
雛子よりも後方にいた選手が素早い動きで雛子を追い抜き、ボールを拾う。
「ヘイ! こっち!」
「オッケー!」
大学サークルが逆サイドに良いパスを通す。
「くっ……!」
パスを受けた相手に対して、円が体を寄せる。
「ふん!」
「あっ!」
「くっ!」
円がかわされたので、ヴィオラがフォローに入る。
「こっち!」
「ほい!」
「むっ!」
ヴィオラが引き付けられたため、空いた相手にボールが簡単に回る。
「……!」
最愛が鋭い出足で前に飛び出し、ボールを奪おうとする。
「おおっと!」
「!」
最愛をあざ笑うようにボールはフリーの魅蘭へと渡る。
「ナイスパスですわ!」
魅蘭が危なげなくゴールを奪う。
「ナイス、姫!」
「流石です!」
大学サークルのメンバーが魅蘭に駆け寄る。ヴィオラが首を傾げる。
「……なんで女子大生が彼女を姫だと崇めるのかはよく分かりませんが……」
「簡単なことですわ」
「えっ⁉ み、溝ノ口さん、いつの間に後ろに……って、理由が分かるのですか?」
「ええ……」
「ど、どういうことなのですか?」
「ツインテールで可愛いから……!」
「へ……?」
ヴィオラがあっけに取られる。最愛が首を捻る。
「なにか?」
「い、いや、それだけですか?」
「それだけでも十分でしょう。ツインテールにはそれだけの魅力があるのです!」
「だ、断言されても……」
ヴィオラが戸惑う。円が声をかける。
「ヴィオラ! 試合再開されているよ!」
「あ、し、失礼!」
「集中しよう!」
円の言葉に頷きながらヴィオラが淡々と呟く。
「……やはりフィジカル、スピード、テクニックなどの全てにおいて相手が数段上……この差はなかなか埋めがたいものがありますかね……!」
川崎ステラのゴール前で相手にボールが渡る。ヴィオラが対応する。間合いを上手くとって、相手に容易にかわせまいとする。相手もやや戸惑う。
「むう⁉」
「こちらに!」
「お、お願いします、姫!」
「お任せあれ!」
またもやフリーの魅蘭に良いパスが通る。最愛が構えを取る。
「……」
「これを決めてハットトリックですわ! 思えば……幼少の頃から、いつも貴女の二番手に甘んじてきましたわ……貴女がフットサルを始めたと聞いて、大学のサークルの門を叩き、チームを数日で掌握……もとい、皆さんと仲良くなったのも全てはこの時の為……!」
「ひ、姫、ブツブツ呟いていないで早くしないと! 敵が!」
「ん⁉」
魅蘭が戻ってきた真珠たち三人に囲まれる。
「判断ミスだね!」
「さっさと打ってしまえば良かったのに!」
「てめえからボールを奪ってカウンターだ!」
「ふん! お舐めにならないで下さる⁉」
「うおっ⁉」
「なっ⁉」
「う、上手え⁉」
魅蘭が細やかなボールタッチで三人をかわし、最愛と1対1の状況になる。
「止める!」
「前に出たのが命取り!」
「‼」
魅蘭が前に出てきた最愛の頭上を越える絶妙なループシュートを放つ。
「もらいましたわ!」
「えいっ!」
「⁉」
最愛が体を前転させて、右足のかかとでボールを弾いてみせる。円が声を上げる。
「ナ、ナイスキーパー!」
「……さあ、反撃といきましょう!」
体勢を戻した最愛が両手をバシバシと叩いて、皆を鼓舞する。
「! う、うん!」
「そうね!」
「まだまだこれからだぜ!」
三人が力強く頷く。そこから川崎ステラが好プレーを見せ始める。ヴィオラが呟く。
「溝ノ口さんの好セーブ一つで流れが変わった……守護神の素質ありですね」
「ピィー! 試合終了!」
「かーっ、同点か!」
「まあまあ良くやった方でしょ……」
「うん、格上相手に善戦したよ」
空を仰ぐ真珠の横で呟く雛子に円が頷く。魅蘭が最愛に近づく。最愛が尋ねる。
「? どうかされました?」
「ワタクシも貴女のチームに入れて下さい! いいえ、駄目だと言っても入ります!」
「え……あ、はい、よろしいのではないですか?」
「では、そういうことで!」
「ひ、姫⁉」
「ごめんなさい……ワタクシを巡って争う皆さんのお姿をこれ以上見るのは忍びないのです……ワタクシに出来ることはただ身を引くことだけ……」
「そ、そんな~!」
魅蘭の言葉に大学サークルのメンバーたちが落胆する。ヴィオラがボソッと呟く。
「サークルクラッシャーですか、初めて見ました……」
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