【第1章完】お嬢様はゴールキーパー!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第11話(3)中盤の攻防戦

公開日時: 2023年12月9日(土) 12:11
文字数:1,648

「くっ!」

 瑠璃子に対し、雛子が厳しく体を寄せる。

「ふん!」

「ちいっ!」

 瑠璃子は後方にボールを下げざるを得なくなる。

「どちらかと言えば、攻撃的な選手であるはずの7番を青葉にぶつけてくるとは、これもまた意外な一手だな……」

 紅が呟く。

「おいおい、7番と言えば俺様だぞ! 他の7番を目立たせるなよ!」

「やかましいですわね……!」

 奈々子の声に瑠璃子は苛立つ。

「へい!」

 紅が泉に声をかける。ボールを持っていた泉は紅にパスする。

「こちらに!」

 瑠璃子がボールを要求する。

「頼む!」

 紅がハーフライン辺りに位置する瑠璃子にパスを送る。

「……!」

「前は向かせないわよ!」

 またも雛子が厳しく体を寄せる。

「くっ、うっとうおしいですわね!」

「それっ!」

「くっ……⁉」

 瑠璃子が体勢をやや崩し、ボールを失いそうになる。

「もらった!」

 雛子がボールを奪いそうになる。

「瑠璃子!」

 泉がサイドから上がってきて、ボールを要求する。瑠璃子はそちらに視線を向ける。

「させない!」

 ヴィオラが泉へのパスをカットしようとする。

「ふっ……」

「なっ⁉」

 泉にパスをすると見せかけて、瑠璃子はかかとを使ったヒールパスを前方に送る。虚を突かれた雛子の股下を抜けて、奈々子への絶妙なスルーパスになる。

「よっしゃ! おおっ⁉」

 恋が鋭い出足でボールをカットする。ボールはサイドラインを割る。

「ちっ、不安定な体勢からヒールパスとは……」

 雛子が汗を拭う。

「なるほど、動きは悪くありませんが……」

「ん?」

 雛子が瑠璃子に視線を向ける。

「貴女は本来、攻撃が持ち味なのでは?」

「まあ、攻める方が好きだね……」

 瑠璃子の問いに雛子が答える。

「ふふっ……」

「なにがおかしいのよ?」

「いえいえ、そんな貴女が守備に奔走しているようでは……この試合、結果はもはや見えているなと思いましてね……」

「……」

「失礼……」

 雛子は髪をかき上げながら雛子の脇を通る。

「港北!」

 紅が泉にパスを出す。

「さて……」

 泉がパスの出し所を探す。

「こちらに!」

 瑠璃子がまたもハーフライン辺りでボールを要求する。

「頼むよ!」

 泉から瑠璃子にボールが入る。

「させないっての!」

 雛子がまたもや瑠璃子に厳しく体を寄せる。

「くっ……むっ⁉」

 ヴィオラも近づき、雛子とともに挟みうちにしてボールを奪おうとする。紅が声を上げる。

「マズい!」

「……ピンチはチャンスですわ!」

「はっ⁉」

「なにっ⁉」

 瑠璃子が鋭いターンで前を向き、雛子とヴィオラの間にあったわずかなスペースを抜け出そうとする。瑠璃子が笑う。

「パスだけだと思わないで下さいまし!」

「分かってるわよ~♪」

「んなっ⁉」

 抜け出した先には恋が待ち構えており、恋は巧みに瑠璃子からボールを奪う。

「さ、誘われた……?」

 瑠璃子が転びそうになりながら愕然とする。

「カウンターよ♪」

「恋!」

 雛子が猛然と横浜プレミアムのゴールに向かってダッシュする。

「そ~れ♪」

 恋がそこにボールを送る。紅が雛子の前に立ちはだかる。

「させん!」

「しないわよ!」

「むっ⁉」

 雛子はボールをキープせず、ダイレクトで右サイドに出す。そこには真珠がいた。

「おっしゃあ!」

「……‼」

 真珠が右脚を振り抜く。豪快なシュートがゴールネットに突き刺さる。ゴールを守る亜美はほとんど反応出来なかった。これで2対1。川崎ステラが勝ち越しである。

「よっしゃあ!」

 喜ぶ真珠を適当に称えた後、自陣に戻った雛子がすれ違いざまに瑠璃子に声をかける。

「攻撃の第一歩は守備からよ……」

「‼」

「アンタからボールを奪えばチャンスになると思ったのよ」

「ふん……」

 試合は再び川崎ステラペースになる。

「雛子ちゃん、仕掛けていって!」

「任せて!」

「そうはさせない!」

「くっ⁉」

 泉が激しい寄せで雛子からボールをカットする。ボールがサイドラインを割る。

「ヴィオラ!」

「はい!」

 ヴィオラが素早いキックインで、ボールがフリーの真珠に通る。

「もらったぜ!」

「そうはさせない!」

「ぬおっ⁉」

「ナイスカット……」

 泉がまたも激しい寄せでボールをカットする。ボールは亜美がキープする。

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