「……八景島が入って、このまま横浜プレミアムペースになるかと思われたけど……」
「そんなことはなかったわ!」
「むしろ……川崎ステラが盛り返しているわ!」
「やはりあの存在が大きいわね!」
「ええ、百合ヶ丘恋! まさか前半の内に出てくるとはね……」
「しかし、横浜プレミアム側がチャンスを作れないでいる……」
「ふふっ、前半はベンチで見ておこうと思ったけれど、そうも行かなくなってね……」
恋がギャラリーの声を聞きながら呟く。
「それっ!」
「はっ!」
「むっ!」
「八景島からの鋭い縦パスを百合ヶ丘がカット!」
「あそこに通すというのもさすがだけど、読む方もさすがね……」
「さっきから何度か同じことを繰り返しているわ……」
ギャラリーが恋のプレーに湧く。
「さすがは『鋼鉄の貴婦人』ね!」
「は? そこは『川崎の鉄壁』じゃないの⁉」
「はい? 『微笑みの将軍』って聞いたけれど⁉」
「ふ、二つ名でケンカしないで⁉」
謎の言い争いを始めたギャラリーに向かって、恋が思わず声を上げる。
「百合ヶ丘! 調子に乗るなよ!」
紅が恋を指差して声を上げる。
「! あ、ああ、これは失礼……試合中に集中を欠いていたわね……」
恋が視線を戻し、軽く頭を下げる。
「自分は『横浜の防波堤』だ!」
紅が自らの胸を右手の親指で指差す。
「二つ名で張り合ってきた⁉」
恋が戸惑う。
「百合ヶ丘と言えども万能ではない! とりあえずシュートを撃っていけ!」
「!」
紅の指示を受け、横浜プレミアムの選手がシュートを撃っていく。
「わたしを避けるように、その位置から強引にシュートを撃っても……」
「はあっ!」
わりと良いシュートではあったが最愛が難なく防ぐ。
「残念、そこには最愛ちゃんがいるのよ……」
恋がニヤリと笑う。
「むう……しかし、良いぞ! 多少強引な形でもどんどんシュートを撃っていけ! それで流れは引き戻せる!」
紅が前線に声をかける。
「……!」
「はっ!」
こぼれ球からのボレーシュートを最愛が防ぐ。
「! 良いボレーだったが、弾かずにキャッチング……!」
紅が驚く。
「……‼」
「ふっ!」
こぼれ球から抜け出した相手との1対1という難しい状況も最愛が防ぐ。
「‼ 前へ飛び出して、スライディングでクリア……!」
紅が再び驚く。
「………」
「ほっ!」
混戦状態となった川崎ステラのゴール前の隙を突いて、カーブをかけたシュートを放つが、これも最愛が防ぐ。
「⁉ 巻いた良いシュートだったが、横っ飛びで防いだ……!」
紅が三度驚く。
「すごいわよ、あのキーパー⁉」
「あのキーパーが加わってから川崎ステラは負け知らずだとか……」
「! ほう……それは良いキーパーだな。なるほど、百合ヶ丘だけではないか……」
ギャラリーの声を聞いて、紅は笑みを浮かべる。
「……⁉」
「寄越せ!」
紅が猛然と掛け上がってくる。味方は一瞬戸惑ったが、紅にパスを送る。
「………!」
「ナイスパス! それっ!」
「ぐうっ⁉」
紅の放ったグラウンダーの強烈なシュートも最愛が身を低くしてキャッチしてみせる。
「⁉ そ、それも防ぐか……」
「……攻勢は凌げたかしら……前半の内にここでもう一押し……雛子ちゃん!」
恋と代わった雛子がヴィオラに代わってピッチに戻る。雛子、真珠、魅蘭の三人はまだ粗さは残るものの、良い連携を見せ、横浜プレミアムのゴール前に再三侵入。チャンスを作る。
「むう……」
紅が顔をしかめる。
「ふふっ、これは俺様の出番かな?」
キーパーユニフォームを着た黒髪で整った短髪で、体格の良い女性がピッチに入る。
「選手交代! キーパーを変える⁉」
ギャラリーから驚きの声が上がる。魅蘭が首を傾げる。
「……キーパーなのに、7番?」
「魅蘭ちゃん! 良い調子だから気にせず続けて!」
「ええ!」
恋の声に魅蘭は頷く。その後、川崎ステラにチャンスが訪れる。
「おらっ!」
「はあん⁉」
「えいっ!」
「ふうん⁉」
「それっ!」
「ほおん⁉」
「あの7番、立て続けにシュートを……どれも簡単なシュートではなかったはず……」
魅蘭がファインセーブを連発する相手ゴールキーパーに舌を巻く。するとそのゴールキーパーがわざとボールをサイドラインに出す。
「なんだ? 交代? うん⁉」
「キーパーからフィールドプレイヤー用のユニフォームに着替えた?」
真珠と雛子が驚く。
「さあ、前半の内にもう一点返そうか!」
7番が声をかける。紅が7番にボールを預ける。
「三人とも! しんどいけど、ここは戻って!」
恋の指示で、魅蘭、真珠、雛子が守備に戻る。川崎ステラの陣内に壁が出来上がる。
「……ふふっ、そういうのをこじ開けるのが面白いんだよ!」
「むっ⁉」
7番が鋭いドリブル突破でゴール前にあっという間に侵入する。
「おらあっ!」
「よしっ! ⁉」
強烈なシュートは独特の変化で、最愛の腕からすり抜け、川崎ステラのゴールに入る。
「出た、鋭いドリブル突破からの無回転シュート!」
「彼女の代名詞的プレー!」
「ゴレイロからピヴォまで幅広くこなす、横浜プレミアムのエース、鶴見奈々子!」
「ふふふ、もっと俺様を称えな……」
奈々子と呼ばれた選手が自らの背番号7番を誇示する。
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