【第2話〜第12話の受付嬢ナギの視点】
そろそろお昼休みに入ろうとした時に、その少年は私の前に現れた。
綺麗な水色の髪が印象的だ。ただ残念な事にこの髪色だと弱い水属性の魔法しか使えないだろう。
貴族の可能性もあるのかしら?
注意して応対しないと面倒なことになるかもしれない。真っ直ぐ私の受付窓口に歩いてくる。
少年から青年に変わりかけている年齢かな? その少年が目をキラキラさせて口を開く。
「冒険者登録をしたいのですが」
「年齢はいくつですか? 15歳未満は登録できませんが」
「先日15歳になりました」
「それでは大丈夫ですね。登録いたしますのでこちらに必要事項を記載してください」
私は規則に従って冒険者登録の用紙を渡す。
記載内容は【名前】【年齢】【特技】の3種類だ。
冒険者登録に虚偽内容を記載すると、この後のオーブ検査に引っかかってしまう。まぁ虚偽内容を記載すると犯罪になるので、そんな人はいないけど。
少年は記載した冒険者登録の用紙を私に渡す。その名前を見た時、私は声をあげてしまった。
「アキ・ファイアール!? ファイアール家の方ですか!」
「大きな声を出さないでください」
「あ、すいません」
「あまり目立ちたくないので内密でお願いします」
自分より年下の少年に注意されてしまった。冒険者の情報を冒険者ギルドから漏らす事は厳禁である。これではプロとして失格だ。
私は慌てながらも言葉を返す。
「し、失礼いたしました。それではこちらのオーブに触れてください」
受付カウンターの左側に置いてあるオーブに少年は左手を置く。
淡く光るオーブ。オーブと繋がっている魔道具からギルドカードが出てくる。これで冒険者登録の用紙の記述に虚偽が無い事がわかる。
本当にファイアール家の人なんだ。でも何で赤色の髪色じゃないんだろ?
疑問に思いながらも仕事をこなさないといけない。
「登録は以上です。こちらの冊子に冒険者ギルドでの注意が書いてありますので確認しておいてくださいね」
私はそういうと冊子と青銅製のギルドカードを渡した。
少年は青銅製のカードを確認して、ニコニコしている。
その後、私は少年にギルドの冒険者の宿泊施設を教えてお昼休みに入った。
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アキ・ファイアールという少年の冒険者登録をした次の日の朝、買取カウンターがどよめいた。
アキ少年が1人でやってきてEランク魔石45個の買取を申し出たためだ。
冒険者に成り立ての少年が持ってこれる量ではない。
何かしらの不正を疑ったが証拠がない。また不正をする必要性がない。そのため規定に従って処理をする。
アキ少年は冒険者登録から1日でFランクに昇格。私は何かが変わる予感がした。
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次の日の早朝にはアキ少年はE級魔石は60個持ってきた。
昨日よりも多くなっている。
3日目が62個、4日目が59個、5日目が65個。
そして6日目には72個を納品して、アキ少年はEランク冒険者に昇格した。
この頃になると冒険者ギルドとしても、アキ少年を軽視できなくなる。アキ少年の出自を考えれば、何かしらの対応が必要になってくるだろう。
そして遂に冒険者ギルドの買取カウンターに激震が走る。
何とアキ少年がE級魔石を176個持ってきた。いったいどうやったら1人でそんなに持ってこれるのか?
パーティを組んでいる様子はない。早朝の買い取りだから、活動は夜中なんだろうか?
冒険者ギルド内では疑問だけが広がっていく。
次の日からは呆れて物が言えない。
アキ少年は毎日毎日大量のE級魔石を納品してくる。
そして遂に最速、最年少のDランク冒険者が誕生した。
Dランク冒険者になったアキ少年はすぐに奴隷を購入しにいった。
出自を隠す意味でも奴隷が必要なんだろう。
アキ少年は見目麗しい女性を購入したようだ。黒髪がとても綺麗な女性だ。間違いなく魔法を使える貴族だろう。冒険者の間でも話題になっている。
冒険者登録で女性の名前が判明した。
ミカ・エンジバーグ。
これには驚いた。カンダス帝国のエンジバーグ公爵家の長女だ。最近の戦争で戦争奴隷になっていたみたい。
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その日、私は買取カウンターの受付をしていた。
そこにアキ少年が奴隷のミカさんを連れてやってきた。
いつものように大量のEランク魔石だ。
アキ少年は何かニヤニヤしている。そして私に渡したのはオークダンジョンの制覇を示すメダルだ。
アクロに来て1ヶ月も経たない内にオークダンジョンの制覇。やはりファイアール家の血筋が優れているのか。
その後、アキ少年はCランクの沼の主人ダンジョンとDランクの暴風雨ダンジョンのMAPを購入していった。
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またまた冒険者ギルドの買い取りカウンターは色めきだった。
アキ少年がC級魔石を46個納品しに来たからだ。目立つのを避けるためか、アキ少年は個室での納品を望む。
冒険者ギルドとしては、アキ少年に特殊な対応をする事を決定した。
アキ少年には個室に移動してもらい、専属担当者をつけることになる。そして専属担当者として私が指名された。これはとても光栄なことだ。
私はアキ少年が待っている個室に向かう。私は時代の風が吹いているように感じた。
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