「俺を引っ張り出すつもりなら全部吐け」
いつもの高級ワイン店の地下個室。ニルヴァン家を後にしたワンスは、ニルヴァン家の前でファイブルと別れ、再びここで落ち合った。
そして、大層ご立腹な風を吹かせているファイブルは、開口一番に情報開示を求めてきた。
「わかった、わかった! 悪かったって~」
「まさかお前がニルヴァン家にいるとはな……。いやでも考えてみれば、フォースタの子でニルドを繋ぐって言ってた時点で?」
「そう言うこと。面白かっただろ~?」
「確かに面白かった! ニルヴァン家の応接室に入った瞬間の高揚感! 堪んない! ワンスは俺を分かってるよ! でもなぁ、はぁ、俺は犯罪者になりたくないんだよぉ!」
「大丈夫大丈夫! そこらへんは少しは考えてあるからさ」
「よし、聞かせろ。場合によってはニルヴァンごと切り捨てるからな?」
ファイブルの放つ殺気に、ワンスは五回くらいカクカクカクと素早く頷いて怯えた。商家の跡取りとは思えない怖さである。そして、白い紙を取り出して、頭の中にある計画書をさらさらと書き起こす。ファイブルはワインを飲みながら、それをじっと見ていた。
「なるほど……すげぇな。全部ハマったら超テンション上がりそうな計画だな~。ワンスの頭の中に住みたい! 楽しそう!」
「家賃高いぞ」
「でもさー、ここらへんの犯罪の香りしかしない部分はどうすんだ? 俺はやらんぞ」
ファイブルは嫌悪するように両手を上げて無罪を主張。彼は悪いことが大好きな割には、絶対に犯罪の垣根は越えない男であった。あ、悪いことが好きなのではなく、面白いことが好きなだけだったか。悪いことって大抵面白いもんね。
「そこらへんはスーパー犯罪者である俺に任せてくれ。ファイブルは、むしろこっちの方だな。騎士役とか」
「それを俺やニルドが担うってことか。このハニトラは?」
「ミスリーにお願いするつもり」
「フォースタの子の方がいいんじゃね?」
「あー、それが出来ればラクラクなんだけど、フォーリアはほんっとーに使えない。マジでヤバい」
ワンスは色々と思い出しながら、額に手を当てて悩ましいポーズをした。ワンスの賢い頭を残念なフォーリアがヒューッと通過していった。
「そんなに?」
「会えばわかる。ちょっとキスしただけで床にへたり込むレベルだ、女として全く使えねぇよ」
「ほー、そんなにワンスのこと好きなのか~、可愛いじゃん」
「……鳥肌立ったわ、うげ」
「はいはい。じゃあ、フォースタの子はどうすんの? お留守番?」
「フォーリアには、こっちの女詐欺師役をやらせるつもり」
「……あー、なるほど。あの容姿なら目を引くからってことか」
「そう。基本は黙ってるだけでいいしな。うーん、ファイブルはなぁ、ちょっと危ない橋を渡らせるけど……ブラフ役は超重要なんだよなぁ」
「これくらいなら許容範囲だ。案ずるな。ヤバくなったらお前を差し出して即逃げる」
「ははは! そういうとこイイよな、お前!」
ファイブルは、頭の中でもう一度計画を反芻するように目を瞑って、そして一つ大きく頷いてからパッと目を開けた。どうやら納得がいったご様子だ。かと思ったら、眼鏡を外して、それをテーブルにそっと置き、再びスッと目を閉じていた。
「……なにそれ」
「へえブルとの別離を偲んでいる」
ワンスは高そうなワイングラスをフォークで軽く弾いてチーンと音を鳴らしながら「黙祷」と言った。この二人、悪ふざけがすぎる。
その夜、ワンスの財布がスッカラカンになるまでファイブルは食べて飲んでいた。楽しそうだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!