「俺は詐欺師だ。お前のことなんか好きになるわけねぇじゃん」【完結】

~詐欺師が詐欺事件を解決! 恋愛×詐欺事件が絡み合う
糸のいと
糸のいと

22話 餌をあげて繋いでいたい

公開日時: 2022年12月10日(土) 10:31
文字数:1,949



 恋と詐欺。

 二つは良く似ている。


 容易なのはどっち? 難儀なのはどっち?


 手に入らないと思っていたら、いつの間にか手の中にある。手に入れたと思ったら、スルリと逃げていく。


 そそのかされたり、誘われたり、踊らされたり。

 騙した、騙された? 奪った、奪われた?


 さて、詐欺本当か。どちらかな。




「ファーイブル♪」

「うわ……すげぇご機嫌だな、気持ち悪っ。なになに? 青い春? 恋でもした?」

「はぁ? 俺は詐欺師だ。恋なんてするわけねぇじゃん」

「じゃあ ダグラス?」

「そう」


 ワンスがニヤリと笑ってみせると、ファイブルは銀縁眼鏡をカチャリと音を立ててかけ直した。


「教えて!」


 その言葉には答えずに、グラスを傾けて楽しそうにクルクルと回した。思い出し笑いで、クスクスと声が零れる。

 ファイブルは「ちっ」と小さく舌打ちをして仕方無さそうに頬杖をついていた。


「あぁ、そうだった。聞きたいんだけどさ、ダッグ・ダグラスってハニトラの引っ掛かり歴ある?」

「あー、女好きだけど侯爵家の次男坊だからなー。ハニトラまではいってないはずだ。高位貴族だし、金持ちだし、割とモテるし耐性もあるんじゃねぇの?」

「割と、モテる……?」


 フォーリアのゴシゴシ嫌がり具合を見てしまったワンスにとって、ダグラスは可哀想で残念な男という印象しかなかった。ゴシゴシゴシゴシ、ワンスが上書きするまでずっと擦っていたくらいだ。


 となると、ダグラスにとってはフォーリアが別格だったということか。確かに彼女は見た目はいいが、中身がちょっと……一般的な男にとっては、イタダケナイのではないか。


「フォーリアがすんなりとダグラスを釣ったんだよ。ハニトラ被害者代表かと思ったんだけど」

「フォースタの子は綺麗って噂だもんな~。ダグラスのど真ん中だったんだろうな」


 ―― フォーリアの利用価値か……


 ワンスは184回の特訓を思い出してみたが、やはり苦笑いしか出なかった。


「いやー、でもなぁ。フォーリアを使えるようにするのはなかなか厳しいだろうな」

「見限るのはまだ早いんじゃね? 俺だったら訓練して使えるように仕込むけどなぁ、楽しそう~♪」

「そうなんだよなぁ。まあ一応、餌は蒔いてるけど……かたい」

「餌って? え~? まさかまさかの卑猥なこと~? ワンスにしては珍しいな」

「お人形遊びみたいなもんだよ」


 この男、最低である。そうなのだ、ワンスにとってはキスも抱擁もフォーリアを繋ぐための餌みたいなものだった。まるでオモチャのお人形で遊ぶみたいに、トテチテタクルリクルリと踊るフォーリアを見て楽しみつつ、餌を渡していただけ。


 二人の仲が進展していると、どえらく期待しているだろうフォーリアが気の毒でならない。最低な詐欺師だ。


「使えないのに餌まであげて繋いでおく必要性あんの?」

「ある」

「えー、分からん! ヒントヒント!」

「じゃあ第一ヒントな?」


 突然、謎のクイズ大会が開かれた。本当に仲が良い二人なのだが、悪ノリがノリノリなのだ。


「フォーリアのことが大本命の男」

「え……ワンスのこと? うぉ! いってぇな、蹴るなよ!」


 ワンスはテーブルの下でファイブルを思いっきり蹴った。靴の踵の硬いところで思いっきり蹴った。お行儀が悪い。


「第二ヒント、金髪」


 第二ヒントを聞いた途端、ファイブルの顔がぱぁっと輝いた。銀縁眼鏡にキラキラの瞳が反射しているようだ。彼にとっては、大層面白い情報なのだろう。


「え、え! ニルドってそうなの!? フォースタの子が大本命なの!? お気に入りって聞いてたけど、まさかの本命?」

「そう。大本命だな、あれはヤバい」

「どれくらい?」

「一方通行なのに18,000ルドをポンと出せるくらい」

「わお、やべぇな……」


 ファイブルが身震いをして、鳥肌が立つ腕をさすった。信じられないって顔をしている。そしてワンスは共感して深く何度も頷いた。


「ワンスがフォースタの娘を餌で繋げて、フォースタの娘を使ってニルドを繋ぐってこと?」

「そう。繋がれ友達の輪~♪」

「えげつない! だがそれがいい!」

「お前も繋がってみるか?」

「うーん、楽しそうだけどなぁ、ニルドちゃんのお守り役も続けたいしなぁ」

「両立すれば?」

「俺さぁ、ニルドの前では『へえへえ何でもやりますよ』って猫被ってんだよ。へえブルって呼んでくれ」

「へえブルw」

「へえブルのことも結構気に入ってるキャラなんだよ~。でもニルドと長いこと一緒にいて猫被る自信ないしぃ」

「ま、気が向いたら友達になろうぜぇ」

「で、友達増やして何すんの?」


「国庫輸送の情報掴んで~」

「……お?」


「レッド・ハンドレッドとやり合う」

「……ま?」


「へえブルはどうする~?」

「俺は商家の跡取りよ? やるわけねぇだろ。すげぇな、骨は拾ってやるよ」

「よろしく」

 

 ワンスがサインを見せると、ファイブルはそれを打ちで叩いてやった。







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