あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~

二重人格のドジッ娘メイドアンドロイドが贈る、純愛ラブコメです!
ゴサク
ゴサク

15話 お夕飯です!

公開日時: 2020年11月13日(金) 19:24
更新日時: 2020年11月19日(木) 22:56
文字数:2,197

「え……?」


 昌也は口を開けたまま呆然としている。いつもは無駄に元気な昌也もさすがに動揺しているようだ。


「嘘だろ……嘘だよな? だって、こんなに元気じゃねえか……」


 昌也は顔を青くして小刻みに震えている。

 無理もない、こんなことをいきなり言われるとは思ってなかっただろうからな。


「信じねぇ、俺は信じねぇぞ! そんなわけあるかよ!」


 昌也は大声で叫びながら俺に掴みかかった。その手は大量の汗で濡れていて、昌也の焦燥しょうそうが伝わってくる。


「冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」


「落ち着け昌也、あくまで仮定の話だ」


 俺は昌也をなだめる。今はこうでも言っておかないと話が進まない。


「昌也はキッカさんが戦っている所を見てないから解らないだろうけど、あの手際は尋常じゃなかったぞ」


「それは……」


 昌也は押し黙る。取り敢えずは、俺のことを信じてくれているみたいだな。


「なぁ、昌也、これは提案なんだけど、そんなにキッカさんが心配なら一回キッカさんを診てもらわないか?」


「診せるって、誰によ? もしウィルスに感染していたとして、今の状況じゃどうにもならないんだろ?」


 そうだ、昌也の言う通り、現状素人の俺たちはもちろん、普通にメンテナンスセンターに行ってもどうにもならないだろう。

 それでも、俺には切り札がある。メイドアンドロイドを設計した本人なら何とかなるかもしれない。


「高月博士に診てもらおう。それしかない」


「高月博士!?」


 昌也は俺の口から思ってもいない名前が出たことに驚いている。俺だって、逆の立場なら同じ反応をしただろう。


「高月博士って、あの高月博士だよな?」


「そうだ、あの高月博士だ」


「俺達みたいな一般人が、そう易々と会える人じゃないだろ?」


「実は、俺と高月博士は知り合いなんだ」


「マジで!? 何で!?」


 本当はあまり話したくないんだけど、昌也になら話してもいいかな。俺はアミィの現状も含めて、高月博士との出会いについて昌也に話した。


 …………


「そうか、そんなことがあったのか。アミィちゃん、思ったより大変なことになってたんだな……」


 昌也の奴、こんな状況なのにアミィの心配をしてくれている。やっぱり昌也は根はいい奴だ、だからこそ俺は昌也の力になってやりたい。


「なかなか気さくな人だったから、悪いことにはならないと思うぞ」


「そうか……」


 昌也は目を閉じて、腕を組みながら唸っている。しばらくして、昌也は指をパチンと弾いて、口を開いた。


「そうだな、行ってみるか! 俺も高月博士に会ってみたいし、キッカさんもそれでいいよな?」


「ご主人がおっしゃるなら、その様に」


 キッカさんは特に興味が無さそうに答えた。その表情は、出会ってから今まで一貫して変わらない。


「決まりだな、それじゃあ早速連絡してみるよ」


「頼んだぜ、恭平」


 昌也は俺に期待の眼差しを浴びせる。その顔は昌也にしては珍しく、とても真剣だった。


「日程が決まったらまた連絡するから、それまではあんまりキッカさんは外に出ない方がいいかもしれない。大丈夫か? 昌也」


「解った、キッカさんもそれでいいよな?」


「私はご主人のメイドですから、ご主人の命に従うだけです」


 よし、これで決まりだ。昌也も心配だろうから、できるだけ早く何とかしてやらないとな。

 こうなったら後は高月博士の予定次第だ、早速帰ったら日程の調整だ。


「それじゃあ、今日の所はこれで解散かな。それじゃあな、昌也」


「あぁ、じゃあな。俺達も帰ろうか、キッカさん」


「はい、それでは、夕食の仕込みもありますので、これで失礼致します」


 俺達は別れ、それぞれの家路についた。

 さて、ひと悶着あったけど、今日はアミィが夕食を作って待っているんだ。俺は久しぶりのアミィの手料理に、期待を膨らませていた。


 …………


「ただいま~」


「お帰りなさいませ! ご主人様!」


 いつものようにアミィが俺を出迎える。キッチンの方からは、食欲をそそる香りが漂っていた。


「ちょっと遅かったので心配しましたよ! お夕飯、出来てますよ! 冷めないうちに、早く来てくださいね!」


 アミィが俺に笑いかけながらキッチン入っていく。俺はスーツから部屋着に着替え、キッチンへと向かう。

 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。俺は覚悟を決めてテーブルに付いた。


「どうぞ、召し上がれ!」


 テーブルの上ではホワイトシチューが湯気を上げている。何だ、存外まともじゃないか。

 俺はスプーンでシチューを掬い、口へと入れた。


「!?」


 俺の舌の上に甘味が広がる。いや、甘味と言うには強烈すぎる。甘い、甘すぎる。


「アミィ、これって……」


「隠し味にホワイトチョコレートを入れてみました!」


 隠れてない、隠れてないぞ。朝食の件といいアミィは相当の甘党のようだ。


「どうですか? ご主人様」 


 アミィは期待の眼差しを俺に向けて返事を待っている。キラキラした瞳に見つめられ、俺はちょっとひるんでしまう。


「どうですかって……」


 俺はどういったものか悩む。せっかくアミィが作ってくれた夕飯、傷つける訳にはいかない。


「……なかなか個性的で美味しいよ」


 そう、食べられないことはない、食べられないことはないんだ。それが逆に厄介なんだ。これはアミィの料理センスの問題だからな。


「よかったです! お代わりもありますからね! たくさん食べてください!」


「あ、そうですか……」


 俺はスイーツのような夕飯を、結構無理して平らげた。口のなかの甘味がとれない、今日は念入りに歯磨きをしないとな。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート