「はぁ~ さすがにもうお腹いっぱいです~ ごちそうさまでしたぁ~!」
「いやはや、これはあっぱれだな」
「ふわぁ~ 凄いです! メリーさん!」
「やれやれ、今日はこんなもんで済んだか……」
最終的にはメリーさんの注文の第二波(主にデザート)があり、長テーブルの上は空の食器で溢れ返っていた。
この分だとファミレスとはいえ結構な値段になっていることが予想される。しかし、ここは先輩の度量の見せ所だ。
俺が伝票に手を伸ばすと、それを紫崎が先に取り上げてレジへと向かう。
「今日のところは僕が払いますよ」
「いや、さすがに後輩に払ってもらうって訳には……」
「いえ、正直メリーの分を合わせると誤差みたいなもんなので。ここはまとめて払わせてくださいよ」
「解ったよ、それじゃあ、ごちそう様」
「ご馳走様でした! 紫崎さん!」
「いつか僕に奢って下さいよ、先輩」
そう言って紫崎がニヤリと笑う。よしよし、着実に紫崎との関係は良くなっているな。
「さて、次はどうしようか」
「まぁ、適当な店でショッピングですかね?」
「取り敢えず、ショッピングモールまで歩いてみませんか?」
「そうですねぇ~ そうしましょうかぁ~」
「それじゃあ、決まりかな」
俺達は腹ごなしがてら、ショッピングモールまで歩くことにした。
…………
しばらく俺達が歩き続けると、ショッピングモールが近づいてきた。
ショッピングモールの入口周囲の人はまばらで、出待ちのタクシーが数台並んでいる。
「さて、それじゃあ、行こうか……ん?」
俺達がショッピングモールの入口に向かおうとすると、背後から悲鳴のような声が聞こえてきた。
その悲鳴はだんだんこちらへと近づいてくる。俺は背後に目をやった。
そこには高速で走り込んでくるタクシーがいた。俺とタクシーの間にはアミィとメリーさんがいる。
「え」
「!!」
一瞬の出来事、さっきまでの楽しい雰囲気は吹き飛んだ。余りに現実離れした光景、目の前の光景が現実と認識するが遅れた。
アミィとメリーさんがタクシーに跳ねられる。この距離ではもう避けることも叶わないだろう。俺にはただ叫ぶことしか出来なかった。
「アミィー!!!」
…………
激しい衝突音と同時に俺は咄嗟に目を閉じた。怖くて目が開けられない。そこに広がっているのは絶望に違いないからだ。
しかし、実際は俺が想像しているのとはまた違った状況のようだった。
俺の近くでゴムが激しく擦れるような匂いと、キュルキュルと激しい音がしてきた。
恐る恐る目を開けると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「大丈夫ですか! アミィちゃん!」
「は、はい……」
俺の目の前には腰を抜かしたアミィが地面にペタリと腰を下ろしていた。俺は慌ててアミィに駆け寄り、安否を確認した。
「怪我は無いか!? アミィ!」
「はい、大丈夫です。私はどこも怪我してません」
「響さん! アミィちゃんを連れて離れてください!」
目の前でメリーさんが背中越しに話しかける。メリーさんの前には唸りをあげながらなおも走り続けるタクシーがいた。
そのタクシーのバンパーをメリーさんがガッチリと掴み、素手で食い止めているようだ。
「メリー!?」
予想だにしない事態に、紫崎がメリーさんの方へ駆け寄ろうとするが、メリーさんがそれを遮る。
「こっちは危険です! 坊っちゃん! 響さん達と一緒に離れていてください!」
紫崎に向かって叫ぶメリーさんの口調は、いつもと間延びした口調と違いハッキリしたものになっていた。その迫力に押され俺達は早急にメリーさんから離れる。
「これで周りには誰もいませんね、それでは、やっちゃいます! はぁああああああ!!」
メリーさんの声と共に、タクシーの車体がギリギリと音を立てながら持ち上がっていく。
そしてメリーさんは大きく胸を反らし、そのまま車体を後ろに放った。
その瞬間、メリーさんの目が大きく見開かれた。その目は、まるで猫のような金色をしていた。
「そお~れっ!!」
タクシーは天井から屋根がひしゃげる音をたてながら地面に叩き付けられた。タクシーの動きは完全に停止したようだ。するとタクシー内からノソノソと出てくる影があった。
「グルル……」
どうやら暴走したアンドロイドがタクシーを運転していたようだ。
アンドロイドはこの惨事の原因であるメリーさんに向かって突進した。しかし、リーチの差もあり敢えなくメリーさんに捕まった。
「グワァァァ!」
メリーさんが片手でアンドロイドの頭をミシミシと掴む。そして、アンドロイドはそのままメリーさんに高々と持ち上げられた。
「あなた! 今のでもしアミィちゃんが怪我したらどうしてくれるんですか! 坊っちゃんや響さんが怪我したらどうしてくれるんですか! 謝ったって許しませんよぉ~! これで……反省……しなさあ~い!」
メリーさんはアンドロイドを思いっきり投げ飛ばした。幸い、投げ飛ばされたアンドロイドは途中で木に引っ掛かったから大破はまぬがれたようだ。
「ふう、すっきりしましたぁ~」
俺達は投げ飛ばされたアンドロイドからメリーさんに視線を戻す。どうやらいつものメリーさんに戻ったようだ。
俺達は慌ててメリーさんの方へと駆け寄る。
「メリー! 怪我は無いか! あんな無茶をするなんてどうかしてるぞ! 取り敢えず救急車、じゃないな、修理センターか!」
紫崎は泡を食いながらテンパっている。でも、当のメリーさんはいつもの調子で紫崎に向かって返事をする。
「え~っと、それがですねぇ、特に異常は無いみたいなんですよねぇ~ わたし、凄くないですかぁ~?」
確かに見た限りではメリーさんはピンピンしている。つまり、あれだけのスピードのタクシーを受け止めてひっくり返すだけのパワーがメリーさんには備わっているということか。
さっきのアンドロイドの件といいこれはもう疑いようは無い。これは紫崎とメリーさんにウイルスの件について話さないといけないな。
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