あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~

二重人格のドジッ娘メイドアンドロイドが贈る、純愛ラブコメです!
ゴサク
ゴサク

65話 夏樹ちゃんの想い

公開日時: 2020年12月9日(水) 22:00
文字数:1,979

 碓井さんは神妙な口調でとんでもないことを俺に話した。


「実は……どうも夏樹は響様に少なからず、特別な感情を抱いているようなのです。もちろん、本人に直接確認したわけではありませんが……最近の夏樹は何だか浮わついておりまして。それというのも、響様のお話をするようになってからなのでございます」


 ちょっと待て、そんな急な話あるもんかよ。俺は慌てて碓井さんに確認する。


「そんな、何かの間違いでしょう!? こんな冴えない男のこと、夏樹ちゃんがどうか思うなんて考えられません」


「いえ、恐らくは間違いないかと。わたくしも夏樹のマネージャーである前に一人の女でございます。長年一緒に仕事をしている年頃の女の子の感情の機微くらいはわかるものですよ?」


「そんな……俺、そんなに立派な人間じゃありません!」


「今日、響様とお話するなかでも、夏樹が言っていた通り、随所に細かい心遣いを感じました。そういったところに夏樹は惹かれているのだと思います」


 そんな、俺はそんなつもりは全くなかったんだけど。もちろん俺のことを好いてくれるのは嬉しいけど、相手が異次元すぎる。


「それで、俺はどうすればいいんですか? 夏樹ちゃんはアイドルですよね? さすがに恋愛沙汰はご法度っていうか……それくらいはさすがに俺でも解ります」


 当然だ、夏樹ちゃんは国民的アイドル、恋愛なんてとんでもない。しかし、俺のこの考えは碓井さんに一蹴される。


「響様のおっしゃることはごもっともですが、わたくしはそうは考えておりません。そのような考えは時代錯誤、アイドルだって自由な恋愛をして然るべきです」


「それじゃあ……極端な話、俺が夏樹ちゃんと付き合うのも問題ないと」


「そういうことです。最も、現時点では夏樹が響様のことをどう思っているかは解らないので何とも言えないのですが。そこで、響様にご相談させていただきたいのですが……宜しいですか?」


 俺の思考回路はもはやショート寸前だ。もはや俺にはただ碓井さんの話を最後まで聞くことしか出来なかった。


「俺に出来ることであれば。聞かせてくれますか?」


「ありがとうございます。ご相談というのは、これから響様がご都合が良い時でいいので、夏樹の相手をしていただきたいということなのです。正直なところ、このままではアイドル活動に支障が出かねない状況でして……勝手なお願いで申し訳ないのですが、いかがでしょうか?」


 つまり要約すると、『夏樹ちゃんとデートしてくれ』ってことだよな? 

 そんな恐れ多い話、断るのが筋なんだろうけど、俺はこの話、正直、まんざら悪い気はしていないのも事実だ。


「そうですね……解りました。俺で力になれるのなら、協力します。ですが、夏樹ちゃんと俺の関係がどうなっても今後の保証はできませんが、それでもいいですか?」


 とはいえ、俺にはアミィがいるからそんなことは起きないんだけどな。あくまで形式的な確認、何の問題もないだろう。


「もちろんでございます。しかし、響様も分別のある大人の男性かと思います。それは今までの会話からでも十分解りました。ただ、勝手なお願いとは存じますが、夏樹を悲しませるようなことだけは、ご遠慮願います。そこも含めて、響様のご判断にお任せします。どうか、夏樹を宜しくお願い致します」


 碓井さんは俺に深々と頭を下げる。こうして、俺は碓井さんのお願いで、夏樹ちゃんの恋路に協力することになった。

 最も、俺がやるべきことはどうやって夏樹ちゃんを悲しませずに振るかを考えることなんだけどな。

 そう考えると何とも罪作りな話だ。国民的アイドルを袖にするんだ、ファンが聞いたら殺されかねないな。


 いや、まだそうと決まった訳じゃない。夏樹ちゃんが俺に抱いている感情が、ただの年上の男性への憧れなら問題ない。それなら夏樹ちゃんを諭して納得してもらう、それだけの話だ。

 俺はこれからの夏樹ちゃんとの関係に、ちょっとだけ期待を膨らませながら皆の元へと戻っていった。


 …………


「遅いぞ! 恭平! そろそろ行かないと、電車間に合わねぇぞ!」


「悪い、皆! ちょっと話し込んじゃって!」


 俺は待っていてくれた皆に頭を下げた。するとアミィが俺に話しかけてきた。


「ご主人様、碓井さんと何を話されてきたんですか?」


 この質問には今は答えられないな。俺はアミィの質問をお茶を濁すように答える、


「いや、何でもないよ、『今日は来てくれてありがとう』って、再三お礼を言われちゃってね……参ったよ、ホント」


「そうですか……それならよいのですが……」


 そう、俺にはもうアミィという最愛のパートナーがいるんだ。俺の意思は揺るがない、このときはそう思っていたんだ、本当に、心から。

 それでも、時間は人を変えてしまう。この時、俺はこれから自分に訪れる試練に全く気づいていなかったんだ。


 俺は、ただこれから起こるであろう事柄に思いを巡らせながら、コンサート会場を後にした。

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