「これで……終わりだ!」
垂直に蹴り上げられたジュリさんの踵がアンドロイドのあごを捉える。ジュリさん達を囲んでいたアンドロイド達は、全員地面に倒れてしまった。
「しゃあ! ざまぁ見やがれってんだ!」
ジュリさんのテンションは今もなお高い。ジュリさんは高笑いをしながらしきりにガッツポーズをとる。
「結局俺の出番は無かったな、それじゃあな、恭平」
アミィはそう言うと、いつものアミィに戻った。アミィは膝を折り、とても残念そうに目を伏せる。
「こんな日に……何で……何で……!」
アミィが涙をポロポロと地面に落としながら泣いている。その涙は、地面の石畳にいくつもの染みを作る。
「アミィ……」
かける言葉も見つからない。今日、俺はアミィに助けを求めてしまった。アミィを自ら危険に晒そうとしてしまったんだ。
そんな俺が何を言える。今はただアミィが泣いているのを見ていることしか出来なかった。
「ハハッ……ハハハッ……」
何だ? ジュリさんの様子がおかしい。ジュリさんの足元がおぼつかない、目も虚ろだ。
「お姉ちゃん!」
「ジュリさん!」
ジュリさんが倒れた! 俺達はジュリさんの元に駆け寄った。ジュリさんの体が熱い、これはいわゆるオーバーヒートってやつだな。
「大丈夫、気絶してるだけだ。しばらく待てば起きるだろう」
「良かったです……ご主人様! ジュリさんが起きるまで、どこかに寝かせてあげましょう!」
良かった、アミィも少しは立ち直ったようだ。俺は倒れたジュリさんを抱き起こし、背中に背負う。
「ジュリお姉ちゃん……!」
進君は、今にも泣き出しそうだ。仕方ない、こんなこと今までなかっただろうからな。
「とにかく、この場を離れよう」
俺達は、早くこの場を離れることにした。アンドロイド達については、騒ぎを受けて駆けつけた遊園地のスタッフに任せる事にしよう。
幸い、アンドロイド達の外傷はそこまで酷いものではなさそうだから、大事にはならないだろう。
俺は近くのスタッフにことの顛末を正直に話し、何とか正当防衛だった旨を納得してもらうことができた。そして、俺達はジュリさんをどこかに寝かせるべく、その場から離れた。
…………
「ん……あれ? オレは……」
「ご主人様! ジュリさんが目を覚ましました!」
「良かった! 大丈夫? ジュリさん」
「お姉ちゃん!」
ベンチの上でジュリさんが目を覚ました。見た感じでは、ジュリさんの体調は特に問題は無さそうだ。
「お姉ちゃ~ん!」
進君が泣きながらジュリさんの胸元にに抱き付く。そんな進君の頭を、ジュリさんはいとおしそうに、優しく撫でる。
「泣くな、進。お姉ちゃんは大丈夫だから……」
「うん……ぐすっ」
進君も、ジュリさんの声を聞いて、泣き止んでくれたようだ。進君を撫でるジュリさんの顔は、正真正銘のお姉さんだ。
「お前ら、オレを介抱してくれてたんだな、何度も悪ぃな」
「いや、本当に無事で良かったよ。いきなり倒れたもんだからビックリしたよ」
「お気になさらずに……ジュリさんがご無事であれば、それだけで」
「そうか……本当にありがとうな、恭平、アミィ」
ジュリさんはもう大丈夫そうだな。さて、ジュリさんにはあの話をしなくてはいけないな。
俺はウイルスについてジュリさんと進君に話した。進君はあまりよく解らなかったようだが、ジュリさんはある程度は理解してくれたようだ。
「つまり、オレはやろうと思えば人間も殴れると」
「そういう事だね……」
「それなら丁度いい」
ジュリさんの顔がわずかに険しくなる。
「え? それってどういうこと?」
「オレはいつか進の両親をブン殴ってやりたいと思ってたんだ。いっつも進を放って仕事仕事……それでも親かっての」
「ジュリさん……!」
「ハハッ、冗談だよ」
ジュリさんは笑い飛ばした。本当に冗談で済めばいいんだけどな。
「あ、そうだジュリさん」
「何だ? 恭平」
「悪いけど、ちょっと首の後ろ見せて貰っていいかな?」
「ぁあ!? 何だいきなり気色悪ぃ!」
ジュリさんは俺の方を見て訝しげな表情で叫んだ。
「いや、変な意味じゃないよ、すぐに済むから。それじゃあ、ちょっと失礼して……」
俺は高月博士から貰ったチップをスロットに差し込んだ。
「これで特に問題無いはずだけど、何かあったら連絡貰えるかな? 俺から高月博士にお願いしてみるから」
「解ったよ、本当に世話になったな! それじゃあな、これからも宜しくな!」
「バイバイ、恭平お兄ちゃん! アミィお姉ちゃん!」
「それじゃあね、進君」
「バイバイ、進くん。ジュリさんもお元気で」
俺達はジュリさん達と別れた。二人が見えなくなる頃には、空は茜色から夕闇へと変わり始めていた。
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