あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~

二重人格のドジッ娘メイドアンドロイドが贈る、純愛ラブコメです!
ゴサク
ゴサク

87話 一緒に来い!

公開日時: 2021年1月22日(金) 05:33
文字数:2,171

 オレが空港の前に降り立つときには、もう満身創痍になってしまっていた。それでも、オレは進の元へ行くために、重い足を引き摺って空港の中へ入る。

 空港のロビーは、旅行客やビジネスマンでごったがえしていた。この中から進達を探すのは、骨が折れるかもしれないな。


 幸い、進達がどの便に乗るかは事前に解っていたから、手荷物検査場まではなんとかなりそうだ。

 オレは言うことを聞かない体で、出来る限り急いで、空港の中を歩き続ける。

 何だか周りがオレのことを見ているみたいだったが、そんなことを気にしている余裕はない。


 そして、オレは手荷物検査場前まで辿り着いた。飛行機の搭乗受付まではあと30分、頼む! 見つかってくれ!

 オレは必死で辺りを見回す。目がかすむ、体が重い、頭だって悲鳴をあげている。


 そして、オレの目の前にズラっと並んだ椅子に進達が座っているのが見えた。よかった! まだ搭乗口まで行ってなかった! 間に合った!


 さて、これからが勝負だ。オレは、ゆっくりと三人の前まで歩いていく。やがて、三人がオレの姿に気付いた。その顔は面白いほど驚きに溢れていた。


「よぉ、進、それに、旦那様と奥方様よぉ」


「ジュリお姉ちゃん!?」


「ジュリ!? なぜお前がここにいる。いや、それ以前に、どうやってここまで来た!? お前、私達を見送っていたはずだろ!?」


「それに、ジュリ……あなた、なんて格好をしているの……ボロボロじゃないの……」


 格好? 知らねぇな。そんなことはどうでもいいんだよ。オレはいつもの口調で、進の両親に向かって話しかける。


「オレはな、お前らにいくつか聞きてぇことがあってここまで来たんだ。お前らに拒否権はねぇよ、ぶん殴ってでも答えてもらうからな」


「ジュリ、お、お前、主人になんて口の聞き方を……!」


「ジュリ、あなた……」


 ハハッ、二人ともヒビってやがる。そりゃそうだ、オレがこの口調で進の両親に話すのは初めてのことだからな。

 さて、言いたい放題言わせてもらうかね。そっから先のことはもはやオレにはどうでもよかった。

 初期化か? 処分か? どうにでもしろ。進と一緒にいられないことと比べれば、そんなことはなんの恐怖でもない。


「お前ら、進のこと、愛してるか?」


 正直、オレにも愛が何を指すのかよく解っちゃいない。だが、今は進の両親を何とかする方が優先だ。


「あ、当たり前だろうが! 大事な一人息子だ、進には立派に育ってもらうために、わざわざ世話係としてお前を招き入れたのだからな!」


「そうかい、それじゃあ聞くが、お前らは、毎日、進が枕を涙で濡らして眠っていること、知っているか?」


「ど、どういうことだ、ジュリ!」


「進はな、いつだって、両親に会いたくて、会いたくて、毎日、泣いていたんだ。オレは今日までそれをずっと見てきた。辛かったよ、オレには進を慰めることはできても進の両親の代わりにはなれないからな」


「何を言っている! それを何とかするのがメイドの仕事だろうが! 自分の無能を棚にあげて主人に意見するんじゃない!」


 やっぱりな。この野郎、一番言っちゃいけねぇことを言いやがった。オレは我慢できずに、進の親父の胸ぐらを掴み、椅子から立たせた。


「馬鹿かてめぇ!! オレの話聞いてなかったのか!! オレはお前らの代わりにはなれねぇっつってんだろうが!! 進はなぁ!! お前らからの愛が欲しくて、毎日泣いていたんだぞ!! 解ってんのかコラぁ!!」


「いや、それは……」


 よし、ビビってるビビってる、これならいけるかもしれねぇ。進と一緒にいるためなら、主人の恫喝だって何だってやってやるさ。


「ま、いいさ、過ぎたことを言っても仕方ねぇ。ところで、お前らは進をわざわざ海外まで連れていこうとしている訳だが、当然、お前らこれからは進の傍にいてやれるんだろうな?」


「そ、それは……」


 進の親父はしどろもどろになり、目を伏せる。やっぱりそうかよ、あきれてものも言えねぇ。絶対に、海外で進を一人ぼっちなんかにさせてたまるかよ!


「お前ら、もしこのまま進を連れていったら、進、いつか壊れちまうぞ? 知らない土地で! 誰もいない家で! 一人で! 帰ってこないお前らを待ち続けるんだぞ! お前らそれでも親か!! オレにはお前らの考えがさっぱり解らねぇ!!」


「う、うるさい! 家政婦くらいあっちでいくらでも雇えるさ! お前は大人しく家の管理だけをしていればいいんだ!」


 クソッ! やっぱりそう来るか! なんだ、恭平とアミィにあんな殊勝な態度で接するもんだから、何とかなるもんだと思ったが、甘かったか!


 でも、人見知りの進のことだ、新しい家政婦なんかに任せちゃいられねぇ! 仕方ねぇ! もう知るか! さらってでも進を連れていく! 後のことは知ったことかよ! オレは進の親父を掴む手を離し、進に手を差し伸べる。


「進! オレと一緒に来い! お前だってお姉ちゃんと一緒にいたいだろ!? これからもずっと! ずっと!! お姉ちゃんが進のこと守ってやるから! さぁ!」


 進は、オレの方に目を向け、オレの目を見つめている。そこには、今までオレが見たことがない、進がいた。

 目に宿るのは、並々ならぬ、決意の眼差し。あぁ、やっぱり、進は成長したよ。もう、オレの手からは、完全に離れてしまったのかな。


 そして、進はオレに向かって、しっかりとした口調で話し始めた。進が何を言おうとしているのかを考えると、オレは、とても怖かった。

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