あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~

二重人格のドジッ娘メイドアンドロイドが贈る、純愛ラブコメです!
ゴサク
ゴサク

62話 コンサート、開幕です!

公開日時: 2020年12月8日(火) 07:07
文字数:2,243

 ステージの上がスポットライトで照らされる。そこには夏樹ちゃんとマリンちゃんが並んで立っていた。

 正真正銘、二人だけ。ステージの背面には紫崎が着ているハッピと同じ二人の人魚をモチーフにしたロゴが大写しになっている。


 二人の登場に会場が静まり返る中、ステージ上の二人がマイクを手にし、会場の参加者に呼び掛ける。


「会場のみんな~!! 今日は私達のシークレットコンサートに来てくれて、ありがとぉ~!!」


「私達がここに立っていられるのは、みんなのおかげ!! 本当に、ほ~んとうに、ありがとうねぇ~!!」 


「それじゃあ、今日は私達の歌、楽しんでいってねぇ~!!」


「途中で帰ったりしたら、マリンちゃん泣いちゃうぞ~!!」


「「それじゃあ早速、MUSIC START!!」」


 …………


 こうして、ツインマーメイドのシークレットコンサートがスタートした。会場の空気はスタート直後から最高潮に沸騰していた。


 照明、音響、オーロラビジョンに写し出される映像。全てが海水浴場でのライブとは桁違いの興奮と高揚感を演出する。


 会場の参加者は既に総立ち、俺達は紫崎を除いて会場の熱気に圧倒されてしまっていた。すると俺は一つ問題が発生していることに気づいた。


 進君とアミィがしきりにその場でジャンプしている。これは会場のファンを真似している訳じゃない、単純に前が見えないんだ。

 すると、それに気付いたジュリさんが進君を抱き寄せる。


「ほ~ら進、こっちに来い、お姉ちゃんが肩車してやるから」


「うん、ジュリお姉ちゃん!」


 進君は瞬く間にジュリさんの肩に腰かけた。どうやらジュリさんはこういった状況には慣れっこみたいだ。


 問題はアミィだけど……会場の皆もステージの上に釘付けだし……よし! やるか!


「アミィ、おいで!」


「何ですか? ご主人様」


「俺がアミィを肩車してあげるよ! さぁ!」


「えぇ!? ご、ご主人様!?」


「それっ!」


「わわわ、ご主人様~」


 俺は半ば強引にアミィを肩車する。はじめのうちは俺の肩の上であたふたしていたが、次第に大人しくなった。


「どう? アミィ、見えるかい?」


「はい……よく見えますけど……は、恥ずかしいですよぅ……」


「大丈夫大丈夫、誰も気にしてないからさ」


「はい……」


 アミィも観念して、俺の肩の上でステージに見入る。俺はアミィの太ももの感触にちょっと罪悪感じみた興奮を感じていた。


 …………


 それからも、俺達はツインマーメイドの全てに釘付けになる。ツインマーメイドの歌はこの会場の空気を完全に支配していた。

 歌声はもちろんのことだけど、ステージ上でのダンス、曲の合間のトーク、全てが会場のファンの心を鷲掴みにしていた。


 その歌声はテレビで聴くのと全くの別物。いや、海水浴場で聴いた歌声すら比較にならない。

 寄せては引いていくさざ波のような緩急で踊る二人。少し気を抜けばどちらがどちらか解らなくなるほどの一体感。


 曲の合間のトークでは、巧みに会場のボルテージを引き上げていく。その姿はさながら革命の指導者のようなカリスマじみたものだった。

 これがアイドル、これがプロの本気、これがファンを虜にしてやまないツインマーメイドの本当の実力。

 正直なところ、俺もここまで自分が興奮するとは思っていなかった。でも、今なら紫崎が開演前に言っていた言葉の意味が理解できる。


 気付けば俺も他の会場のファンと同じように声を張り上げて二人に声援を飛ばしていた。それは俺だけじゃない、アミィも、昌也も、進君も、ジュリさんも、メリーさんも。

 そして、あれだけ乗り気じゃなかったキッカさんでさえ、コンサートの最後の方ではステージ上の二人に見入っていた。


 それにしても、ステージ上の二人の動きは全く衰えない。メイドアンドロイドであるマリンちゃんはともかく、夏樹ちゃんの体力はこれ程のものなのかと驚嘆する他なかった。

 アンコールを含めてたっぷり二時間、最後までコンサート開始の時の表情から崩すことなくやりきった。

 そして、シークレットコンサートは幕を閉じた。その余韻はしばらく俺達の足を止めるのには十分なものだった。


 …………


「凄かったな……それだけしか感想が出てこないよ」


「俺もさすがにここまでとは思わなかったぜ……来てよかったよ、ホント」


「私、今でも頭がクラクラします……」


「いや~ こんな世界もあるもんなんだな~ 正直テンション上がっちまったよ! 進はどうだった!?」


「ぼくも、あのお姉ちゃんたちのお歌、すごく好きだよ! また聴きたいね! お姉ちゃん!」


「あぁ、そうだな!」


「それにしても、坊っちゃん、大丈夫ですか? 何だか元気がないみたいですけど……」


「燃え尽きた……燃え尽きたよ……真っ白な、灰にな……」


 いかん、紫崎がどこかに行ってしまった。まぁ、紫崎もプロだ、放っておいても問題ないだろう。


「それにしても、キッカさん、何だかんだで楽しんでたみたいじゃないか。いや~ 良かった良かった!」


 止めろ昌也! 俺は知らんぞ! しかし、キッカさんの反応は意外なものだった。


わたくし、考え方を改めました。あのお二人の努力は素晴らしい、それだけは認めます……まぁ、歌詞がどうだ等はまた別の話ですが」


 キッカさんの考え方すら改めさせてしまう二人の実力、これはもう事件だな。さて、これでシークレットコンサートも終わり、後は解散、もう帰るだけ。


 そう思っていたけど、実際はもうひと波乱ありそうだった。

 コンサート終了後に俺の携帯に着信があったようで、確認をして見ると一通のメールが届いていた。このメールが、俺達を更なる興奮へ導くことになった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート