「だだいまっと……おっと」
高月博士の研究所から帰ると、郵便受けに封筒が入っていた。宛名には見たことがない名前が書かれていた。
名前の感じからすると、どこかの芸能プロダクションのようだ。俺の知り合いで芸能人といえば、二人しかいない。
封筒を確認したタイミングで電話が鳴る。ディスプレイには夏樹ちゃんの番号が表示されている。まるで図ったようなタイミングだ。
「もしもし、響です」
『あ、響さん、私です、夏樹です。突然すみません』
「いや、大丈夫だよ」
『そうですか、こちらが送った封筒、見て戴けましたか?』
「あぁ、やっぱり送り主は夏樹ちゃんだったんだね。封筒はたった今見た所だけど」
『そうでしたか。実は先日のお礼も兼ねて、私達のコンサートにご招待しようかと思いまして、何枚かチケットを送らせて戴いたんですよ。もし宜しければお友達を誘っていらっしゃいませんか?』
封筒の中身を確認すると確かにコンサートのチケットが数枚入っていた。
デザインもかなり凝っていてプレミア感が満載だ。しかも、かなりいい席みたいだぞ。
「こんな貴重なもの、もらっちゃっていいの?」
『えぇ、私達に出来ることはこれくらいしかないので。枚数が足りないようでしたら当日連絡もらえれば大丈夫ですよ』
「いや、そこまでしてもらう訳には……これで十分だよ」
『そうですか、解りました。それでは、来て戴けるのを楽しみにしていますね! それでは、失礼します』
「あぁ、それじゃあね、夏樹ちゃん」
「ご主人様、今のお電話は……」
「あぁ、どうも夏樹ちゃんが俺達をコンサートに招待したいらしくてね。コンサートのチケットを送ってくれたみたいなんだ」
俺はチケットの一枚をアミィに渡した。
「キレイなデザインですね……」
「確かに、ここまで凝ったデザインのチケットは今まで見たこと無いな。枚数は、八枚か」
取り敢えず俺とアミィ、昌也とキッカさんは誘うとして……そうだ、ジュリさんと進君も誘おうか。
後は、紫崎とメリーさんかな。紫崎はあんまりアイドル関係は好きじゃなさそうだが一応誘ってみるか。
「さて、それじゃあ早速!」
昌也と紫崎は会社で誘うとして、俺はジュリさんに連絡を取った。
「もしもし、響です」
『あぁ、久しぶりだな、どうした?』
俺はジュリさんと進君をコンサートに誘ってみた。
『ツインマーメイドっていったら、あのよくテレビに出てるやつか。オレはあんまりそういうの詳しくないんだけどなぁ。でも、進は結構喜ぶと思うから良かったら連れていってくれよ』
「解ったよ、それじゃあ次の休みに。集合場所についてはまた連絡するから」
『あぁ、わざわざ誘ってくれてありがとうな! それじゃあな!』
よし、これならひとまず二枚はチケットが無駄にならなくて済む。それに、これはジュリさんと進君を紹介するいい機会になりそうだ。
「さて、ジュリさんと進君は大丈夫だな」
「皆さん、来られると良いですね!」
「そうだな……差し入れとか持っていった方がいいのかな?」
これまでの人生でコンサートなんて行ったことがないから勝手が解らないけど、取り敢えず何かしらの準備はしておいた方が良さそうだ。その辺りは昌也にでも聞いてもいいかもな。
…………
次の日の休憩時間。俺は階段の踊り場に昌也を呼び出して、早速コンサートのチケットの件を話した。
「これなんだけど……」
俺は例のチケットを取りだした。すると、それを見た昌也の目の色が変わった。
「!! 馬鹿! 隠せ隠せ!」
昌也は慌てて俺にチケットをしまうよう促す。
「お前これが世間でどれだけの値段で取引されてるか知らんようだな! これはだなぁ、ツインマーメイドのシークレットコンサートのチケットで一般に出回るもんじゃあないんだ! CDに付いてくる応募券を送って抽選で当たった千人しか手に入らんのだぞ!」
昌也がチケットの希少性を力説する。夏樹ちゃんはそんなに貴重なものを八枚もくれたのか。恐らくは関係者枠ってやつかな?
「それにしても、何でそんな事知ってるんだ? 昌也」
「応募して外れたからに決まってるだろうが! 察せ!」
「お、おう……それで、行くか?」
「行かん訳あるか! 俺の話聞いてたのか! そうと決まれば色紙準備しないとな……サイン貰うチャンスがあるかもしれんし」
「そ、そうだよな、それじゃあ昌也とキッカさんもOKと」
昌也の表情が少し曇る。
「キッカさん、一緒に来てくれるかな……」
そういえば、海に行った時のライブでは乗り気じゃなかったんだったな。
「昌也が行くなら付いてきてくれるだろ、多分」
「そうなんだろうけど、空気が悪くならないか?」
「そう気にするなって」
「そうか? それじゃあ二人分頼むわ!」
「解った、詳しくはまた後でな」
「おう、話がまとまったら連絡くれや!」
さて、後は紫崎とメリーさんだな。昼休みに屋上で会った時に話してみるかな。
…………
「先輩! それをどこで!?」
意外にも紫崎に例のチケットを見せると昌也以上の剣幕で食いついてきた。隠してもしょうがないのでチケットを入手した経緯について紫崎に話した。
「どこをどうしたらツインマーメイドと知り合いに……先輩何者ですか!? そのチケット譲って下さい! 言い値で買いますから! お願いします!」
この異常なまでの執念、正直ちょっと引くレベルだ。
「わたしも応募ハガキ書くの手伝いましたからねぇ~ 坊っちゃん、CDた~くさん買ったんですよぉ~ 確か……」
「あっ、馬鹿! それを言うんじゃない! メリー!」
紫崎は顔を真っ赤にしてメリーさんの口を塞ぎにかかった。こりゃあ相当数買ってるみたいだな。
「いや、こっちとしてはチケットが余ってるから一緒に行かないか誘うつもりだったんだけど、俺の友達も一緒で良ければどうかな?」
「もちろん、喜んで行きますとも!」
「わたしも付いていっていいですかぁ~?」
「大丈夫、メリーさんのチケットも準備してるよ」
「ありがとうございます~ 良かったですね、坊っちゃん」
「これで先日の奢りの借りは一気に返してもらいましたよ! いやいや、今後とも仲良くして下さい! 先輩!」
何とも現金な後輩だ。しかし、アイドル好きという共通の趣味があるようだし、上手い具合に昌也と紫崎の仲を深めることが出来るかもな。
ジュリさんと進君については、俺の思惑通りに当日皆に紹介できそうだ。
「それじゃあ、紫崎君とメリーさんも大丈夫だな! 集合場所はまた連絡するよ」
「お願いします! 先輩! そうと決まれば色紙の準備をしないとなぁ~!」
紫崎も昌也と似たようなことを言っている。
「あらあら~ こんなに楽しそうな坊っちゃんは珍しいですねぇ~ 誘って戴きありがとうございますね、響さん」
「いや、ここまで喜んでくれるとは嬉しい誤算だったよ。それじゃあ、午後からの仕事も張り切っていこうか!」
「はい! 先輩!」
俺達はそれぞれの仕事場へと戻った。何だかんだで誘った全員が参加できそうで何よりだ。今週の週末は賑やかになりそうだな。
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