「うそ…」
「いやー、中までアスレとは」
「…。帰ろ?」
「いや♡」
アキアカネとヒカリはやっとのことでジャングルを抜け、その先の大樹の根元までやってきた。だがしかし、その先に待ち受けたそれは容易くヒカリのメンタルにクリティカルヒットに次ぐテクニカルヒットを決め込む。
目の前には大樹の中…。果てしなく上まで続くアスレチック…。その見えない頂上を2人して見上げ、ヒカリは既に無表情ながらも死んだ魚の目を見せる。
「ほら、登るよ?それに何かあるかも?興味無い?」
「…ある」
「それに私も手伝うから」
「ん…」
アスレチック…と言うよりも足元不安定な感覚が苦手なヒカリだが、好奇心には勝てなかったらしい。そのままアキアカネに連れられてその内部へと足を踏み入れた。
❆
「う〜ん。なんか小綺麗?全体的にヒノキの香りなのが原因かな〜?」
ヒカリとアキアカネが大樹に立ち入ったと同時、ユキはひとりでたんたんと上を目指してスタスタと駆け上がっていた。
それはまるで何でもないように軽やかに進んで行く。
「でもこれ〜…。落ちたら死んじゃうよね〜」
まるで積み木のように壁から生える足場、そこに1歩踏み外せば真っ逆さまな細い橋とも呼べぬ道。
良くゆえば先程よりも視界の開けたなかなか綺麗な場所。
悪く言えば、ノーミスクリア必須の鬼畜アスレ。
流石に下を見たらもう底が見えないため少し怖い。特に〔飛行〕無しだと思うと特にだ。
だがしかしユキは迷いなくスタスタと進んでいく。
流石にこの長いアスレが続くと飽きが来るのか。ユキは既に楽しむと言うより作業とかす。
そんな頃合を見てか知らずか、とある変化が起き始めていた。
「ん?」
視界に動く何か。そう。
「お〜!モンスタ〜!」
ユキの頭上から降下してくるそれは可愛い柄をした小鳥…。のような見た目で背丈60センチはありそうな大きな鳥型モンスター。
小鳥はユキ目掛けて上空から突撃攻撃を繰り出す。
「おっと〜。この足場でその攻撃は卑怯じゃな〜い?」
足元が限られているこの状況、さらにユキは飛行系スキルが使えない。
圧倒的不利な状況。
「いいね〜。撃ち落せってことだよね〜」
ユキはドレスに〔装備〕を変え、その手のひらを下に向け。さらに氷弾を針のようにした魔弾を浮かして構える。
キュー!!
律儀にひと鳴きした後に突撃してくる。
ちらっと足場を確認してその攻撃を避けるユキ。すぎ去り際に魔弾を放ちその小鳥を綺麗に撃ち落とした。
「う〜ん。まあ、1羽で終わるわけないよね〜」
さらに上空から次々と突撃してくる小鳥。ユキも対応するように氷弾連装して構える。
「さて〜。ワンミスアウト!盛り上がってきたね〜」
以降、ユキは襲い来る小鳥達を撃ち落としながらもどんどん上へ進んで行く。
全プレイヤーの中でユキが最速で上り詰めたのだった。
*
「意外とスタスタと登ってきいますね?さっきまでのヒカリは何処へ?」
「足場、並行。なら大丈夫」
そしてそのはるか下にはジャングルの時のドジっ子加減を一瞬にして消え去ったヒカリとアキアカネ。
どうやら足元が滑りやすかったり、凸凹していなければいいらしいヒカリは先程よりも楽に登ることが出来ていた。
「それにしても、ここに入ってからプレイヤーを見ないのはなぜ?」
「たぶん。振り分けられてる。それに、入口ひとつじゃない。かも」
「あー、なるほど」
「それに、たまに。上から、プレイヤーの。魔弾。落ちてきてる」
ヒカリの言う通り、たまーによく分からないものが落下していく。
「上でプレイヤー同士の戦闘?」
「…、分からない。そういう、ギミックかも」
「なるほど」
2人はそういう可能性もあると踏んで武器はいつでも取り出せるようにしておく。
そしてしばらくして、ユキと同じように小鳥が2人の頭上にやってきた。
「え?鳥?」
「なるほど。モンスター。敵。アキ構えて」
「え!?え!??」
アクシデントに少しキョドりながらも槍を構えるアキアカネ。ヒカリもグローブを構え、辺りに魔弾を浮かせる。
「アキ、火、ダメだからね…」
「わかってる!キャンプファイヤーにはまだ明るいもんね」
果たしてこの大樹がそんな簡単に燃えるのかはさておいて、あまり使わないに越したことはない。下手をしたら燻製されるようなものだ。
「ヒカリも!変なとこ踏んで落っこちないようにね!」
「…善処する」
そして2人は背中合わせで笑い合う。
その後案の定ヒカリが足を滑らせ落下。運良く途中の足場で止まることが出来たが、この時ばかりはヒカリもいつも無表情な顔が若干青かったこと。
アキアカネは少しの間笑い話のネタとして起用した。
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