暗闇に打ち上がる光弾の数々、〔光〕と〔魔法〕を持つプレイヤー達のおかげでそこそこ明るい夜の森の上を爆速で飛び抜けていくシリウス。
さらに少し離れてその後方から同速で着いていくアインズのメンバー5人。
「シズカ、距離はどのくらいに設定していますか?」
「わ、私、サナタリアちゃん、レンさん、ダイチさん、リンさんの順番で最高距離150mです」
「なるほどいい判断です。助かります。シリウスが森の下で攻撃を開始したと同時に私達も後ろに流れてきた撃ち漏らしを処理していきましょう」
「「了解」」
間もなくしてシリウスは森の下に降下する。減速も一切ない突撃、もちろん沢山ある木々を難なく避けつつ見つけたモンスターを勢いのままに切りつけていく。
その攻撃は目にも止まらぬ早さで通り過ぎ、もはや猫のモンスターでさえ目で追うのがやっとである。
構えた双剣の軌跡が剣舞したかと思うと既に次のモンスターへとたどりついているそれは、モンスターにとって逃げるまもなくやってくる影。
そして何とか逃げた猫型モンスターも。
「逃がさないのです!」
あとからいつの間にかそこにいたサナタリアの攻撃。木の根が鞭のようにうねり逃げ延びた猫型モンスターを吹き飛ばした。
そして彼女も既にこの場からはるか遠くに。まるで転移したかのようにいつの間にか移動を完了し次なる獲物へと攻撃を繰り出している。
サナタリアだけでは無い。レンも、リンも、ダイチも敵前に静かに現れては即座に攻撃を。そして消えて違う場所に現れている。
「熱となるもの、その強き御魂に降霊せよ、我が天の中に、その姿を写せ、その強き御魂に見せつけよ。我の言ノ葉我にあらず、神のもの拝借す。【強符】」
後方。リンが詠唱を開始し、それと同時にリンのはるか上空に光の線が円を描く。それは巨大な魔法陣であり、模様が浮かび上がるまでに複雑なその内容を示した〔魔法陣〕が出来上がっていった。
そして完成とともに怪しくも明るく光るとそのまま魔法陣はキラキラとした赤い粒子を魔法陣の大きな範囲よりもさらに広く降り注がせる。
そしてその効果はすぐに現れた。アインズの攻撃力が飛躍的に上昇し、シリウスはさらに一匹あたりの処理が速く。サナタリアに至っては一撃でモンスターを屠る。
アインズだけでは無い。その広範囲に渡る効果は戦う見ず知らずのプレイヤーでさえも強化していた。
一気に殲滅速度が上昇したプレイヤーサイド。猫陣営は徐々においかえされはじめ、さらにアインズ本陣によるパーティー単位での奇襲に戦場はプレイヤーの有利へと傾いていた。
「やはりシズカの【スタンスキープ】はとてつもないですね。こういったパーティーごとシリウスのスピードに合わせて布陣を崩さず移動できるというのは」
「強み」
「で、でもフィールドが闘技場のような場所ではあまり、や、役にはたたないのです…」
「充分ですよ」
そう、この消えては現れるアインズの移動方法はシズカによるものであり、彼女が編み出したスキルの組み合わせによるものだ。
シリウスはRBGではトップクラスの「持続超高速飛行」を可能とするプレイヤーであり、彼に〔牽引〕〔マーク〕〔連結〕〔統合〕を使用しているシズカが、自信を含むシリウス以外のアインズに〔転移〕〔保留〕〔開始〕〔合図〕〔固定〕〔条件〕〔簡略化〕〔采配〕を使い複雑な技として完成させている。
これらを組み合わせ、具体的にはシリウスが移動した距離、シリウス以外の全員を等速で〔牽引〕し、また各々の〔合図〕でそれを一時的に停止、技の実行を〔保留〕し、再度〔合図〕で、それまで〔保留〕していたはずの結果を〔転移〕に反映させ…。
といったもはや理解に苦しむような行程を経てできるとんでも技である。なお、本人はこれをちょっと色々考えて組み合わせただけ。と言っている当たりが1番おかしいのかもしれない。
「こうなったら出番が無くなるな。俺は」
唯一、アインズの生産職たるレンだけはその中でサナタリアのサポートくらいしかすることがない。
「あなたは事前準備が本番みたいなものですから。そう気にする事はないですよ?」
「わかってる。全力を尽くしたつもりだよ」
リンがそうレンを励まし、それにレンは少し笑って軽く答えた。
♚
こうして戦闘はその日のうちには終わらず、猫の勢いは衰えたものの。どこからともなく無限湧きするためプレイヤーは代わる代わるで交代しながら戦線を維持する。
結局この2回目の進行は翌日の朝まで続くのだった。
アインズも休憩を挟みながらも夜通し戦い。その勇士はイベントが終わったあとも話題に上がるほどである。
ちなみにハルトとアリアは同じく奮戦したものの。眠気に勝てず、アリアが戦闘中というのにもかかわらず眠りそうになりハルトに膨大な負担とアリアを抱えて前線から離脱すると言うどこのラブコメ展開を大衆の面前に晒しつつ深夜で1回ログアウトしたらしい。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!