「フッ。彼女は話題に尽きませんね?」
「ええ。動画投稿者としてはありがたいのですが、持ってくるものいつも激物ですからね」
『ちょ!?』
『これはひどい』
『悪意ある弾道やん』
『初めての飛行なのに』
気になったのでビュアは動画の下に追加でコメント欄を表示させセリエルも見えるようにする。案の定。壁に激突したウルドへの反応が流れていた。
「彼は〔飛行〕が初めてなのですかね?」
「おそらく。彼の故郷には日常的に空を飛ぶことは無いのでしょう。来訪者達と似た不慣れさですね」
「にしてもスパルタですね?〔ジャンプ〕含め圧倒的経験があるナユカさんに追いつけとは…」
「あれでもナユカさん的には手加減してるみたいですよ?〔ジャンプ〕や加速できるスキルは使っていませんし…」
「言われてみれば、飛び方もどことなくお手本のような気がしますね。いいライン取りです」
『ウルドももうあれだけ飛べるならいいような?』
『ウルド発砲』
『ナユカちゃんはまだ様子見かな?』
『一応手加減してるのか』
『〔ジャンプ〕使われたら追いかける側はかなり不利』
『都市や障害物あると逃げる側は楽だからね』
『こういう時は上を行くのがセオリーだが…』
ここにいるのは現代社会で既に飛行を多用しているプレイヤーのみ。来訪者が聞けば半数は置いていかれる会話内容だがここにはそれを指摘できるような人は居ない。
「どうです?ナユカさんが逃げ切るか、ウルドさんがナユカさんを捕まえるか。賭けでもしてみませんか?」
「いいですけど。私はナユカさんだと思いますよ?それ」
2人ともナユカのことは知っている。この状況下でナユカが捕まるということはほぼ無い。2人ともわかっていた。
「ですからゲーム内全体を巻き込んで賭けをしましょう」
そう言ってセリエルはイベントを開始する。
「なんです?このシステム」
自分の視界に現れたナユカとウルドの文字、それとオッズが…
「私の職業でですね。少し変わっていますがイベントメーカーという職業です。使えば簡単なイベントを開催したりできるのですよ」
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職業:イベントメーカー
段階:4
概要:イベントを開催できる。イベントの種類は沢山あるが基本的には大会や賭けごとのようである
特性:イベント作成
弱点:なし
特殊スキル:〔イベント〕
ーーーー
なるほど。そう思いながらも、ならば早速ナユカに賭けようとするビュアだったが…
「賭ける項目が3つあるのですが?」
ーーーー
プレイヤーメイドイベント
ナユカVSウルド どちらが勝つでしょう?
ナユカ 1.15 倍
ウルド 645.49倍
突発的な何かしらの緊急クエストやイベントに巻き込まれて勝敗決まらず 4298.95倍
ーーーー
この方が面白いでしょう?そう言いたげなセリエル。彼はコーヒーを飲みながら今も尚、変動するオッズを眺めていた。
「さて、ビュアさんはどこに入れますか?私はナユカさんに1億入れますが」
「!?」
額の多さに流石にビビったのか。さも当たり前のように大金をぶち込める神経を一旦冷静に処理する。
確かに、ナユカが勝つことをほぼ確信しているビュア。ならばナユカが勝つに幾ら入れようが関係ない。
だがしかし…
「ちなみに3つ目は保険ですよ。もしも勝敗がつかなかった場合賭け自体が不成立になりますからね。そうなると勿体ないので」
セリエルの言ってることは正しい。だが確実にこの3つ目の書き方には悪意しかない。今まで数々のイレギュラーを起こしてきたナユカなら?その3つ目の選択肢が有り得ると思ってしまう。そんな書き方だ。
「…ではナユカさんが勝つに1億。勝敗決まらずに5万で」
「あら、一緒でしたか」
ビュアはセリエルのにこやか晴れやかな笑顔に建前上、フッわかっているぜ!とでも言いたげな表情で返す。
が内面お前もその他に入れてんじゃねーか!!とぶっ飛ばしたくなったこと間違いなかった。
ちなみに最終オッズは
ナユカ 1.19 倍
ウルド 615.91倍
突発的な何かしらの緊急クエストやイベントに巻き込まれて勝敗決まらず 3798.97倍
となった。結果はナユカの勝利だったのだが…この時のコメント欄は大いに荒れたという。
「あ、ビュアさん。こちらを」
ーーー
セリエルより送金されています。
208 010 900 G
受け取りますか?
ーーー
「いっ!?なんですかこれ!?」
「ああ、イベントの入場料の5割です。ビュアさんの配信を使わせてもらってますので、山分けですよ」
確かに入場料に100G必要だった。だがしかしこれは…この賭けに40万人参加していたという事実の方が嬉しい。よく見たら視聴者数60万だった…
とりあえず、受け取っておいたビュア。お金はあればあるだけいいのだ。ゲームだしと言い聞かせながら。
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