静かだった浮島の夜はその鐘の音で姿を変える。あたりは弾幕が放つ光がそこかしこで飛び交い爆撃音と効果音、はたまた打撃音が大きく響き渡る。
所々に浮かぶ〔光〕の〔魔法〕が夜空で停滞し星空の下に新たな星空を作り上げていた。
「全体に連絡を!防衛作戦指揮等は広場に「緊急!防衛作戦指揮※要確認」を見ろ。重要な報告はそこに書け。と伝えて回ってください。みなさんも各自広場を閲覧できるように表示し、情報収集しながらでお願いします。定期的に私がネーム有りで情報を整理します。ビュアさんはそれに加えて映像で戦域全体の動きを捉えてください」
「「了解」です」
セリエルは器用に弾幕を敵目掛けて飛ばしながら視線だけでコメントを広場に打ち込んで行く。指示を聞き数名のプレイヤーとビュア、サーニャはそれぞれが各方面に散開した。
(敵は一回目と違い猫。その数は少なくとも確実に10万程…。これほどの数が元々浮島に?)
今でこそ大人気ゲームであるRBGであるがこのスカイスクランブルイベント当時の人口は今と比べると少ない。5000万程のプレイヤーを窮屈なくひとつの空間で収められるほどの巨大な浮島群ではあるものの。その全てが真っ当に街づくりのみに専念している訳では無い。時間帯、クエスト、その他もろもろ。概算して現在この街で防衛に当たれるプレイヤーは2万程だ。
街も大きく一方向とはいえそちらに全プレイヤーが向かう訳にも行かない。もちろん敵が反対側から奇襲してくる可能性も高いからだ。
また非戦闘プレイヤーも多く、今も尚プレイヤーに届けるための物資政策や街づくりで手一杯である。遠征や物資調達をしている者も駆けつけようにも距離がある。
スカイスクランブル参加プレイヤーで僅かそれだけの防衛。
対する敵は森でよく見えないが夥しい数いることは確かだ。
確かにモンスターとして猫型の報告はかなり聞いていた。が…。それは全体的に見ればかなり少ない件数。さらに地域が限られていたようにも思う。
(ひとまずこの群れをどうにかしなくてはなりませんか)
それに今回の襲撃には鳥型モンスターが一匹もいない。
ますますセリエルは何が起きているのか予想できない。
「セリエル!リン。ここに到着しました。これより我らも戦いましょう」
「みんな来れたのです!」
街づくりの中心人物となるアインズのメンバーもここでセリエル達に追いつく。セリエルは思いのほか早かったと安堵しつつリンの方にひとまず現状の報告と広場、ビュアの動画のことを伝えていく。
もちろん片手間で弾幕を猫目掛けて差し向けながら。
「なるほど。よくこれほどまとめてくださいました」
「これからはリンさんに指揮をお願いしても?」
「…いえ、全体をリアルタイムで把握し続けるのは私。そんなに首尾よくできないのです。どうかそのまま続けてくださいませんか?私は皆を引き連れ最前線で戦いたいのですが…」
リーダー的存在であるリンが来たのだから自分はひとまず指揮を譲り渡そうとするセリエル。だが、リンから放たれた言葉はむしろ続けて欲しいというものだった。これにはセリエルも少し考える。
「わかりました。一応リンさんも広場にて発言はしてください」
「もちろんです」
が、すぐに切り替えそのままこれからの動きを再計算し始めた。
「シリウス」
「ういっ!やっと出番かな!!」
「ええ、シリウスは個別に好きに動いて構いません。しかしそこにひとつ約束を。シリウスは遊撃や陽動として主に使います。なので力を温存して初手から「最速」は避けてください」
「了解!行ってくるっ!!」
リンの指示を受けたシリウスは水を得た魚の如くその他の指示を聞かずすぐさま飛び去る。
「私たちは基本行動範囲をシリウスの行動可能範囲とします。常に彼のフォロー。あるいは先読みして合流を目指し、私が後衛でバフをかけ続けます。その前でダイチは私の護衛を。サナタリアとレンは前衛を務めシリウスと共に、シズカは中衛で全員を上手くコントロールしてください」
「「了解」」
「…」
「あ、あれ…、私だけ難易度高いような…」
「行きます」
アインズもシリウスの向かう方向に全員で飛び立つ。
「風となるもの、その強き御魂に降霊せよ、我の言ノ葉我にあらず、神のもの拝借す。【風尾符】」
「ひとまず木々に頼むです!【Wriggling Forest Trail】」
「す、【スタンスキープ】」
シリウスが前で適度に敵を倒し暴れて、前衛2人がその隙にその他の敵を攻撃しフォローする。リンが後ろから全員をバフで底上げし、ダイチがそのリンを守りながら撃ち漏らしを防ぐ。それをシズカが把握、調整して。
そのリンのバフは範囲内のその他プレイヤーまでも強く、早くする。
今はまだ名も無きパーティー「アインズ」。彼らの連携の真骨頂が今発揮されようとしていた。
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