*>>ユキ視点
「ようこそ。エルフの開拓地へ」
目の前に広がったのは、おそらくこの人工衛星の内部。所々破損が見えるがそんな破損箇所を覆うように植物や木の根が密集していた。
ここは一応ノアの船外になる。そんな場所、この広い空間によく大量の空気を保持できるなと感心している。
見れば恐らく、ノアとこの人工衛星の継ぎ目になる部分を特殊な植物で塞いでいるらしい。
開拓地と言うだけあってかなりの魔改造っぷり。居住区も兼ねているため、一般人らしきエルフの姿もちょくちょく見えた。
…
監視が多い。後方に5人、右に3人、左に4人、住民に紛れるようにこちらを伺うエルフが12人、進行方向にもかなりの数の監視、あるいは武装したエルフがこちらを悟られぬように見ている。
なぜわかるのかと言うと、今現在視界には私たちを少し上から見下ろす形でビュアのカメラを忍ばせている。ナユカでも見えない不可視の弾幕が常に私たちに張り付き、その映像を提供してくれていた。
ちなみに、ナユカ、ヒイロ、ウルドには見えていない。ギビンにも見えていないはずだが、もしかしたらビュアの動画を自分で見つけ出して見ているのかもしれない。たまに監視がいる方にふらっと視線が泳いでいるのだ。
この勇者(仮)は謙虚に見えてかなり冷静に現状を捉えているらしい。
『気付いてそうだから言っとくけど、下手に目線は動かさないように〜。こちらが気付いていることを悟られない方が有利に話が進められるからね〜』
『気を付けてはいたんですけど…、わかりました見ないようにしときます』
とりあえず確認の意味も込めて〔念話〕で忠告しておく。
ふむ。案外素直ですぐに自然体になった。
思い返して見てもこの勇者候補は一応それなりの実力はあるらしい。まだ個人的な戦闘は見ていないが、戦闘機の操縦もなかなかのもので、咄嗟に機転を利かせてくれた場面もあった。私の中ではナユカと少し距離の近いウルドより好印象。何かあったらできそうなことは任せてもいいかもしれない。
「エルフって総人口どれくらいいるの〜?」
「大雑把に5000人といった所でしょうか」
当たり障りのない質問をしつつ私たちはどんどん奥地へ進んでいく。ここまで来ると流石に雰囲気も代わり植物より周りに元からある機械の方が多くなった。
「この先に苗木があります。ですがその前に忠告を、あたりの壁や機械には決して触れないようにお願いします。というのも、万が一破損した場合この空間そのものの気圧が急変し、最悪吹き飛ばされて死んでしまうかも知れません。くれぐれも気をつけてください」
私は別に詳しいわけじゃない。むしろこういうのはミカの分野。
『何か分かった〜?』
『動画で見てたが、こりゃぁ…作りかけの宇宙都市、その中心制御装置じゃないか?初めて見たから初めは分からなかったが、貯水槽、資源庫、それらを制御する組み立てテレポーターシステムに、今ユキ達がいるのは重力制御装置の付近だと思うぜ。ただかなり損壊が酷くてな…ほんとに壁には触れるなよ?下手に静電気でも発生させようもんなら、どこかのハッチが誤作動で開いて水がなだれ込んで来たり、最悪の場合その人工衛星そのものが真ん中から分離するかもしれねーぜ?』
うん。ほんとにそうなったら間違いなく護衛クエスト失敗だし、なんならエルフと敵対的になりかねないのでやめておこう。
『それで〜、この緑の光には何がありそう〜?』
この質問の何?とは人工衛星の施設的な物だ。苗木がわざわざこんな奥深く、人工衛星の中央付近に意味もなくあるはずがない。
『おそらく大気制御システムじゃないか?未稼働っぽいが一部の機能はうごいている。だからその空間には空気があって、必要最低限の暮らしはできているんだと思うぜ?』
『なるほど〜、そこに苗木を植えた意味にもなるし〜確かに警戒もするよね〜』
そしてミカの予想は的中する。少し開けた場所、ハッチを開けたミザール艦長の先には中央に力無く今にも枯れそうな苗木と、大きな機械の周りにたくさんの植物が植えられたドームが存在していた。
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