「つまり私たちの行動は全部。どこに、誰が、何人、どうして、何をする。全て筒抜けだったということですか?」
ビュアが打ち明けた情報はアインズ率いる街のプレイヤー達にとって不明点の多かった「鼠」について。
その内容が我々の行動に影響すると判断したセリエルは緊急の要件とだけ伝えアインズのリンに連絡をとった。結果、何も知らないリンとダイチは会ってすぐにパーティー申請が飛んできたことに少し疑問を抱く。さらにパーティーに参加するや否や即座に「姿隠しのカプセル」を使う周到っぷり。ダイチは何か感じ取ったのか。唯一この場で知らないプレイヤー。ビュアから視線を外さずその所作を観察した。
(…あの格好。何処かで?)
「はい。確かに私が確認した限り、1人に一匹。重要なプレイヤーには複数個体確認しました。私が消えた時にかなり焦って出てきた子鼠が「ボスに怒られるチュ〜…」と可愛い声で嘆いていましたね。こちらがその動画です」
ビュアから送られてきた動画。確かにそうつぶやく鼠。その他にもビュアの視点がプレイヤーの後ろに隠れながらついて行く鼠を捉えていた。
良く考えれば「プレイヤーをストーカーする鼠を見つけたストーカー」というかなり特殊な構図の出来上がりである。
「では、私のことを盗撮していた時の映像にも?」
「はい。かなり多くの鼠が着いていたのでカメラを回しました」
そうして差し出された動画。そこには確かにセリエルとその周りに上手く隠れている鼠が4匹写りこんでいた。
「な、なるほど…。盗撮は気づけたのですがね…。鼠がいるとは。気づけませんでしたね」
そうセリエルはなんとも言えない表情だ。それもそのはずである。ストーカー+ストーカーにストーキングされれば誰でも引く。
「それを踏まえた上で聞いて欲しい会話内容をお見せします」
さらにビュアはこれからが本題と言わんばかりの表情。そのまま3人に動画を共有した。
"
そこに映るのは10匹の子鼠。その子鼠達は街の近くの茂み。その少し見つかりにくい木々の生い茂ったジャンルの入口付近に井戸端会議がごとく寄り添って集まっていた。
「何かあったー?」
「こちら問題なし!」
「なしー!」
「コケたー!」
「強いの見つけた!」
「怖い猫とプレイヤーが2人戦闘はじめたよー!」
「それはどこでチュ?」
「湖のー」
「ちゃんと誘導したでチュ〜」
「ちなみにどうやって?」
「近くにいた猫とプレイヤーぶつけてたー!」
「木も倒したり〜」
「けものみちつくったよー」
「木の実落としてみた!」
「火だるま猫が近くにいたー!」
「鳥は?」
「湖の近くには小さいのしか居ないー!」
「あ、デカ雀は木の上!」
「プレイヤーの街はー?」
「日が登ったぐらいに鶏鳴くポイ」
「じゃあ、すき見て資源避難させるー?」
「ボスに聞いて」
「了解ー!」
「どこ置くー?」
「んー、猫のいる方向?」
「いない方が良さそー」
「じゃあ埋めちゃうー?」
「見つけて貰えないんじゃないー?」
「あー!そうかー!」
「あの木の実意味無くない?」
「美味しそうでちゅ!」
"
各々が好きに話し出すせいか、回答も質問も会話の順番もバラバラで解読に少し苦戦する。
がしかしこの中の会話内容に見逃せないワードもがあるのも事実だ。
「資源…、それに湖の猫…」
「…たぶん…それ」
「ええ、この一連の騒動の裏側にはこの子達がかなり深く関わっているようですね…」
「つまり、私達の資源は盗られたのではなく。避難させられていた。湖にハルトやアリアが向かったのも色んな工作がそうさせた…と」
「まだ少し情報が足りませんね…」
動画を何度も繰り返し再生しながら話し合う3人。
「その湖については私は知らないですね。革命者の2人が何かしたのです?」
3人の会話の中に知らない情報があったのでさりげなくビュアが聞き出した。
「…。リンさん。彼女には情報提供してもいいのでは?」
セリエルは一応、リンに確認を迫る。リン思うところがあるのか。少し考えたあと。
「ええ、全て提供してあげてください。…それとビュアさん。あなたと我々で情報交換を継続して頂けませんか?我々は数で、あなたはその目とカメラで。それぞれ互いの情報を更新して行けたら…。このイベントについて何か分かるかもしれません。…お願いします」
そう言って頭を下げるリン。流石に頭を下げてまで頼まれるとは思っていなかったのか。一瞬焦ったビュア。
「い、いえいえ!こちらとしてもありがたいことです!ぜひそうしましょう」
願ってもない申し出に即座にイエスを出すのだった。
「あ、あと皆さんの動画。イベント中のものだけ投稿とかしてもいいですか?」
案外抜け目のないストーカーである。
この後、一応動画投稿は許可を貰え、鼠などの広げるとまずい情報以外の広告塔としての役割を担うようになる。
かくしてビュアは少しだけ有名になったのだった。
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