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初心者がゲームの常識をひっくり返す...無自覚に?
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D,S(diamond)

300  機械の島

公開日時: 2023年4月15日(土) 22:13
文字数:2,440



「とりあえず誘導は成功したかの…」


 そこは暗い部屋の中。複数のモニターの前に居座る一匹の鼠が画面を見ながら呟いた。

 この時代からしたらかなりレトロなものである4Kと書かれた画面はかなり鮮明に様々な場所を映し出している。


 そこにはどこだか分からないような木々の生い茂る場所や小さな浮島の見えるもの。更にはプレイヤー達が作り上げ、先程倒壊した街の様子などもあった。



 そんな場所にどこからともなく小さな鼠達がひょこひょこっと現れる。


「ご苦労さま。ちゃんと誘導してきてくれて助かった」


「うん!」

「上手く運んどいた!」

「ちょうどいいいちー!」

「遠すぎずー!」

「近すぎずー!」


 なかなかに賑やかな小さき鼠達。その様子を見て満足したのか。大きな鼠はその中でも一際小さな個体に目を向けた。


「どうだった?初仕事」


「チュー…」


 目を向けられたのが怖かったのか、その中で一番若い子体であるその鼠は目を背けるように落ち込んでしまった。


「ん?何かあったのかい?」


「人に姿見られた…かもでチュ…」


 仕事中、見つからないように、という指示を受けたがミスを侵したのか。人に姿を見られてしまったらしい。


「アッハッハ!別にいいさ。初仕事だろう?別にミスなんてしょっちゅう起こるものさ。私だってこないだミスしたとこさ」


「そうそう!」

「こないだ猫に見つかった!」

「階段から転けた!」

「寝坊したぁ!」


 そんなミスを笑い飛ばした大きな鼠とわらわらと自分のミスを羅列しミス自慢大会を開催し始める子分達。そんな様子を大きな鼠は微笑ましそうに眺めながら言い放つ。


「ほらね?この子達もミスのオンパレードさ。私達にとって一番の失敗をしない限り、私は怒ったりしないよ。なんだかわかるね?」



「ボスの元に帰って来ないことでチュ」


 その小さな鼠はそこだけ即答し自信なさそうだった先程と違いしっかりと言い切った。



「そう。私の元に何がなんでも帰ってくること。そのためなら仕事や命令にも刃向かっていい。私達は本当にか弱い生き物だ…。だから絶対に生きて帰ってきて欲しい」


「肝に銘じておくでチュ!」



 鼠は戦わない。







 それは鼠が簡単に消し飛ぶほど弱いから。






 いくら優れたスキルが有ろうとも、いくら優れた戦闘能力が有ろうとも。





 彼らは攻撃が当たれば死ぬのだから。





 だからそもそも戦闘を極力避けるために姿を見せない。見られないために情報を集める。見つかっても最優先で逃げる。


 情報は武器となり、いつか大きな障害すらも倒すほどの威力となると信じて。





*






「「「えーー!!」」」


「…みみがぁーー!」



 ここはコメット内部、3人からの驚愕な声はナユカの耳を破壊仕掛けていた。


「じゃあなんですか!?もしかして街の襲撃が起きたのはユキさんのせいですか!?」


「人聞き悪いな〜。タイミングが噛み合っただけだよ〜」


「いやいやいや!そこじゃない!!私たちよりも前にニワトリとやり合ってたんですか!?というかなんで!!」


「ん。クリスタル…。3つ目が…ユキ?」



 ユキの「そういえばニワトリと初めて会ったのはこのタイミングだったね〜」という言葉。私にイベントの内容を少しづつ伝えてきた4人の内3人がその言葉に待ったをかけた。

 聞けばヒカリさんとアキアカネさんのニワトリさんとの初コンタクトはイベント5日目であったらしく、その2日前に誰にも知らされずにエンカウントを済ませていたらしい。



「じゃ、じゃあ!鳥の試練クリアしてたんですか!?」


「ん?私は「鳥目覚めその欠片を夢見る」…だったかな?クエスト」


「ん。知らない」



「鳥目覚め…。ちなみにコケコッコーと鳴いたのも?」


「うん。耳が死んだかと思った〜」



 もしかしてあの時の鳴き声もユキの仕業なのでは?そう脳裏をよぎったらしいビュアさん。その予測は見事的中したみたい。

 聞いてて思った。ユキ…。全然ひとりで大衆を置いて行ってない?なんか協力型イベントって聞いてたし、みんなまとまって動いてるような感じするのにリリースのみんなはそこまで団体行動してないような…。



「クリスタルはもうないんだけどね〜」



「「「…。はあっ!?!?」」」


 耳に追撃が入った。



「ちょっ!どういうことですか!?あれ貴重品なんですよ!!?」


「ん。何に使った?」


「気になりますね?」


 つまり、ヒカリさんとアキアカネさんがめちゃくちゃ大事にしてるあのクリスタルはもう使用済み。ユキは一体誰に使ったのかってことだよね。



「ナユカだけど?」


「?」


 あれ、私そんな急に転送されたりしたことあったっけ?


「本人自覚ないみたいですよ?」


「私呼ばれた覚えないよ?」


 クリスタルは使用したら消えてなくなる消費形アイテム。そして使えばログイン中の好きなプレイヤーを1人だけ自身の元に強制転送する。唯一入手出来る方法はイベントのみ。そしてそれはゲーム内で3つしか存在しない。「強制召喚クリスタル」。



「あ〜、アイテムとしては使ってないね〜」


「?」


 増々分からない。アイテムとして使い道があるのだろうか?インテリアとか?なんか貴重なアイテムとか使いづらいしそれなら無いも頷け…る?



「ほら、ナユカはちゃんとゲーム内で身に付けてるよ〜?」


「ん?ゲーム内で?身につける?」



「…、なるほど…。どこからそんな効果を引き出したのかかなり疑問でしたが…。[HP全損する攻撃を1回だけナユカと攻撃側で半分に分ける]でしたか?」



「せいか〜い!あの狐のお面!「不死魏なお面」の素材として使ったよ〜」


「「えー!?」」


「なるほど…」



 私のあのお面!そんな高価なもの使ってたの!?

 いや確かに高価なものも色々使ってハルトさんと全力で作ったとか言ってたような?あれ?じゃあハルトさん知ってたんじゃ?



『皆さん。そろそろ天王星圏に着きますよ』



「よし!じゃあ続きは次のコメットで話そうか〜」


「おふたりとも、ライブには慣れました?」


「まあ、そこそこ?」


「それなりにね〜。回数こなしてきたし〜」






 私たちのライブツアーは天王星へ。もう太陽もかなり小さい。今日もドタバタしながらだけどしっかり歌いきろうと思う。





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