私たちはできるだけ早く闘技場に近づきたい。まだ見えぬ敵は私たちを闘技場には近づけたくはない。
もちろん私たちを妨害するため、モンスターがどんどん密度を増やしていく。
「くっ!」
私とユキはできるだけ速やかに邪魔なモンスターを排除していくが、それでもだんだんスピードが落ちているのは確かだ。
『ナユカ!MPは後どれくらい?』
『何とか半分!』
ユキはその回答に危機感を抱いたのか、進みながら飛んできた怪鳥をタガーで切り落としながら考えるという、マルチタスクを披露している。
意外とユキは余裕そうだね?
『…。よし!トレインしよう!』
『トレ…?なに?』
そして何かを諦めたのか、吹っ切れたようにいい笑顔でそう言い放った。
『ナユカ〜。これからはもうモンスターがいてもそのまま直進するよ~』
『えっ!?もっと消費が激しくなるよ!!?』
モンスターと出来るだけ戦わないように進んでいた私たちだが、モンスターと戦うということはそれだけ、MPやSPを消費が増えるということだ。
そんなことしたら闘技場にたどり着けるかいよいよ怪しくなってくる。
『いや、戦闘はしないよ〜。全ての攻撃を回避してモンスターを素通りしていくよ〜』
『あ〜、なるほど!戦わなきゃいいのか』
『その代わりもう止まれないよ〜?後ろはモンスターが大量に着いてきてるかもだからね〜』
『でもこのままだと時間かかるからそうしようか!』
『被弾しないようにね〜』
『了解!』
途端に今まで迂回していたモンスターを真正面から堂々と直進しだした私たち。もちろん、そんな目立つことをしていればモンスター達も私たちに気づくわけで…。そんな私たちを迎え撃たんと攻撃体勢になる。
グギャ!
グガァァァーーー!!
そんなモンスター達の攻撃を、私とユキは難なく躱し、そのまま無視して通り過ぎていく。
唯一、めちゃくちゃ難易度高かった避けゲーをクリアした2人、並大抵の攻撃なら2人とも御茶の子さいさいだよ!ありがとうワンライフ!!!
『強制的にイベントが更新されました。モンスターが来ます!』
途端に入ってくるナビィからの警告。直後、私たちの進行方向に煌めく一筋の流れ星…。訂正。一筋じゃねーわ。
大量に降り注ぐ流れ星。あれって…。
『モンスター爆弾ってやつだよね〜?』
『だよねー?』
敵もどうやら私たちと同じように作戦を変更しているらしく。その影響はすぐにやってくる。
クキャーーー!
ワオォーーーン!!
現れるモンスターに変化がではじめていた。
『ナユカ!!真上からの奇襲に気を付けて!!』
『了解!っっ!!早速来たー!?』
私目掛けて高速で落下、その鋭いくちばしで貫かんと、ミサイルのように降って来る!鳥型モンスターの群れ。
さらに…。
「わっ!!?」
咄嗟に進行方向から飛んできたオオカミを〔ジャンプ〕で回避することに成功した私だが、オオカミの動きは素早くすぐに追撃がやってくる。
くそーー!MP節約したいのに!!
〔ジャンプ〕を使ってなんとか回避しているが、それとは別に鳥のモンスターも体勢を建て直して再度前方から突っ込んで来る。
『ナユカ〜!!囲まれる前にここから抜けるよ!5秒後にしゃがんで!!』
『5っ!?』
ちょっと!?いきなりそんな!5秒!!ふん!!
咄嗟に着陸&そのまま姿勢を低くして!!
「5秒!「アイスウィンドカッタ〜」!!」
ジャスト5秒で私のすぐ上を通って行く冷気…。私を狙っていたモンスターが一瞬で凍り付く!
『行くよ〜!!』
『うん!!』
私たちが再び進み出し、色んなところからオオカミやらモンスターの鳴き声や遠吠えが聞こえてくる。
しつこいなー!!
ユキも私も、次々に邪魔してくるモンスターをこれでもかと回避しながらどんどん進んで、やっとの思い出亀裂が大きく入っていた場所の真横にたどり着いた。
ここから今度は、北西に進んでいたのを北東に進む。
『半分!!』
『まだまだ気を抜いたらダメだよ〜?』
『うん』
MPは半分と少しを消費。SPも3分の1ほどが消え、いつものように回復の効果は無い。
この状況下でいちばんきついのは、ユキの〔妖力〕も、私の〔魅力〕も、ほとんど効果をなさないところだ。
だって、私とユキ以外のプレイヤーがいないから、CPの数値は上がらないし、WPも上がらず、イメージによる威力上昇がつかない。
状況だけなら最悪である。唯一、リニアで消費していたはずのEPは何故か回復していたのでラッキーなのだが、私もユキもそもそも〔電力〕をほとんど使う攻撃手段がないため持て余していた。
『?…。プレイヤー?』
『ん?どうしたのユキ』
そんなさなかユキの〔索敵〕に何か反応があったのか、いきなり速度を落としながら〔地図〕を注視している。
『前からプレイヤーのマークが近づいてくる…』
『プレイヤーは私たちしかいないんじゃ?』
『最大限警戒しててね?敵本体かも〜』
『了解』
そんな私たちの警戒をよそにどんどん近づいてくるプレイヤーアイコン。
そしてついに私たちはそれを自らの目でとらえてしまう。
真っ黒な人型の何かを。
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