*>>三人称視点
「お待たせしました」
「いえいえ、とても重要な話ですし、何よりリリースの新メンバーの情報を私共もいただけるのです」
ここはマスターが経営する(たぶん)カフェのVIP席。主に著名人の秘密の密会部屋として使われるこの場所。なお、こんな部屋がカフェにあるのは完全にマスターの趣味なのだが、何かと便利のいい部屋であることは間違いなく、CSFはよくここを利用する。
そもそもマスターがインフォメーションコーポの所属なのだからそのトップであるセリエルとリリースのビュアが来たとなれば顔パスで通される。
「どうせなら、ナユカさんにつけたカメラの映像でも見ながら話し合いと行きましょうか」
「ありがとうございます。何しでかすか分かりませんからね」
2人ともうんうんと頷きながら、ビュアが出したフォログラムウィンドウを覗き込む。
2人とも自分の視界上に表示していた映像だが、お互い見てるよね?と察してこの形になったようだ。
ビュアはそもそも見てないわけが無い。
セリエルも情報ギルドがナユカをマークしてないわけが無い。
建前上、セリエルが提案することも、そしてそれを察してくれたセリエルに礼を告げたビュアも。
ここにいるのは、今1番リリースの情報を管理しているビュアとRBGの情報を1番保持しているであろう人物。
同盟同士、仲はいいがお互い油断ならない。そう判断しているのだ。昔、2人はスカイスクランブルイベントで手を組んだことがある。その時の手腕もお互いが評価していた。
あの頃から比べたらお互い発言力を持ったものだとセリエルは心の中で思う。
「注文は?」
扉をノックして現れたマスターが注文を取りに来る。渡されたメニュー表は分厚く後半はそもそも食べ物ですらない。
「コーヒーを1つ」
「私は紅茶で」
「あいよ」
そんなメニューを開くことも無く2人はあっさり注文を終え、マスターが扉を閉めたのを見計らって口を開く。
「では…。情報提供と動画で公開していい範囲の相談でしたよね?」
「はい。今回相談したい情報。それとそれに関係する情報も出来れば仕入れておきたい。と思いまして」
ビュアは真剣な表情。方やセリエルは大人の余裕を感じさせる落ち着き具合。
「わかりました。では具体的にどんな情報の取扱についてのご相談なのでしょう?」
「RBGのワールドストーリーについて」
「ほう」
ビュアを見るセリエルの目が細められ、すぐに優しげな営業スマイルへと転じる。
「私供もその存在はほぼ未公開なのですが、どこで入手…いえ、リリースだからでしょうか?」
「そうですね。明らかにワールドストーリーの存在が示唆されたので。インフォメーションコーポなら知ってるだろう。あるいは考察から予測できているのではと」
「情報提供して欲しいと?」
「はい」
しばしの沈黙、ここで再びノックが部屋に響く。マスターが現れ何も言わずにコーヒーと紅茶を置いて部屋から退出して行った。
「まあ、情報提供というより、情報交換が正解かもしれませんね…」
「もちろん、こちらからも予測や推測混じりになりますが」
「では、そうしましょう。我々もほぼ推測の領域です。RBGのストーリー。そしてその行き着く先、起こること。どこまで把握していますか?」
「ニワタリ。ギルバート。そして私の知る中でネズミ、ネコ、オオカミ…ここではイヌと呼んだ方がいいでしょう。それら全てがプレイヤーがこのゲームを始める前から存在し、それぞれの派閥を持っていること。おそらくこれらが少なくとも今後ストーリーに絡んで来ることでしょうか」
「でしょうね。我々もその結論に至っています」
「ヒカリによるとニワタリが「鳥」ではなく「酉」と表記されというのも、この文字を見てパッと思いつくものと言えばそう多くない」
「十二支。我々も各ギルド員にモンスターの分布や隕石…モンスターミサイルにより召喚されたモノを場所で見ると判明した仮説。太陽系の一部に12種のテリトリーが存在するということ。そしてその枠に当てはまらないモンスターが、酷く我々プレイヤーと来訪者に好戦的であること。そしてそもそも来訪者はどこから来たのか」
「ワールドクエストはそのまま、ワールドストーリーに関わる重要なクエストかと思いますがこれにもいくつか不明点があります」
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【ワールドクエスト】「来訪者」:クリア
「来訪者」を救い。協力関係を構築する。
その後■■■を倒し、彼らを新たな星へ送り出す。
勝利条件 「来訪者」の旅立ち。or帰郷。
敗北条件 各惑星。衛星の敗北。来訪者の全滅
クリア状況:測定不能。
マザーへ報告。
回答。
ゲームシナリオの破棄を開始。 ゲームシナリオの再構築を開始。
「協力」から「共生」へ。
ワールドクエスト「???の??」を破棄。
ワールドクエスト「共生社会の構築」を作成。
勝利報酬:???、???、???、???。
を破棄。
報酬変更→「共生関係構築」
備考:彼らに決して屈してはならない。
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ナユカが選んだ選択肢は本来本筋とは異なったシナリオへと転じている。
果たして本来ならどうストーリーが進んでいたのか。そして大筋すら変わるストーリーを我々プレイヤーがどうにかできるものなのか。
「変わらないもの。変わったもの。良くも悪くもあのクエストクリアは今後のRBGのストーリーに大きな影響を及ぼしているでしょう。本来なら元いた場所に帰ることを目標とするはずが、当の来訪者はこのままここに居座ることを選び、我々プレイヤーもそれを良しとしました。ゲームシステムは来訪者を正式にプレイヤーとほぼ同一にし、死という概念すら超えて見せた」
「本来私たちが協力して倒す何かを全てガン無視して閉まっているようではあります。争いが無いに越したことはありませんが、未だにモンスターミサイルは観測されているのですよね?」
本筋が変われど敵が居なくなった訳では無い。現にモンスターミサイルは現在も色んな場所で観測されている。
「ミカさんのおかげで我々は宇宙も移動可能になったのです。もしかしたらゲーム内で来訪者の故郷へこちらから行けば…」
「やはり…来訪者がキーですね。でもそうなると十二支は…」
「十二支もそうですが…、スカイスクランブルも何か関係があると思ってるのですがね…。猫は十二支…だった地域もありますがこれは標準語基準では含まれないはずです」
十二支とは、
「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」
の12種でありそれぞれ動物が当てはめられている。
「鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪」
が対応している。
酉は鶏、ニワタリ。
辰は龍、ギルバート。
しかし猫は?モンスターミサイルで来るモンスターにも種類はあるがその殆どがゴブリンだったりする。これらはこの十二支には当てはまらない。
つまり結局予測でしかない。ビュアもセリエルも確証は得られていないのだ。
「話していたら…またナユカさんが」
「話題に尽きませんね」
ちょうどナユカたちが追いかけっこを始め、そちらに視線を向ければ…
「「あ…」」
壁に激突したウルドをカメラが捉えた。
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