「これはなかなか…」
「ん。豪華客船」
『これ「コメット」の内装初公開じゃね?』
『めちゃくちゃ豪華…』
『内装えぐ!?』
うん、わたしもね?この無駄に豪華なのに精錬されているという矛盾だらけの光景を見て絶賛ビビってるよ…。
「さすがだな。我々のために「コメット」を引っ張って来たと聞いた時は驚いたが、ありとあらゆるものが最新鋭。装飾品に関しても有名人のものばかり」
「これとか、なかなか見応えありますよー。あとここにある施設。お家に欲しいわー」
私たちの後ろから入ってきたパパとママ。なんか2人が別世界の住人に見えてきたんだけど気のせいか?
「我々としましては、この位はしないと面子が保てませんから」
そんなことを言う因幡さんもたぶん感覚がズレている。そうであって欲しい。
「コメット」の中は、そこそこ広く、それこそ豪華客船のような施設になっていた。
「お待ちしておりました」
そして、船内には少し細身な女性が1人。あれ?どこかで最近見た事あるような…。
「あ!!マザー!」
「はい。マザーです。先日はありがとうございました」
マザーはRBG統括管理AIであり、今回の1番の被害者とも言える。そんなマザーは現在、その騒動の後始末や、イベントの調整などでとても忙しいと聞いていたのだが…。なんでここに?
「今回のツアーは、太陽系全体のサービスエリア拡大も含まれていますからね。そのための同行でもあります」
「あ、なるほ…ど?」
確かに、サービスエリアを拡大するからそれに伴う動作確認やら、システムが正常に稼働してるのか?とか、確かめる必要はあるけど…。マザーじゃなくてもいいんじゃない?他にももっと重要な仕事あるでしょ?
私のそんな考えはガン無視で、マザーはさも当たり前のようにユキ達を席に進める。
席と言ってもそこら辺のリニアのような均等に並んだものではなく、どこのスイートホテルだと言いたいくらいな。広々空間にある一室だけど。
『姫も早く座ってください』
「ちゃっかりナビィもいるのね…」
『もちろん。姫様あるところにナビィ有りです』
「プライベートという言葉をご存知で?」
『王族にそんなものがあるとお思いで?』
なんか、私が負けた気がするのは気のせいか?いや、確かに王族とか偉い人には無さそうだね…。納得できない!
「那由花ー。無いわよー」
「グハッ!お、思わぬところから致命傷を負った…」
「私も昔からお母様に過保護に育てられた自信があるからねー。今は一応、那由花にはそれなりの自由をあげてるつもりよー?」
故郷でのママの暮らしねー…。気になるけど…。これ聞いちゃうとなんか私のプライベートと言うワードに深刻なエラーが生じてしまいそうなのでやめておく。
たぶん、とんでもなく息苦しそう。姫として生きること。将来の女王としての教育。勉強。はるか昔の人間みたいに、机に張り付くのはしんどそうだ。
ママ達とユキたちの座るソファーに腰掛ける。するとどこからともなく取り出したのか、マザーがティーカップに紅茶を注ぎ始めた。あ、ほのかにいい香りが…。たぶん、めっちゃ高い。
お金が必要無い時代だけど。それでも金銭取引が生じる場合もある。それは、ほかの人達には無い。特別なものを用意する時など、多岐に渡るけど。この高級茶葉も入手するのに、そんなお金を使うんだろうなぁ。ちなみに、金銭は全て$です。
それから少し、私たちはティータイムを過ごしていると、マザーはおもむろに窓に近づき手をかざした。
すると、一瞬にしてあたりの景色が写り始める。気がつくとコメットは港の停泊場所から移動しており、飛び立つための発着場に移動してきていた。
「これより当機「コメット」は離陸致します。目的地は火星宇宙港ファストステップです。所要時間は惑星間航行で2時間になります。どうぞ快適な宙の旅をお楽しみください」
生声キャビンアテンダントならぬ。間近生声マザーアテンダントによるご案内を受け、その窓から当たりを見回す。
発着場には私たちの他に、先程まで同じ港に泊まっていた艦が飛び立とうと、船尾の部分を光らせていた。たぶん、コメットも後ろが光っているのではなかろうか。
『やべぇ。艦隊じゃん!』
『発着場これ。この時間帯貸し切ってない?』
『この発進形式はっ!?』
『えっ!!この時間の発着スケジュールが全部避けられてる!』
『遠目から見てるけど、かなり目立つな』
コメントもなかなか賑やかだね?
「それでは少し、サービス致しましょうか?」
「「ん?」」
マザーはそんなことを言いながら、私たちの前で大量のフォログラムを展開する。
「リリースの皆さんはこちらへ。操作方法を音声認証で、スタンバイ」
呼ばれたみんなはなんだなんだとマザーによっていく。もちろんその中にはビュアさんも含まれるわけで、ビュアさんが近付くということは、カメラも必然的にフォログラムを移し始める。
『な!?』
『なんじゃこりゃ!!』
騒ぐコメントは気にせず、マザーはさらに進めた。
「それでは離陸を開始致しましょう。発着場01起動」
《スタンバイ》
マザーの言葉に反応し、どこからともなく声が…。
そのままマザーは、すぃーっと!ひとつのフォログラムを移動させながら、さらに言葉を紡ぎ出す。
「陣形確認」
《確認完了》
「滑走路を生成」
《滑走路生成完了》
途端に発着場が一瞬光る。
「各艦陣形移動を開始」
《実行開始》
そして、いきなり全ての艦が、半透明な何かに持ち上げられ、そのまま移動を開始する。
「進路表示。対象コメット乗員と、ビュア様所有のカメラモジュール画像」
《表示します》
途端に視界に映る点線は、そのまま私たちの進行方向に伸びていく。そして、陣形移動も完了した。
《陣形移動完了》
「初速加速度固定。ビフォアテイクオフチェックリスト」
《完了。ビフォアテイクオフチェックリスト・コンプリート》
ここまで来て、マザーが私たちの方へ振り返った。
「さて、誰が号令かけますか?」
「ナユカで〜」
「ですね」
「ん」
「異議なし!」
「なんでぇ!!?号令ってなんて言えばいいのっ!?」
「大丈夫です。なんでもいいので」
なんでもいいって…。乾杯とかのノリじゃダメでしょうに。
「号令権限を那由花様に付与」
《認識完了。号令スタンバイ》
「ではどうぞ」
なんかほんとに私がやる流れになってるんですけどど!!あーもう!号令!えーと、何にしよう!?
「太陽系1周ツアーに!しゅっぱーつ!!」
《発艦!》
私の号令と同時。コメットを中心に、この艦隊は宙へと高速で飛び立った。
『何がやべぇって?全部だよ!!』
『この艦隊発進外から見たかった!!』
『お、おい!!公式から艦隊発進映像出てるぞ!!』
『ナユカちゃんの号令やその他諸々の音声込だ!!』
『うぉーーー!』
『やべぇーーー!!!』
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