何とか車に乗った私たち。あの後、めちゃくちゃ警備が厳しくなったけど、別に襲われるなんてことも無く、無事に車に乗った。いや、何かあっても困るし、そんな再々襲われるのは嫌なんだけども。

　そんなこんなで、私たちはそのまま火星の都市を眺めながら、今回のツアー最初のステージである。火星都市アリンのイベントスタジアムへ向かって行く。遠目から見ても大きなスタジアム…。なんだけど、アリン闘技場はここらしい。見た目もほとんど変わらないんだとか。

　もう、闘技場じゃなくてスタジアムでいいんじゃない？

　ということで、我らが故郷、地球の中央闘技場と違い、現実にもスタジアムがある珍しいタイプだ。そして、第一回目のライブがここになった理由でもある。

　到着した私達は、車を降りスタジアムに入る。明日が本番なので今日は会場視察と、リハーサルや打ち合わせだ。

　スタジアムのチケットは既に完売らしく、他の惑星圏も同様にチケットが飛ぶように売れたおかげで、RBGとしては良かったのかな？

　こういうプレミアムがつくサービスなどは、今でも金銭で購入するため、お金という概念が無くならない要因となっている。まあ、あった方が色々社会が回るようにできているとは、ママが前に言っていた。

　ちなみに、車の中で一旦ビュアさんの配信は終了してもらっている。なかなかの数字にビュアさんは機嫌がいいのか、終始笑顔だ。「次は…」とか、「ナユカさんにはこれを…」とか言ってるのがなんか不安要素ではあるけれど…。

「結構でかいステージだね？」

「まあ、ナユカが結構アクティブに動くから〜。結構いいモデルのステージだよ〜」

「なるほど」

　ステージは既に現実側で組み立ててあった。とても大きく取られている。ステージと言っても昔みたいなゴテゴテした照明なんかはない。普通のアイドルとかでも最近は立体フォログラムや、古くてもドローンでステージに彩りを加える。たまーに、わざわざ大昔の機材をフォログラムで再現したりするらしい。たまに需要があるんだとか。

　アイドルとしては初心者の中の初心者なので、色々知って勉強になる。

　私とゆきがRBGのアイドルとして活動しだしてからは、ちゃんとダンスや、ボイスレッスンは受けている。それにRBGは演出も私たち次第なため、どう言ったものが綺麗に見えるのか。魅せられるのかといったことも勉強しなくてはならなかった。

　でも、その甲斐あってRBGで〔魅力〕を使う時の力になるので、嫌にはならない。ゆきは元々体を動かすことは得意らしく、ダンスなんかはめちゃくちゃ飲み込みが早かった。私は逆にほとんどインドアしてたので苦労した。

　今回のライブは私たちが弾幕で演出も担当するので、外からの追加演出はない。

「控え室に案内致します。どうぞこちらへ。そちらでログインしてください」

　因幡さんが案内してくれた控え室も、元々そう言っとアイドルや、有名人用の部屋として、元々あったものなのだが、なかなか広いし、色んなものが取り揃えてあった。あ、もものジュース！後で頂こう！

「それでは私は色々こっちで見ておきますね」

　私、ゆき、ヒカリさん、アキアカネさんがログインして色々している間。ビュアさんは控え室から出て、スタジアムを見て回るらしい。確かに、半公式プレイヤーじゃないビュアさんが、リハーサルを見ちゃうのはあまり宜しくないのでビュアさんが気を利かせてくれたのであろう。まあ、配信しながら散策するかもだけど。

モゾモゾ

　ログインするためにベットに横たわる。私たちがログインの時に、体を寝かせて置く用のベットを控え室に入れてくれたらしく、奥の部屋に4つ準備してあったのだが…。

「ゆき？あっちにゆきのベットあるでしょう？」

　さも当たり前のように私のベットに寝そべるゆき。「？」じゃないよ。空調効いてるから暑くはないからいいんだけども。

「ナユカの隣は譲らん！」

「誰も盗らないって」

　そのままログインしていくゆき。私の話を全く聞いてないね…。

　仕方ないのでそのまま私もログインしていった。

*

　ナユカ達は知らない。自分たちがするこのライブツアーが、太陽系全体を動かしていることに。

　そして、その注目はとんでもないほどに膨れ上がっていたことに。

　先の戦争で地球が受けた被害は少なくない。もちろん、ナユカ達のおかげで相当被害を免れたのも事実であるが、そんな危機的状況に、今度は地球ではなくその他の都市、惑星が巻き込まれるのではないかと、人々の不安も高まっていた。

　そんな不安は人々の動きを止める要因になってしまう。まさかの事態、地球と同じように、或いは今度はもっと直接的な攻撃が飛んでくるかもしれないと、人々の心の余裕を不安で埋めてしまう。

　そうなると、社会は停滞し、色んなところで影響を受けてしまう。那由花達以外のアイドルや、イベントなどは特に人を呼び込めなくなる。それとは逆に、配達業界や生産工場などは忙しくなるため、ポータルなどの稼働率が急激に上がったりと、少なくない影響が、既に出ていた。

　が、そんな中で、その戦争の引き金にもなったゲーム「RBG」。その中で戦ったナユカ達が、太陽系一周ライブツアーとして各地を飛び回ることには意味がある。

　よくも、悪くも。彼女達プレイヤーは世間から注目を集めていた。