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"305"  夜風静まる鐘の音

公開日時: 2023年5月17日(水) 02:43
文字数:2,243



「なぁー…。流石に何も無いと暇やん?なんか面白いこと言ってや」


「先輩無茶振りっスね!?」


「だってそうやろ?あたりは真っ暗。どこ見ても木しかあらへんのやで?そこから出てくるかもしれへんモンスターの見張りって言っても来るかどうかも怪しいのに」


「その代わり特注の装備作って貰えるんっスから!いいじゃないッスかー。ところで装備は結局どんなのにしたんです?」


「んー。…秘密」


「えぇーー?」



 あたりは暗闇に包まれ、唯一あかりが見える後方にある街も昼間と比べれば静かである。

 そんな街の外壁から木々の擦れる音。どこからが響く虫の音。

 星空はかなり近く見えるが月は無い。星明では流石に森を照らすには足りず、外界は黒1色で何も無い。

 そんな中でも一回目の襲撃対策として見張りは必要と判断したアインズ


 少し冷たい夜風にその金髪を揺らされながらユメキはシオリに愚痴を吐いた。



 まあ、報酬に装備を作って貰えるなら安いものかと。そう言いながら仕事を引き受けたのは自分なのだ。過去の自分を憎たらしく思うユメキ。


 それに付き合うシオリは…、まあ真面目に外を見ながらその場で技を考えたり、スキルの組み合わせについて試行錯誤しているようだった。



 ユメキはたまに外を見る程度。そこには何ら変わらない暗闇が広がるだけで変化などない。


 


「ほんとに見張りは必要なのかね〜…」


「まあ、いないよりましって感じじゃないっすか?昼はそこそこ見渡せますし」


「ちっ、こんなことなら他に探索に出れば良かったな」


 こんな暇なプレイングに付き合わせた身として、ユメキはシオリのことを気にかけながら少し申し訳なさを感じていた。


「ほら、先輩ちゃんと感知のスキル使ってくださいよー?もしかしたら大軍勢がすぐそこまで近づいてきてるかもしれないじゃないっすかー」


「んな大群来てたらさすがに…」


「ん?先輩?」



 さすがに気づく。そう言いかけたユメキの言動が唐突に止まり、それを不審に思ったシオリがユメキに再度呼びかけた。


「あははッ!おいシオリ!見張りから戦闘員に昇格みたいやで!!」


「わぁー…。ちなみにどれくらい?」


 ユメキは飛びっきりの笑顔で振り返り。





「大量♡」


「おぅふ…」


 にししと笑いながら言い切った。ユメキの視界に表示されている地図、〔気配感知〕により表示された敵のアイコンは夥しい数を表示していた。





*







カーン!カーン!カーン!




 静かな夜の街に響き渡る鐘の音。街全体に向けた異常事態を知らせる鐘の音がうるさいほど聞こえてくる。

 古典的な術ではあるものの、異常事態を知らせるという役目を分かりやすく示していた。実はシオリが一生懸命全力で鐘を鳴らしているのだが…。


 そんな懸命さ相まってか、街の中心にいたプレイヤーにもその深刻さを伝えることに成功する。




「ダイチさん!ほかの皆さんは?」


「…リアル、呼んで来る。…指揮は任せた」


「了解しました。あなたにも手伝って貰いますよ?」


「私はそろそろ就寝時間なんですが…」


「いいじゃない。夜更かしもたまにはいい景色が見られるわ」




 ダイチがリンやその他アインズメンバーを呼び戻すためにログアウト。

 指揮を任されたセリエル。

 ログアウトのタイミングを逃し、悲しきかな。このまま残業が確定したビュア。

 それを、どんまい!といったいい笑顔で慰め抉ったサーニャ。



 3人は、作戦会議用の部屋から外へ向かい。その夜空を見上げる。


「暗闇で見えませんね」


「〔暗視〕で見てるけど何もいないわよ?」


「ふむ、鐘が鳴ってるのは…、西?」


「はい。西で間違いありませんね」



 3人は鐘の鳴る方角へ飛んでいく。あたりのプレイヤーもだいたい装備を身につけその方角へ向かい始めていた。

 

「どう動く?」


「まず敵を視認しなければなんとも。サーニャさんの索敵を頼りにしていきたいのでよろしくお願いします」


「私は透明で敵の後ろにまわりたいですね。生配信すれば状況を伝えれますしセリエルさんは確認しててくださいね?」


 ちゃっかり自身の配信を見ろと宣伝を混ぜて来るあたりビュアらしい。



「安心してください。ちゃんと登録はしてますから」


 ビュア。歓喜である。


「さあ、戦いの時間ですよ!」


「特大のネタです!張り切って殲滅します」


「素材取れたら後で加工してよね!」




 3人は外壁にたどり着いた。









*







「…やっと…。やっとノルマ終わった…ぞ」


「さすがにご苦労様ですわ。ハルトにしては逃げずに頑張りましたわね?」


「一言余計だっつの…。あー…、ダメだ。反撃する余裕もない…」


「ほんとに珍しくバテてますわ。明日は静かで良さそうですわね」




 ここは街の一角にある鍛冶場。ハルトは鬼のように任された武器作成の依頼をやっとこなし、大量に作った武器はそれぞれ希望するプレイヤーに振り分けられていった。

 ハルトは汗ひとつかいていないものの。ゲームいぜんにメンタルが疲れきっており元気がない。ゲーム内では汗はかかないが疲労はするのである。


「よし…、俺はログアウトするぞ…。もう夜だし寝る」


「まあ、私もそうしますわ。夜更かしすると明日しんどそうですし」



 ふたりがログアウトするためにメニューを開いた瞬間。




カーン!カーン!カーン!




 響き渡る鐘の音が、2人の指先を止めた。




「…」



「寝るな。ということですわね?」


「誤報じゃなくてか?w…」



「ならハルトだけ寝ててもいいんですわよ?私がサクッと終わらせてみせますわ」


「ほざけ、ここまで来て不参加はねぇだろ」



「ふん。足でまといにだけはならないでくださいですわ」


「うっせーぞw。むしろ逆だぜ」




 夫婦円満な会話の後、2人は鍛冶場をあとにした。

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