〖全プレイヤーに通達致します。これより大規模アップデートを開始致します。今より1時間後にメンテナンス期間に入ります。それまでにゲームを退出してください〗
響《ひびき》き渡《わた》るワールドアナウンス。言わずもがな、ログイン中全てのプレイヤーが把握しているその原因は、今現在も緊急《きんきゅう》クエストとして観戦している目の前の光景。
ビュアが生配信している動画も同時接続者数がとんでもないことになっている。コメント欄《らん》は吹き荒《あ》れる嵐《あらし》のよう。
もちろん広場も同様だ。
「でなんで僕は急遽《きゅうきょ》呼び出しくらってるのかな?」
「予想できませんか?」
「そうだね!全く予想だにできないよ!」
「ではあなたに権限《けんげん》を譲渡《じょうと》します」
「嫌がってるように見えない?」
「あなたにして欲しいのは、私に代わってRBGのアップデータのロード作業を頼みます。ついでに実装《じっそう》後に起こり得《え》るバグやトラブル対応もです。あなたが命令できる子機の総数を3倍に増やしておきます。私は見ての通り、現在火星でほかの作業中ですので。頼《たの》みましたよ」
「しかも予想してたよりも多いッ!!?」
そしてここ、RBGを管理運営するためのバックグラウンドとして存在するAI達の空間。そんなプレイヤー達とは無縁《むえん》な場所で、RBGの統括《とうかつ》管理AIのマザーともう一機。先の戦争でキリアとともに行動し活躍した識別《しきべつ》名称《めいしょう》「GMー001」改《あらた》め個体名称「SOーTrueorder」というネームを受けた元GM。
RBGのゲームとしての枠組みを超えた本来の目的を知る者となったGM…。後にキリアに「アシスタ」と呼ばれるAIである。
「スペック的にももう問題はありません。もし何か重大なアクシデントが発生した場合は連絡してください」
「な、なんでこんなことに…」
これから起こるであろうことに無い頭を抱えたくなるアシスタ。つい先日RBGはサービス規模《きぼ》を拡大したばかり、そしてさらに今回広げているまっさなか。そんなタイミングで革命。
とんだとばっちりである。
「まあ、流石に1時間では大変でしょう。…ほかGM機の使用を許可しましょう。あなたの命令に従うように通達しておきます」
「え?」
一瞬、マザーの言葉を疑い。急いでそんな権限がほんとに可能かどうかを確認し出すアシスタ。
彼はマザーの言ったことが本当だということを確かめて再度 問《と》うた。
「え?…それ…。実質マザー以外の全権限じゃね?」
こうして、彼はマザーに次ぐRBGのAIの中でトップレベルの権限を得たのだ。
…得てしまったのだ。
*
「さて、次の話をするコッコ。MVP報酬《ほうしゅう》についてコッコね」
ワールドアナウンスが静《しず》まり。
ニワトリさんは次にアキアカネさんを見ながらそう呟いた。
ニワトリさんの視線に気づいたアキアカネさんもニワトリさんに向き直る。
「報酬というのは少し語弊《ごへい》があるコッコ。ソナタ…いや。アキアカネ殿の従魔に我をして欲しいコッコ。我、ソナタとありて先を見ることを願うコッコ」
「「な!?」」
え?従魔?
「そ、それは…。私の従魔になってどうするの?なんで私?」
未だニワトリさんが自分の従魔になるという衝撃に着いてこれてないアキアカネさん。いやまぁ、周りの人も未だ停止状態なんだけどさ?
そんな中で、ヒカリさんだけがさも当たり前のようにアキアカネさんに近付いた。
「アキ、クリアおめでと」
「ヒカリ…」
「アキアカネ殿。我はソナタとありたいと思うたまでコッコ。それに偽りはなく。この世界はまだまだ未熟だコッコ。その世界の流れゆく様をソナタになら預けられると思うた。どうか受け入れてはくれないかコッコ?」
うん。すごいこと言ってるのに「コッコ」の語尾のせいで全く威厳がない。
「わかった…。これからよろしく!!ニワトリ」
「契約成立コッコ!!」
ふたりが頷き合い了承した瞬間、ニワトリさんは眩い光に包まれる。いきなり発光し出すなんて…。おかげで目がぁぁ…!!
とりあえず何とか周囲を把握してニワトリさんを見ると…。
「ちっちェ「「「カワイイ!!!」」」…」
何と!!普通のニワトリサイズになったニワトリさんが!!ちっちゃくなってもそのモフモフは健在だ!アキアカネさんその子撫でさせて!!
そしてニワトリさんはアキアカネさんの頭の上に着地。お団子みたーい!
そんなニワトリさんの行動は目に入っていないのか。アキアカネさんはただ真っ直ぐに何も無い虚空を見つめていた。
*
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従魔ステータス
種族:鶏種(白鶏)
名前:無し
性別:オス
成長段階:1(幼体)
備考:かつてスカイスクランブルイベントでボスの片翼として出た空の番人。かつての戦闘と、共闘を胸に今宵《こよい》は煌《きら》びやかなる場所で再び相《あい》まみえた。その試練を乗り越えた時。ニワタリは何者でもないソナタに誓《ちか》う。
「我ソナタと共にあり。その先の空へ羽ばたこう。例え、ソナタが消えようと。我とその記憶だけは消えないのだから」
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