一気に加速し、本来なら中の人に何Gかかるかわからない加速度で発艦したコメットは、そのまま進路を一定に保ちしつつ、暗闇の中を突き進んでいく。
たぶん、後方には地球があるんだろうけど、ここからは残念ながら見えなかった。
『それではご到着までしばらくお寛ぎください』
展開されたフォログラムを消しつつ、こちらに向けて一礼するマザー。
私たちも、窓際から先程のソファに戻りつつ。これまたいつの間にか準備されたのか。テーブルの上に置かれたクッキーを食べながらユキ達と過ごした。
*
「そろそろご到着します」
「あれ?もう?早かったね?」
「ナユカがいっぱいクッキ〜食べちゃうからこれくらいがちょうどいいんじゃな〜い?」
だって美味しかったんだもん。
「着きましたら、「リリース」の皆さんは私の後ろを着いてきてください。ポータルまで案内致します」
『きたー!!』
『凄い!艦隊だ!』
『護衛艦豪華!』
凄いね?コメントの中にチラホラとこのコメットが見えたみたいなコメントあるけど。わざわざそれを見るためだけに宇宙港に来たの?
窓の外を見れば確かに宇宙港と、そのさらに下には遠目に火星が見える。
初めて見たけど、見た目はパッと見地球みたいにだ。ただ、土地が多く緑豊かで、海の方が少ない。雲なんかもちゃんと有るけど、地球より少し多いいようにも見える。偶然かもだけど。
そうやって火星を眺めていると、コメットはいつの間にか、音もなく発着場にたどり着いた。そこから、今度は港に向かう。
しばらくして、コメットは無事火星の宇宙港に停泊した。うん。今思ったけど、終始揺れなかったし、とっても静かで快適だった。
「お疲れ様でした。今から火星のポータルまで因幡様がご案内致します」
あれ?
「マザーは来ないの?」
せっかくここまで来たのに、マザーだけ来ないのは可哀想というか…。
「私は少し、やることがありますので。ご安心ください。それが終われば私も火星に降ります。ライブ前には追いつくでしょう」
「なら良かった」
「ナユカは自分の心配をした方がいいんじゃな〜い?今から人目に出るんだから〜」
う、確かに。これから火星に入る過程で避けられないんだけどさ。
『人すげーいるぞ?』
『白雪姫目当ての人もいるな』
『火星のプレイヤーからしたら、一目見る価値はあるからな!』
『アイドルなんだし諦めな笑』
と言った具合で、RBG公式イベントとして火星を訪れる私たちを見ようと待ち構えている火星のプレイヤーが、下で待ち構えているらしい。
「ナユカはこのまま真ん中で〜。私〜、因幡さんが先頭。次にナユカ〜。その後ろにヒカリとアキアカネ〜。ビュアは好きな所でカメラ回していいよ〜」
「さすがユキさん。わかってますね!」
「ん。問題ない」
「了解!」
パパとママは出迎えてくれた防衛省の人とともに先に別口から火星に降りるらしく。先程出ていった。いいなぁ〜。ずるい。
「ナユカが今日の主役だからね〜?」
私が先に行ったパパ達のことを考えといると、ユキが私の表情から感情を何となく察したのか。私に釘を刺してきた。でも私は思う。それってさ。
「ユキも主役なんですけど?」
「私はついでよ〜。ついで〜」
果たして、白雪姫として名を馳せているユキがついでなら、私はそこら辺のモブなのでは?と思わなくもない。
「あぁ、そうそう。ナビィさん」
『なんでしょう?』
身支度を整えていると、今度は因幡さんがナビィに話しかけていた。
「ナビィさんに、宇宙港の警備ロボとシステムの1部貸し出しの許可が降りていますよ」
『有難く使わせて頂いても?』
「もちろん。くれぐれも那由花様に危害を加えさせるな。と厳命されていますので」
なんか、すげー要注意人物みたいな扱いだね?ただの小娘ですよー!…姫らしいけど。
「はい。ナユカ〜。これをどこかに持っておいてね〜」
「ん?はーい」
あれ?これどこかで見たことあるね?なんか半透明な丸いもので、縁に色々と幾何学な模様が施されていた。どこで見たんだっけ?
"
「これはなゆかを護ってくれるよ〜!だから…。しっかり持っててね?」
"
っ!?
「ユキ」
「ん?な〜に?」
私はその預かったものをユキの手を取り受け取らせる。
「ちょっ!これはナユカの
「ユキが持ってて」
有無を言わせない私の気迫にやられたのか。ユキは言葉をつまらせながら私を見る。
もう、私はあんな思いはしたくない。手の中から消えてく温もりを、こんな無機物なもので補いたくはない!
「私はもう…。守られてるだけじゃないよ」
「…。わかった。…けどこれはナユカのね?私は別にもう一個持ってるから」
あんれぇ?
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「うぅ…」
なんか、結構恥ずかしい。確かに緊急事態でもなんでもないから、ユキの分があるのも頷ける。早とちりした。
「みんなにも配ってるし」
そう言って苦笑いしてくれるユキ。その優しさが辛い。いっそバカにしてくれた方が楽なんですけど?
そんな私が羞恥に悶えていると、ユキはそっと私に抱きついた。ってちょっと!?
「ありがとね」
私はユキを振りほどこうとしたけど。そんな気は一瞬で吹き飛んだ。
「ん」
私は守られるだけの存在じゃないと。ユキにわかってくれた気がしたから。
この後、思いっきりビュアさんにカメラ回されてたと知った私は。もう一度羞恥に悶えることとなる。
謀ったなっ!!?
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