全方位から3種類の波状攻撃を受けるユキ。だがしかし、大きく動きながらもしっかりとユキ自身の頭にはちゃんと回避出来る道が見えているのか。迷いなくその弾幕の中を舞っていく。
ユキの動きはデタラメに回避するだけに留まらず、弾幕の誘導や、一手先の状況を考えて作り出した動きだ。
そんなユキの動きを見ながらセバスは少し不思議そうにする。
やがて弾幕が薄まり、ユキがお返しとばかりに氷弾を大きくわけ、外回り、直線、時間差で多種類の軌道を描きセバスを穿つ。
少量被弾しつつもセバスはまだ余裕そうに着地し、スタスタと姿勢ただしく歩き出した。
「姫様はどこか歪ですね?」
「一体なんのことかしら?」
セバスは近付き、ユキは一定の間合いを逃さないように動く。
「それだけ綺麗なロールプレイ。リアルの詮索はしませんが、それなりの教養を必要としたようにお見受け致します。が、それと同時に戦闘技能も長けている…。むしろ戦闘技能では私など足元にも及ばないでしょう」
「…」
「そんな貴女がなぜこんなゲームを?」
セバスは歩みを止め。
ユキは地面に着地する。ユキの表情は何故か良くは伺えない。
「私は…。お姫様じゃない。身近にそんな人が居たからそれなりに知ってるだけ。作り物だけど…ね」
「左様ですか。わたくしめの目には立派に見えるのですが」
「あら?偽物の姫にガッカリした〜?ならさっさと…」
「何をおっしゃいますお姫様!このわたくしめを置いていくなど言語道断!」
「…決めた…。あんたには素で行く…、なんか嫌」
「お姫様!お言葉使いが…」
「【アイスピック】ッ!」
セバスが言い終わる前に技を飛ばすユキ。
ユキは一本の細い氷…いや。
(水!?)
細い水の魔弾を超高速でセバス目掛けて飛ばす。
その速度は一瞬でセバスの目下に迫るほど。不思議なことに空気抵抗をものともせず、形状そのままで突き進む魔弾。
セバスは何とか少し身を横へずらすことで回避成功…。かと思われたが…。
「なっ!?」
直前でいきなり空気抵抗を思い出しましたー!と言わんがごとくいきなりその水は形状を崩し、まるで蒸発するがごとく粉々になりセバスに降りかかった。
幸い、粉々になる過程でそのほとんどの威力を失った魔弾はダメージらしいダメージを与えてはいない。
目くらましかとセバスはユキの次の行動を警戒するがユキはそのまま何もせずに浮かぶだけだ。
「…。今の間に攻撃すれば良かったのではありませんか?お姫様」
セバスは何もしないユキを視界に留めたまま、そう本人に問いかけた。
そう、今の目くらましのさなかに攻撃すれば自分を倒すことなどできたであろうユキに。
だがしかし、ユキはそのまま何もせずセバスに言い放つ。
「いや…。もう終わってるよ〜」
「はて?わたくしめには終わりには見えないのですが…」
何かあるのかと視線だけ動かすセバスだが異常は感じられない。
「私ね〜。昔から白雪姫なんて呼ばれてなかったんだよ〜?魔法革命が起きてからも、雪を見つけるまで似せることしか出来なかったんだよね〜」
まるでほんとにもう終わったかのような口ぶり、そして態度。ユキは懐かしむような、どこか少し憐れむように語り出す。
「だから、考えて考えて結果〜。ひとまず〔水〕を極めておこうと思ったんだ〜。ねえ?もしも水浸しの人間が高高度に留まってるとどうなると思う?」
「…ッ!?」
「もしも【凍えるの世界】が動き続けたらどうなる」
そう、ユキとセバスがいる場所は浮島であり、その下には果てしない雲海が広がっている。つまり標高は高く、平均的な気温はゲームだから感じないだけでかなり寒い。
浮島内は現実ほど寒くは無いがそれでも寒い場所なのは変わらない。言わばRBGはリアルがフィールドギミックになるARゲーム。
今のセバスはそんなさなかさらに水浸しであり、オマケに【凍える世界】も追加で冷気を出している。
「〔火〕を!?」
「基本的に私は絡め手を使う〜。相手をどんどん不利に追い込んで確実に殺る為に。だからもうあんたは終わってる」
ユキがそういったと同時に、セバスは状態異常:凍傷を、そして…。
「水浸しだから凍るのも早いね〜」
手や足先が使用不可状態にまで以降する。〔火〕を出したセバスだが、それをユキは水弾で撃ち落とし速攻で消していく。
「なるほど…ですがまだ…」
「いや。終わり〜【氷点下】」
セバスが行動に移す前にユキが技を唱え、そして。
セバスに上空から氷弾が連続で落ちてくる。
それは元々【凍える世界】の氷を出し連続で砕く機構をそのまま撃ち落とすに切り替えただけだが、もはや動けないセバスは被弾。被弾と同時にさらに体は凍りついて行く。
「凍結させるのは結構時間かかるんだよね〜」
そしてセバスは呆気なく氷像となりユキに砕かれてしまった。
後に残ったのは不自然に凍った1部地域と。
「流石にもうあんな変態とは会いたくないかな〜…」
戦闘技のドレスから普段の雪のコートに切り替えながら歩き出すユキだけだった。
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