「復旧作業はどうなっているかな?」
「以前、沈黙したままです」
大きなビルのように太く、高い建物。衛星軌道ポータル。そこに付属する防衛省地球支部と、その他行政機関。
ナユカ達が住む場所より少し離れたここに、地球の主要機関が集まっている。もちろん、ある程度であるが…。
過去の大戦により、国境が消え、国土というものが宇宙進出に伴いほぼ無限となった現代。
最後の大戦を期ににしばらく大きな争い事も無く、平和が続いた太陽系であったが、1人の来客により浮き出てきた問題がある。
太陽系外の生命体による、侵略。戦争の可能性だ。
そのため、最後の大戦以降、惑星同士の牽制として存在していた防衛省が太陽系外からの防御、予防に変わり始める。
当時、まだ他の知的生命体にであっていなかった、太陽系の人間は彼女と初めてのコンタクトを楽しみにしていたという。
しかし、そんな彼女からの初めの一言は、「こんにちは」でも「よろしく」でも無かった。
「助けてください」
その当時、まだ因幡が防衛省の一職員だった頃。偶然仕事でその来客の護衛をすることになったのだ。もちろん、相手は覚えていなかったが、その時のことを思い出しながら現在のこの状況を鑑みる。
彼女の言った「敵」。
地球全域でのAIの停止。全ての電気機器は今の時代。全てAIが制御しているため、地球の全ての機能が止まっている。
有事の際の予備電源も、サブコントロールも全て何故か機能を停止していたらしい。
(予備電源はAIは関係ないはず。なのに電力が届かないということは…)
「メインコントロールルーム…。いや、どうやって侵入した?そもそも…」
メインコントロールルームはAI専用の架空の空間。つまりデータの中の存在である。
ピピッ!!
突然電子音が鳴る。
(なぜ?今はどこも電気はとおっていないはずですよ?)
「どうしましょう?敵…からですかね?」
「いや…。私が出ましょう」
そう言って因幡は応答を開始する。
『もしもーし?あれ?私ミスしたかなー?』
それは、ちょうど今頭によぎった彼女の声。
「大丈夫ですよ。花恋様。因幡です」
『あー、良かったーちゃんと線は通ったみたいねー』
「そちらはご無事ですか?」
『無事だわー。いまそっちに電気送りますねー?』
「ほ!?本当ですか?今発電所も動いてないはずなんですが…」
『うちで発電したやつだわー』
因幡は家に発電する場所があることに驚いているが、そんなことは後回し…。
「どうやってこちらに送るつもりで?」
『それは私がチョイチョイっといじってそこまでの回路を繋げたわよー?できるだけ大量に送れるルート探すのに時間がかかったわー』
「そうですか…」
「花の約束」。彼女のそれは地球にとって天敵であるが、味方だと心強い。
ほんの少しして、衛星軌道ポータル以外の主要施設で電源が回復する。
「さすがですね」
『どういたしましてー。今データを送るわー』
そう言うと、起動した司令室のメインモニター(ホログラム)にデータが表示される。
そこには今回の騒動の現状と、各惑星の動き、AI停止の原因予想が書かれている。
その中の一文に因幡は驚愕することとなる。
[ゲーム内にて米嶋 那由花、朝霧 雪を先行してマザー本体の救出、または破壊に向かわせている]
「はい?」
そもそも、ゲームのAIが操られて今回の騒動が起きていることも驚きだが、その打開策として娘を投入するとは思っていなかった。
因幡からすると米嶋夫妻は親バカ…。失礼。1人娘をとても大事に扱ってきたはずである。それもそのはず、まだ見ぬ、ガーデンプラントとこの太陽系との掛橋を担う少女なのだ。それ以前にガーデンプラントの姫は1人しかうまれない産まれないのだから過保護にもなる。
そんな大切にしてきた子をこの戦争に投入するだろうか?
「あの子の意思よ。私たちは止めないって決めたわ」
自分の目がその一文に止まっているのを察してか。少し真面目なトーンでそう言った花恋様。しかし、そうは言うものの、自分たちの争い事に娘を巻き込みたくは無かったはずだ。
それに打開策がこれ以外にできることが無いに等しい。あってもそれは、大勢の犠牲者を生む。
データの内容を見つつ、状況を理解していくにつれ、その意思を強く感じる。できそうな対策はもう既に試している。そしてそのことごとくが失敗し、或いは、断念せざるおえないと書かれていた。何とかして娘を巻き込まなくて済む方法を探して無かった。ということだ。
「私たちは何をすればいいですか?」
『サブコントロールルームに行って、できるだけ電力や施設稼働をして欲しいわー』
「了解しました」
因幡は即座に動き出し、指示を飛ばす。
今も必死に戦っている彼女達の負担をできるだけ減らせるように。
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