「おまたせ致しました。こちらが皆様に搭乗していただきます。「コメット」です。快適な宙の旅をお送り致します」
目の前には小さな宇宙船が、泊まっていた。
あまりゴツゴツした見た目ではなく、どちらかと言うと可愛い見た目をしている。「コメット」という名前らしいが、船体は卵のように丸みを帯びており、小型とは言ってもかなりの大きさだった。
ちなみに現在私達がいる宇宙港は、思いっきり大気圏から出ているため、本来なら息すらできない無酸素エリアなのだが、ここ宇宙港は人口的に大気を留めているためそんな心配はないらしい。
そんな説明を因幡さんはしてくれた。
「そろそろカメラを回しても?」
船を前に耐えきらないという感情を押し込みつつビュアさんは因幡さんに問いかける。今までは、私たちの進行ルートや護衛の関係上撮影禁止を言いつけられていたため、ビュアさんは待ちに待った。
「そうですね。そろそろいいでしょう。出発予定時間もまだ少し余裕がありますから。くれぐれも機密事項は漏らさないように」
「ありがとうございます!ナユカさん、ユキさん。カメラ回しますよ!!ヒカリさんもアキアカネさんも!」
許可が出た途端に、まるで水を得た魚のように生き生きとしだしたビュアさん。すぐに準備を整え、配信をスタートした。
『始まった!!』
『始まった!!!!』
『やっと!』
『リアルも可愛い!』
『ナユカリアルとゲームの差がない笑』
『というかほかのメンバーもほとんど変化は無いな?』
『誰が誰だかわかりやすくていい』
『本名は?』
『みんな若い!』
配信が始まったと同時に溢れ出すコメント。ビュアさんたぶん、配信予告でもしてたんだろうね。一瞬で視聴者が10万…。60万!?!?
「さすがにコメントが見えないくらい早く流れていくと、読めませんね?」
「ん。見えない」
「ナユカなら見えるんじゃな〜い?」
「見えても読めないから」
それからもどんどん人は増えていく。これ…、一応ゲームの仕事だけど、一種のイベントの扱いを受けてるみたいだね?
ちなみに、あとから知ったけど、公式からこの私たちの仕事に関して、予告があったようだ。
そう、仕事。
アイドルとしての仕事。普段地球で活動する私たちを、ほかの惑星、都市のプレイヤー達に生でライブするツアー。
私たちの太陽系1周ツアー。
初めての現実側での仕事だけど、私たちは現地に赴いてライブをして回る。そんな「RBG」初のイベントが、今回の目的だ。
ルートとしては
火星圏→土星圏→海王星圏→天王星圏→外縁天体都市群→冥王星圏→木星圏→内縁都市群→人工惑星E2→月→人工衛星都市→地球
という流れらしい。移動は比較的近い場合は惑星間航行で、遠い場合はテレポートゲートを使用して向かうらしい。
そして、現在では木星圏までしかサービスしていないRBGだが、このツアーと同時に、サービスを全体まで広げるらしい。
まあ、よくそんな広範囲まで広げられるよね?うちのナビィとトビィがマザーに協力して出来たとか。パパが色々手を回したとか…。ほんとに一体裏で何があったのか…。
そんなことは放っておいて、今回のツアーの道中も、イベントとして、公式とビュアさんのチャンネルから、その様子が配信されるらしい。そしてそれがこの注目度の原因であった。
「さて、じゃあ船内探索でもしよ〜か〜」
「ん。賛成」
「だね!」
『あれ?これ最新高速艇「コメット」じゃね?』
『あの世界に1隻しかない。超要人専用機とか言うやつ?』
『あ、これ、確か個別緊急テレポートシステム付けてる』
『テレポート弾も当たる前に跳ね返すとか言う…』
あれ?なんかとんでもないコメントが、超高速で流れて行ったけど…。この「コメット」って艦艇もしかして、えぐい性能なのでは?
『これひとつで地球上にある建物全てを我が物にできる価値があるという…』
OK。これは私は知らなかったことにしよう。
『同じ港に泊まってるの。護衛艦「シールド級駆逐艦」じゃね?』
『テレポートシールド持ちとか言う噂の?』
『それが4隻いるんだが?』
『後ろに、殲滅艦「アイビス級超戦艦」が見えるんだが…』
『…』
なんかヤバそうな見た目の艦…。確かにいるねぇ。
なんかさ、護衛に因幡さんが着いた時点で薄々感じてたけどさ!?めちゃくちゃ過保護に護られてませんかね!?私たちって、ライブツアーに行くんだよね!?!?決して戦場に向かったりしないよね!?
私はそんなことを考えつつ、何も知らないのか、ワイワイと「コメット」に乗り込んでいく4人を追いかける。たぶん、冷汗が出てるけど。そんなことすら気にする余裕はない。
とりあえず、顔が強ばらないようにするのが精一杯だった。
『あれ?なんか見たことない型の艦艇いない?』
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