*>>ニワタリ視点
所詮ウサギは数が多くすばしっこいだけに過ぎぬ。それは今目の前にいる一際大きなウサギのボスも同義だ。
「ここででしゃばって来よったか。トリカゴを捨てたお前がなぜこのタイミングで戻ってくる?管理すらできぬ無駄にうるさい声を撒き散らすだけの害鳥よ」
ああ、わかっていた。こいつは昔からとても口が悪い。煽るわ、侮辱するわ、終いにはコケにするように笑う。
ムカッとするがどうせここでムキになっても現状いいことはないコッコ。
「酉加護はプレイヤーに任せたコッコ。お主こそ策もなく子分どもを我の任せたプレイヤーに向かわせる愚か者めが。さすがコッコ」
「なにィィィィィィィッ!!よしわかったここであったが100年目その首。タンドリーにしてくれるっ!」
ちなみにこいつは煽る癖に煽られ耐性がない。こう煽るとすぐに反発する。わかりやすいコッコ。
「まあ、待つコッコ。あれが原因なのは見ればわかるコケが…我とて現状なぜ月そのものに干渉するほどの力を得ているのかが分からぬコッコ。そこでわざわざ聡明なお主(w)に聞きに来たのコッコ」
ちっぽけなプライドなぞ捨ててもいいコッコ。我はアキアカネと。リリースの一員になったのだ。なぜかは知らぬがそれはそれで退屈な日常とはひと味もふた味も違う新しいこの世界を見せてくれる。
「ふむ…?そ、聡明な俺の意見が聞きたいとな!?お前が??」
「そうコケ」
「お、おう…わ、わかった。そこまで言うなら一先ず原因から…」
とってもチョロいコケw
「その前に〜。自己紹介からかな〜。私はユキ。ギルド、リリースのリーダーにしてナユカのナイトだよ!」
「ふむ?人間…これがお前の任せたプレイヤーか?」
「厳密には違うコケが…今は色々あって我の主の所属するリリースのリーダー。我よりも偉いプレイヤーコケ」
アキアカネとはパートナー。そんなアキアカネの所属するギルドのリーダーがこのユキというプレイヤーだ。
彼女は我が見てきたプレイヤーの中で1番強い。頭もいいし、何より行動力がある。
天性の強さ、賢さ、美貌…
それ故に我は惜しいと感じてしまう…
彼女は常に「ナユカ」というプレイヤーに囚われてしまっているのだ。何をするにしてもナユカの傍から基本離れない。常に彼女に意識を向け続けているし、それ故にダメージを受けてしまうことを多々あった。
彼女は1人で全てができてしまうのに。彼女は自分からその鳥籠の中に大人しく居続けている。
…〔雪〕…
だから彼女はユキにこのスキルを渡したのだろうか?誰よりも自由で、誰よりも美しかった君…
「時間が無いから早速本題なんだけど〜。ウサギさん的には何が原因で月丸ごと巻き込んだ事件になってると思うの〜?」
「俺はインカだ。原因はあの浮島の中心に居るデケェ木だな」
「なんじゃと!?あれはただの老木コッコ。そんなパワーも魔力もないコッコ!」
何を抜かすかと思えば、こやつまさか適当に原因を決めつけておるのか!?
「あ?あー?そうかお前あの浮島ができた原因知らねーのか…」
「コケ?我が見つけた時には既に浮いておったコッコ!あれはそもそも大樹の真下にある結晶が地面ごと大樹を浮かせて…まさか!?」
我のお気に入りの結晶洞窟。あれは自然界、特に森林地帯などの地下に生成される資源…
その中でも一際大きな塊を持つのが浮島の結晶洞窟だった。あの結晶はその場所により様々な効果を内包する。
そのうちのひとつが〔浮遊〕を内包し大樹を根っこから持ち上げてしまった…のだと勝手に思い込んでいた。
「大樹の真下にたまたま結晶があると思ってたのか?んなこたねーだろ?」
「で、では大樹が結晶を生成したというのかコケ!?」
「そのまさかだぜ?あの大樹は元々月にあった。お前はその頃違う場所で遊んでたんだろうが、俺はその頃から月を住処に静かーに暮らしてたんだぜ?元々、月には木はなかった。どこから種が飛んできたのか?1本の木が生えた。それは月に豊かな自然を広げ、長い年月を見守ることになる」
その頃我は…ああ、追っかけっ子の最中じゃったコケ。
「ある日、大樹は真っ直ぐに伸びていた幹を曲げ成長をやめちまった。が、代わりに根っこが成長するようになった。幹は不自然にとある星に向かって曲がる。根は成長しまくり、辺りにはそんな露出した幹と、それからさらに芽を出した木々が生い茂るまでになる」
「浮島の大樹の森ってゴツゴツしてて足場最悪だったもんね〜?」
「さらに長い年月後。突然月の軌道が少しづつ変わるようになった。当時は焦ったぜ?俺たちは原因を突き止めた後、その大樹を大地から切り離すことで何とか致命的な移動は免れた。その後お前ら鳥が勝手に住処にしたが、俺達には関係ない。なんせ月からはもう切り離したんだからな」
つまりこやつら、前にも同じようなことがあったから、今回も原因が大樹のある浮島だと判断しとるのだな?
「あれ〜?でもなんで切り離したのに浮島はそのままどこかへ行かず、月を浮遊するだけに留まったの〜?」
「しらん」
浮島は今や我の住処ではない。もしその大樹に何かあったとしても。我の知るところではない…
が、はいそうですかと古巣を落とされるのも気に食わんコケ!
「わかったコケ。インカ。協力するから一旦攻撃をやめて貰えぬか?」
「め、珍しいなんてもんじゃねぇな…お前、どうしたんだ?」
そんなにへんかのう?我はただ…いや、変わったのだろうコッコ。前までこんな奴に頼み事なんて意地でもしなかったはずコケ。
「我はニワタリ。アキアカネの従魔コケ」
少し、我は安心感と愉悦感を感じてしまった。
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